<書籍紹介>
アートセラピー(芸術療法)とは、絵を描いたり音楽を演奏したりすることによって、
何らかの障害や病気からの「治療」効果をもたらそうとする活動です。甲南大学の
講義科目に「芸術療法」という科目があるように、特に箱庭療法や音楽療法のような
アートセラピーは、心理療法の一手法としてすでに確立された学問的実践的地位を
もっています。もちろん、絵画作品を制作したり楽器を弾いたりすることで、どんな
治療効果があるのかを客観的に証明することは簡単ではないようです。それでも様々な
施設や病院で、求めに応じてアートセラピーの実践に取り組み、成果をあげている
専門家の方たちはたくさんいます。同時にその一方で、「癒し」という言葉が世間で
濫発されるようになるにつれて、アートセラピーも一種の流行現象としてもてはやさ
れてきた面があります。昨今では、商品やサービスの名称に意味もなく「セラピー」と
ついたものも見かけるようになりました。
このような現状を背景としながら、甲南大学人間科学研究所(KIHS)では、文部科学省
から助成を受けた研究プロジェクトの一端として、様々な専門分野の考え方をオーバー
ラップさせることにより、アートセラピーをめぐる諸問題を根本的に検討し直す試みに
取り組んできました。もともと、美しさや創造性のような価値の世界と、病の解明とその
治療を目指す科学的福祉的努力との間にはどのような関係があるのでしょうか。また、
アートセラピーの考え方が日常的に受け入れられるようになった現状から、私たちの住む
日本社会のどのような問題が見えてくるでしょうか。さらに、芸術療法をめぐる現在の
制度や価値観は、どのような歴史的経緯で形成されてきたのでしょうか。こうした数々の
問いかけは、とても興味深く、また意義のあるものです。しかしこれまでほとんどこうした
問題が正面から議論されることはありませんでした。この書物は、5年間にわたって
こうした課題に立ち向かった成果を、著書のかたちにまとめたものです。
本書は4つの部分から構成されています。創作と治癒を関連づける考え方が日本に初めて
導入された経緯を歴史的に解明する第1部。ヨーロッパやアメリカにおけるアートの歴史を
セラピーの視点から捉え直す第2部。治療や療育の現場における具体的な事例を、芸術や
哲学の視点もとりいれながらいっそう深く考察しようとする第3部。そしてアンケートや
インタビューの調査を踏まえながら、日本の現在の社会状況全体を見つめ直そうとする第4部。
それぞれの部分が、セラピストや芸術学者や学芸員や批評家による何本かの論文によって
成り立っています。全体を通読してみて、様々な観点からなる学際的研究の豊かさを感じ取って
みるのもよいでしょうし、目次に未を通して興味を持った論文だけを選んで読むこともできます。
■『 アートセラピー再考 -芸術学と臨床の現場から 』平凡社、2013年3月刊
■ 川田都樹子・西 欣也(文学部 教授)
「4.教員自著紹介」カテゴリーアーカイブ
編集委員 前田 忠弘(法学部 教授)他『 刑事法理論の探求と発見- 斉藤豊治先生古稀祝賀論文集 』( 成文堂、2013年1月刊)
<書籍紹介>
本書は、甲南大学名誉教授である斉藤豊治先生の古稀をお祝いして編集された論文集
である。近年、犯罪の予防と対策に対する関心が高まり、この領域における立法と
法改正が頻繁に行われている。
そこで本書には、そのような動向を反映する刑法、刑事訴訟法、少年法、刑事政策の
領域の論文、31本が収められている。
■『 刑事法理論の探求と発見- 斉藤豊治先生古稀祝賀論文集 』成文堂、2013年1月刊
■ 編集委員 前田 忠弘(法学部 教授)他
■ 先生からのお薦め本
加藤幸男・前田忠弘監修『司法福祉―罪を犯した人への支援の理論と実践―』(法律文化社・近刊)
大津真作訳『市民法理論』
<書籍紹介>
この本は市民法の理論となっていますし、原題は民法理論ですから、法学部の学生が
読む本だと勘違いされます。でもこの本が論じているのは、副題が「社会の根本原理」
となっていることから分るように、一体どのような事情があって人類が社会を形成して
きたのかというその謎なのです。
フランス18世紀末の社会思想家ランゲは、社会形成の謎をあっと驚く視点で解明しました。
彼によると、社会と奴隷制とは同時に生まれたというのです。ですから最初から社会には、
主人と奴隷がいたわけです。この視点は二つの意味で重要です。一つは社会形成の時に
どんなことが起こったか?です。恐ろしい「原初の暴力」によって社会は誕生したのです。
武器を持った狩猟民族が平和な孤立した農耕=牧畜民族を襲って、彼らの財産を奪い、
彼らを奴隷身分に無理やり落としたのです。この所有関係を明確にするために法律とくに
民法が作られました。
もう一つは、奴隷制は今も続いているというのです。どういう形で続いているのでしょうか。
それは日雇い労働者、つまり今で言う「自由な」派遣労働者を最底辺として、それに賃金
労働者の身分を加えた形での奴隷制が続いているというのです。でも、皆さんは誰一人
として奴隷じゃないですよね?
