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[藤棚ONLINE]経営学部・池田公司先生 推薦『知識創造企業』

図書館報『藤棚ONLINE』
経営学部・池田公司先生 推薦
『 知識創造企業(新装版) 』

 本書は、世界的に著名な経営学者である野中郁次郎(一橋大学名誉教授、日本学士院会員)と竹内弘高(ハーバード大学教授、一橋大学名誉教授)の共著です。原本は英語で書かれており、世界で10カ国語以上に翻訳されています。米国では、米国出版社協会からBest Book of the Year(経営学部門)に選ばれ、米国を代表する経営学者ピーター・ドラッカー(Peter Drucker)からは「現代の名著」という最高の評価を受けています。

 本書の「新装版」は2020年に発刊されていますが、オリジナルの英語版の『知識創造企業-日本企業におけるイノベーションの力学-』(The Knowledge-Creating Company: How Japanese Companies Create Dynamics of Innovation)は、四半世紀も前の1996年に刊行されています。通常、四半世紀の時間が流れると、大抵の研究書は消滅してしまうものです。しかし、20世紀末に出版された本書は、四半世紀が過ぎた21世紀においても多くの学者、経営者、ビジネスパーソンに幅広く読み継がれています。まさに、ピーター・ドラッカーが述べたように、現代の名著といえるでしょう。

 本書は、「①新しい組織的知識創造理論の構築、②日本企業が連続的イノベーションに成功し続けてきたのはなぜかについての新たな説明の提示、③日本と西洋の経営手法を統合する普遍的な経営モデルの開発」(野中・竹内[2020]、385頁)を目的としています。本書の焦点は、「知識の創造に置いてあり、知識そのものには置いていない。われわれの視点から見れば、イノベーションを創造するものは知識創造であって、知識そのものではない。言い換えれば、新しい製品、サービス、システムという形でのあらたな知識が組織内部で創られるプロセスこそ、イノベーション活動を支える基盤」(野中・竹内[2020]、407頁)です。

 日本から世界に向けて発信された本書は、ハーバード大学経営大学院(Harvard Business School)の世界的に著名な経営学者であるマイケル・ポーター(Mikael Porter)教授によって「経営理論の真のフロンティア」と高く評価されています。

 本書は、400頁を超える労作ですが、甲南大学の学生の皆さんにも、是非チャレンジして頂きたい経営学の優れた文献です。

[藤棚ONLINE]法学部・早瀬勝明先生 推薦『独学大全』

図書館報『藤棚ONLINE』
法学部・早瀬勝明先生 推薦
『 独学大全 』

 「この本はあまり賢くなく、すぐに飽きるしあきらめてしまう人のために書かれた」。「読書猿」というのは、もちろんペンネーム。著者は普通の勤め人で、朝夕の通勤時間と土日を利用して独学に励んでいるのだそうです。「幼い頃から読書が大の苦手で、本を読んでも集中が切れるまでに20分かからず、1冊を読み終えるのに5年くらいかかっていた」。そんな著者が、学ぶための動機付けや計画の立て方、読書の仕方やノートの取り方など、独学に必要なテクニックを750ページ超に渡って書いたのが、本書です。

 750ページと聞いて尻込みする人もいるかもしれません。しかし、そもそも本というものは最初から最後まで読む必要はないと、著者は言います。読むのは一部だけでも良いのです。この点は、印南敦史『遅読家のための読書術』にも書かれています。読書=本に書いてあることすべてを頭に入れること、と捉える必要はありません。

 大学の勉強がつまらないと感じる人は、とりあえず、大学の勉強は「社会人になる前に、やりたくないことをやる訓練」だと割り切っても良いと、私は思います。興味のあることを学んでいくうちに、以前は興味がなかったこととのつながりに気づくことがあります。 図書館の本棚を見て、なんとなく気になる本を手に取り、めくってみる。まずはそこから始めれば良いと思います。本書を(一部でも)読めば、そのような行動のきっかけが生まれるかもしれません。

[藤棚ONLINE]経済学部・足立泰美先生 推薦『〔エッセンシャル版〕行動経済学』

図書館報『藤棚ONLINE』
経済学部・足立泰美先生 推薦
『〔エッセンシャル版〕行動経済学』

 本書は、人間の無意識の行動に注目した1冊です。ノーベル経済学賞を受賞したハーバード・サイモンは、限定合理性という考え方を提唱しました。人の意思決定には様々な制約がかかるなかで、「必ずしも人は合理的ではない」 とし、合理性に限界があることを認めています。例えば、私たちの記憶力であれ、数的処理能力であれ、限界があります。他の選択肢を十分に検討できずに、私たちは限られた範囲で決断をすることになります。我々が、知らず知らずのうちに行う選択。この人間行動の「癖」を利用したのが行動経済学です。例えば、人間には、利益よりも損失に反応し、将来よりも現在の問題を過大視します。これを、現在バイアスといいます。一方で、人は同調性バイアスをもち、多くの人が行動するのと同じように自分も行動する傾向があります。

