4.教員自著紹介」カテゴリーアーカイブ

大津眞作著『思考の自由とはなにか -スピノザとシモン・ランゲにおける自由-』

<教員自著紹介>
この本は題名の通り、思考の自由について考察したものです。
思考というのは、皆さんは初めから「自由」だと思っているでしょう?
でも、決して思考は自由ではないのです。人間がやっていることは、
神様がやっていることと決定的に違っていて、すべてが限界を持って
います。その限界とは何かというと、恐ろしいことに、それは「現実」
の限界、つまり本当にこの世に存在する物質的条件や環境の限界性なの
です。想像力を考えてみて御覧なさい。それはすべて現実に「切れ端」
として存在しているものばかりでしょう?鉄腕アトムは、原子力エネル
ギーの物理学的発見がなければ、想像できなかったことでしょう?
私はこの本で、人間の思考はすべて必然的であって自由ではない、と
主張しています。そうすると、思考を変えるには、考え方を変えるには、
現実を変えなければなんともならない、ということになるでしょう?
そしたら私たちは、すぐに卵が先か、ニワトリが先かという問題にぶつ
かります。私は、この本のなかで、思考の自由を主張する哲学者を取り
上げて、彼がなぜ自由を主張したのかを研究し、一つの結論に至りました。
すなわち、自由を主張する人々は、すべて現実に自由を持っていない人々
なのだ、というのがその結論です。ワイルドでしょう?
ですから、思考を現実につなげることがとても大事なことなのです。

■『思考の自由とはなにか – スピノザとシモン・ランゲにおける自由 – 』
■著  者 大津 眞作 文学部社会学科 教授
■請求記号 133// 2021 
■配架場所 1階開架一般
■ 先生からのお薦め本
 『倫理の大転換』(行路社) 私の本です。私が翻訳したランゲの
 『市民法理論』(京都大学学術出版会)。高い本ですが、現在の貧困な
 現実を考えるのにとても役に立つ本です。

西山隆行 著・編集『マイノリティが変えるアメリカ政治』

<教員自著紹介>
2012年の米国大統領選挙は現職のオバマが勝利しました。景気が悪く、失業率も
高い中、黒人の9割、中南米系の7割がオバマに投票し、オバマはマイノリティに
よって選ばれた大統領となりました。
2050年には白人が少数派となると予想される米国で、マイノリティの支持を背景
とする民主党が優位を確立するのでしょうか?
本書は『白人の国』でなくなりつつある米国政治の地殻変動を解明します。

■『マイノリティが変えるアメリカ政治』
■ 著・編集 西山 隆行 法学部 教授
■ 請求記号 312.53 // 2120 
■ 配架場所 1階開架シラバス
■ 先生からのお薦め本
  西山隆行『アメリカ型福祉国家と都市政治』2008年

☆2013年8月20日 付記
 西山先生が2013年8月14日(木)のNHK「視点・論点」で、
 この本の内容を元に「アメリカ移民法改革の動向」について解説されています。
 詳細はこちら

浜田隆史訳『認知神経科学の源流』

<教員自著紹介>
原著のタイトルは「心の生理学についてー心理学と生物学の関係史」。脳科学や心理学は、
数世紀もの昔から、脳は如何にして心を生じさせるのかを問うてきた。その歴史はと言うと、
時代精神や偏見に押し流され紆余曲折するという、いわば惨憺たるものだった。著者は
フランス・リヨンを本拠に国際的に活躍した神経心理学者。

■『認知神経科学の源流』
■ 訳者所属:浜田 隆史 広域センター 非常勤講師
■ 先生からのお薦め本
 『La nature de l’esprit(心の性質)  
 Marc Jeannerod, édition Odile Jacob, Paris, 2002
 「認知神経、、、」と同じ著者が最近に行った研究をまとめてある。精神医学、行動、
 脳イメージングなど様々な手法を使って、心の脳メカニズムにせまっている。その内容の
 深さ/多彩さに私は腰が抜けそうになった。

高石恭子編『子別れのための子育て』(編)

<教員自著紹介>
今日の子育てをめぐる状況は、二極化しているように見えます。一方は虐待・
ネグレクトなどの子ども拒否の問題。もう一方は少数のわが子を大事に抱え
込んで育てる密着の問題です。親子の密着は、子どもが小さいうちは「よい親
とよい子」の二人三脚として社会からも肯定的に受け止められますが、
そのまま時間が経過したとき、親と子が相互に依存し合い、子どもの巣立ちを
阻害することにもつながります。本書は、そのような今日の子育てのあり方について、
敢えて「親と子の分離」、そして子育てのゴールである「子別れ」という視点から、
心理学・社会学・現代思想など学際的な考察を行った論考集です。親子の心理、
子育て支援などに興味のある方に、広く読んでいただきたいと思います。
なお、本書は文部科学省の「私立大学戦略的研究基盤形成事業」の助成を受け、
甲南大学人間科学研究所が展開してきた共同研究プロジェクトの成果をまとめた
叢書の1冊であり、同様の書籍として、これまで「現代人と母性」(新曜社)、
「育てることの困難」(人文書院)も刊行されています。