自由ですよね?ランゲによると、いや皆さんは最も恐ろしいものの奴隷になっていると
言うのです。それは餓死という悪魔の奴隷です。北九州市で生活保護を打ち切られた男性
が餓死していたでしょう?彼は誰にも雇われなかったから餓死したのです。また、ランゲは
「文明社会では国民の四分の三の貧困の上に国民の四分の一の富裕が築かれる」と
言います。図星でしょう?では、なんでこんな恐ろしい社会を人間は作ってしまったので
しょうか?そこから先は、この本を読んで皆さんが考えてください。
この本には、未来社会へのヒントも書かれています。ランゲは、略奪型の経済と餓死の
自由しかない社会とはシャム双生児だから、略奪型の経済をやめた時、本当に幸せな社会
を築けるのではないか、と示唆してくれています。ですからこの本はどの学部の学生も
一読すべき本だと思います。
■『市民法理論』京都大学学術出版会、2013年1月刊
■ 大津 真作(文学部社会学科 教授) 訳
■ 先生からのお薦め本
『新自由主義』デヴィッド・ハーヴェイ、作品社 ランゲの思想を延長すれば、現代の
グローバル資本主義の本質が解明されます。この本は現代社会の自由には二種類しか
ないことを教えてくれます。餓死の自由と略奪の自由です。恐ろしいでしょう?
上埜 進編著『工業簿記・原価計算の基礎』
<書籍紹介>
本書,『工業簿記・原価計算の基礎 ―理論と計算―』(Fundamentals of Factory
Bookkeeping and Cost Accounting)は,「工業簿記」や「原価計算」をはじめて
学ぶ方々にとって,信頼がおけ,かつ優しく学べる書物となるよう編集しました。
工業簿記や原価計算の学習では,多様なコンセプトや技法に遭遇しますが,記帳練習や
計算練習がきわめて効果的であり,「習うよりも慣れろ」の格言が当てはまります。
そこで,本書は,各章本文に数多くの例題を,各章末に「Questions」と「練習問題」
を収録し,読者が鉛筆と電卓を駆使して学ぶスタイルを想定したレイアウトを採って
おります。
また、随所に挿入した「コラム(column)」では,実務の現況にかかわるトピックスも
取り上げ、工業簿記・原価計算を身近なものにしています。国際化が会計の世界でも
進んでいることから,専門用語に英語表記も加えております。
本書の構成は次の通りです。まず,第1章に,工業簿記・原価計算の世界を概観できる
ように,関係する基礎的事項を紹介しました。第2章は材料費を,第3章は労務費を,
第4章は経費を取り上げ,これらの章で原価の費目別計算の仕組みを学びます。
続く第5章で製造間接費の計算を,第6章で部門別計算を学びます。
製品別計算については,個々の注文を計算単位として原価を集計する個別原価計算は
第7章で,期間の製造費用を集計し,集計額を生産量で除して単位当たり製品原価を
算定する総合原価計算は第8章と第9章で学習します。また、第10章では財務諸表を,
第11章では本社・工場会計といった、いわゆる工業簿記を取り上げています。
続く第12章と第13章で標準原価計算を,第14章と最終章である第15章で直接原価計算
を学びます。
本書を何度も読み返し、例題,Questions、練習問題を繰り返し解くことで日本商工会議所
簿記検定2級工業簿記の試験準備は万全となります。
■『工業簿記・原価計算の基礎』税務経理協会出版、2011年10月刊
■ 上埜 進(会計大学院 教授)編著
■先生からのお薦め本
『工業簿記・原価計算の基礎 ―理論と計算―』の学習を終えられた読者に,同じ編著者
による姉妹書で中級レベルのワークブックである『工業簿記・原価計算演習 ―理論と
計算―』を購入され,工業簿記・原価計算をさらに深く・広く学ばれますことをお勧め
します。加えて,同じく姉妹書である『管理会計の基礎 ―理論と実践―』や
『管理会計 ―価値創出をめざして―』を購読され,管理会計領域に学習を拡げられること
をお薦めします。
小池 滋・西條 隆雄編集『ディケンズ朗読短篇選集 Ⅱ』
<書籍紹介>
大作家であり、抜きんでた演劇家であり、成功した雑誌編集者であったディケンズは、
たぐい稀なる朗読家でもあった。マイクや音響設備のない時代に、2,000人の聴衆を
2時間にわたってことばの魅力に酔わせつづけた。ゼスチャーはほとんど入れず、声の
抑揚による表現が主である。芝居見物よりずっと高額であったが、回をますごとに聴衆