■『子別れのための子育て 』(編)
■編者所属:高石 恭子 文学部 教授
■その他の近著・訳書
 「臨床心理士の子育て相談」 人文書院 2010年
 「学生相談ハンドブック」(共編) 学苑社 2010年
 「12人のカウンセラーが語る12の物語」(共編) ミネルヴァ書房 2010年
 「学生相談と発達障害」(共編) 学苑社 2012年
 「ヒルガードの心理学」第15版 (分担訳)金剛出版) 2012年

森 茂起、港道 隆編集『<戦争の子ども>を考える- 体験の記録と理解の試み』

<教員自著紹介>
第二次世界大戦が終結して七〇年近くになる。そこに吹き荒れた暴力は
その後の世界に、物的・人的な被害ばかりでなく、トラウマという形で
人々の心に深い傷跡を残した。その意味では戦争は終わらない。
その後も戦争、地域紛争、テロリズム、差別は絶えることなく、被害を
生みだし続けている。そして東関東大震災、幾多の犠牲者、幾多の恐怖、
幾多の苦悩、見えない未来。こうしたコンテクストを踏まえて本書は、
子供時代の戦争体験に注目した調査研究をメインに、次の四部構成からなる。
 第一部「〈戦争の子ども〉の時代の記録と検証の試み」には、関西地区を
対象に、心理学および歴史学という二つのアプローチから行なった戦争体験の
聴き取り調査をもとにした報告と考察、「関西地域における「戦争の子ども」」
(藤原雪絵)と「疎開体験の調査——精道国民学校の場合」(東谷智)を収め、
その間に、口述証言をテーマに二つのアプローチの関係を方法論的に考察する
「「国民の子ども」における心理学的研究と歴史学的研究の相補性」(人見
佐知子)が介在する。「序論——「戦争の子ども」研究の意義」(森茂起)は
、第一部の序説であるとともに、全巻の序説でもある。
 第二部「戦争を生きた子どもたち」は、ミュンヘン大学のM.エルマン氏を
招いて本学で開催したシンポジウムの記録である。第二次大戦における「加害者」
として自らを位置づけてきたために埋もれてきたドイツ市民の被害者性を掘り
起こした調査研究についての氏の発表、東京都墨田区立すみだ郷土文化資料館で、
描画によって空襲体験者の「語りえない記憶」を蒐集し展示してきた経験の報告
「語りうる戦争体験、語りえない戦争体験」(田中禎昭)、NHKで戦争体験の継承
を模索しつつ番組「祖父の戦場を知る」に携わった経過の発表「戦争を生きている
子どもたち——祖父の戦場」(大森淳郎)は、大学における学術研究とは異なる場
での実践報告であり、討論会の記録がそれに続いている。
 第三部「〈加害‐被害〉関係と和解、そして赦し」は、暫定的綜合である「戦争
体験にみる「加害」と「被害」」(森・人見・エルマン)と、和解と赦しの関係の
哲学的考察「喪、赦し、祈り」(港道隆)からなる。
 本書は、文部科学省の「私立大学戦略的研究基盤形成支援事業」の助成を受けて
甲南大学人間科学研究所が2008年から続けてきた研究成果の一つである。

■『 <戦争の子ども>を考える- 体験の記録と理解の試み 』平凡社 2012年
■編者所属:森 茂起 人間科学科 教授、港道 隆 人間科学科 教授

森 剛志,後藤 励共著 『日本のお医者さん研究』

<教員自著紹介>
 収入・世代間格差や機会不平等は医師にもある!
超多忙な勤務医、地方の医師不足、厳しい医療財政など問題山積の中、
医師自身は子の教育や日本の医療制度をどのように考えているのか。
全国の医師へのアンケート調査とデータから、日本の医療問題と医師
の実態を浮き彫りにした書籍である。おそらく、このような「日本の
医師に関する実態調査を本格的に行いまとめた書籍」は、21世紀に
なって初めてであろう。
「医師の団塊ジュニア世代」以降に生を受けた医師は、医師不足や過酷
な勤務状況下で疲弊し、開業するにも不安がつきまとい、自分の子も医師
になって欲しいという願望は強くない。一方、年配の開業医は裕福で、
半数以上が男の子を医師にしたいと考えている。
年代や勤務形態で格差が広がりつつある中、医師たちは、どのような医療
システムが望ましいと考えているのか。財源の公私分担をどのようにすべきか、
どんな医療技術を保険適用すべきか、限られた医療資源をどのような患者に
優先すべきかなどのテーマを、アンケート調査から分析し、望ましい医療シス
テムを探ってみた。

■森 剛志、後藤 励共著 『日本のお医者さん研究』東洋経済新報社 2012年
■著者所属:森 剛志:経済学部 准教授
     :後藤 励:元・経済学部 専任教員