の数は増えつづけ、朗読回数は予定を大幅に超えた。
根っからの演劇人であるディケンズの、朗読への思いは強かったが、作家の権威を
落とすからとの忠告を受け入れ、長い間これを思いとどまっていた。しかし1853年末、
41歳のときに、職工の学校設立基金を集めるための慈善事業としてこれをはじめて行い、
これが大成功をおさめて莫大な資金を寄贈した。それ以来、朗読依頼はあちこちから
ひっきりなしに押し寄せてくる。
生涯で慈善目的の朗読は28回、1858年からはじめた有料朗読公演は450回、
どの場合も満席となり、入口で追い返される人の数はおびただしかった。
朗読用に編んだ台本は全21篇(うち未使用のものは5篇)で、本書に収めた6篇をもって
日本語訳はすべて完了した。涙を誘う「リトル・ドンビー」は、アメリカでこそ嫌われたが
イギリスでは大好評、また、ジンがプンプン匂う産婆兼看護婦のギャンプ夫人は、ピューリ
タンの国アメリカではそっぽをむかれるがイギリスではその人間臭さと語り癖が大いに歓迎
された。
しかし、「キャロル」「ピクウィック裁判 (PP, 34章)」「ニコラス」はディケンズが得意とする
笑いと涙をふんだんに備えていて、何時何処でやろうと大喝采を博した。
一方「憑かれた男」や「バスチーユ獄の囚人」はよくできた台本であるが、人間の本来的
善性の目覚めとか意識と無意識の境界という、どちらかといえば華やかさに欠ける内容を
扱っているので採用されなかったのであろう。ピリオドなしで口早にエピソードを繰り広げて
ゆく「リリパー夫人の貸間」は、音読すれば実に楽しい台本である。涙を誘う場面もある。
実際、シェイクスピア劇団の俳優を呼んできて甲南大学で朗読してもらった時、学生の
皆さんの反応はおどろくほどよかった。すぐれた文学は朗読に耐える。
そして音読をしてこそ作品のよさは倍加する。ぜひ手にとって試してみて下さい。
■『 ディケンズ朗読短篇選集 Ⅱ 』
■ 小池 滋・西條 隆雄(元 文学部教授)編集
甲南大学ビジネス・イノベーション研究所 編(著)『ビジネス・イノベーションのプラットフォーム :東アジアの連携に向けて 』
<書籍紹介>
BI研究所では、2010年に文部科学省私立大学戦略的研究基盤形成支援事業
(地域に根ざした研究)に「関西地域発イノベーション・プラットフォームの構築」
プロジェクトが採択され、研究を進めてまいりました。
この度、その成果をまとめた『ビジネス・イノベーションのプラットフォーム』
(甲南大学ビジネス・イノベーション研究所編)を2012年11月30日付で同文舘
出版より発行することができました。
関西地域と東アジアの連携による創発型イノベーション・プラットフォーム機能
について理論,事例,実証研究の観点からアプローチし、本プロジェクトに取り
組んだ12人の研究者によって本書は執筆されています。
■『ビジネス・イノベーションのプラットフォーム:東アジアの連携に向けて』
■ 編著者:甲南大学ビジネス・イノベーション研究所
■ 目次および執筆者
第Ⅰ部 連携強化に向けたプラットフォーム機能
第1章 マルチサイド・プラットフォームとイノベーション:中田善啓*1
第2章 プラットフォームと流通・商業の親和性:西村順二*1
第3章 提携形成におけるファシリテーターの役割:三上和彦*1
第Ⅱ部 イノベーションに関する事例
第4章 国際連携に関する比較研究-国際ビジネスとイノベーションの創発
:杉田俊明*1
第5章 東アジアにみる「創造」と「イノベーション」
-中国、シンガポールの産学連携モデルからの示唆- :マノジュ L.シュレスタ*1
第6章 東アジアのベンチャービジネス環境の現状と課題 :倉科敏材*2
第7章 韓国企業のイノベーション-日本企業はどう対抗すべきか- :高 龍秀*4
第8章 法人企業におけるイノベーション支援の政策税制の日韓比較 :古田美保*1
第Ⅲ部 東アジアと日本の実態比較
第9章 企業目的に関する日韓企業の実比較 :馬場大治*1
第10章 IFRS導入意識に関する日韓企業の実態比較 :若林公美*1
第11章 IFRS導入とIT、管理会計に関する日韓企業の実態比較:長坂悦敬*1
第12章 日韓大学生のキャリア観に関する実態比較:尾形真実哉*3
*1甲南大学経営学部教授
*2甲南大学経営学部特任教授
*3甲南大学経営学部准教授
*4甲南大学経済学部教授