  このような人間の癖を新型コロナウィルスへの対応に、当て嵌めたらどうなるでしょうか。感染拡大を抑えるために、わが国では、自粛要請による感染拡大防止を図ってきました。しかしながら感染拡大を抑えきれず、数回にわたって緊急事態宣言が発令され、特措法等にも強制力をもたせる改正などが行われてきました。もはや自粛要請だけで感染状況をコントロールすることは困難なのでしょうか。強権発動や経済的なインセンティブに頼らずに、人々を望ましい行動変容に導く手掛かり。それを、行動経済学の知見から本書は紹介しています。新型コロナウィルス感染症によって新しい生活様式の模索が進むなかで、今後の社会をどう望ましいものに変えていくのか。本書を手に取り、未知ある将来に思索を巡らせながら、行動経済学の視点からの、社会のあり方を問い直すのはいかがでしょうか。

[藤棚ONLINE]理工学部・須佐元先生 推薦『数学に魅せられて、科学を見失う : 物理学と「美しさ」の罠』

図書館報『藤棚ONLINE』
理工学部・須佐元先生 推薦
『数学に魅せられて、科学を見失う : 物理学と「美しさ」の罠』

ザビーネ・ホッセンフェルダー (著), 吉田三知世 (訳)
みすず書房 , 2021.3

本書は最近物理学者の間で論議を呼んでいる本で、簡単に言うと現在の基礎物理学のあり方に痛烈な批判を述べている本です。そのため人によって評価も全く異なりますが、とても興味深い本ですので紹介します。

本書は素粒子理論の研究者である著者が、現在の学問の状況、すなわち実験が高価にならざるを得ず、理論に制限がかからないために理論の「美」自体が価値基準となりかけていること、に危惧と疑問をいだき、世界中の大家と呼ばれる研究者を訪ねて議論を挑む、という構成です。インタビューされる学者はいずれ劣らぬ大学者で物理学者なら誰もが知っているような人たちですが、著者との緊張感あるやり取りはそれだけで楽しく読める読みものです。

実験が国家プロジェクト級になってしまい、おいそれとは答えが得られなくなったとき、理論は内包する数学的美しさに理論の良し悪しを委ねてしまいがちになる、ということを著者はもっとも問題にしています。確かに精密な実験や数値実験などをつぶさに調べていった先にたどり着く理論は、ある種の美をまとうことが多いです。したがってより美しい理論がより真実に近いに違いないという推測はあながち間違っていません。しかしそれだけでは決して自然を表していることにはならず、必ず実験による検証が必要です。宇宙物理学者である私自身は、この世界はできる限りシンプルで美しい法則で統べられていてほしいと願いますが、それは願望にすぎません。願望には美的嗜好だけでなく、もっと世俗的な願いも含まれうるということにも著者は警鐘を鳴らしています。 途中やや専門的で難しいところもありますが、サイエンスに携わる・志す人々一般にとって、手にとってみる価値はある本であると思います。

青山 美智子著 『お探し物は図書室まで』

 

文学部 3年生  畑田 亜美さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 :  お探し物は図書室まで
著者 :  青山 美智子
出版社:ポプラ社
出版年:2020年

コミュニティセンターにある小さな図書室、そこにはレファレンスコーナーがあります。担当している司書さんは愛想が良いとは言えない女の人ですが、「何をお探し?」と穏やかで凛とした一声をかけられると心の内を打ち明けてしまいたくなります。偶々訪れた人々が彼女にレファレンスをしてもらい、おすすめの本と付録を貰って自分の悩みの答えを見つけていきます。

この図書室を訪れる人は婦人服販売員や家具メーカー経理部の人、元雑誌編集者、ニート、定年退職者と様々です。しかし、みな社会生活を送る中で上手くいかないことや、不安なことなど悩みを抱えています。私たち学生にも当てはまることもあります。自分にとって不都合で嫌なことが起こった時、どのように考えていますか。気分が落ち込んだ時、人の視野は思っているよりも狭くなっています。少しのヒントを得て見方を変えるだけで、新しい捉え方ができるようになり悩みが解消されるかもしれません。

また、レファレンスをしてくれる司書さんの応答は司書を目指す人から見ると理想的で羨ましく思えます。ポイントは2つです。1つ目はその人の話をよく聞いて、レファレンス質問で聞かれた本以外にも適切な本をすぐに提供できることです。その図書室のことを把握していたとしても、1人1人に合った本を即座に選ぶのは難しいでしょう。それを難なくこなし来館者に喜ばれる様はレファレンス担当者の理想と言えます。2つ目は好きなことをしながら多くの人に慕われていることです。彼女はレファレンスカウンターにいながら羊毛フェルトのマスコットを作っています。これがレファレンスの付録です。このような自由は公共図書館ではなかなかできないことだからこそ羨ましく感じます。そして、彼女の居場所は図書室ですが他のコミュニティセンターの利用者や来館者、司書補の女の子に慕われています。その関係性もまた理想的で憧れるような司書の姿です。

最後に、この本は今悩みを抱えている人や司書を目指している人に是非読んでみてほしいです。将来が少し明るく見えたり、救われたりするかもしれません。

小林 義祟著 『すみません、金利ってなんですか?』

 

文学部 3年生  畑田 亜美さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 :  すみません、金利ってなんですか?
著者 :  小林 義祟
出版社:サンマーク出版
出版年:2020年

 経済の基本事項は高校の現代社会等で習ってきました。しかし、実際に日常生活で使う金利や預金などが何かというとよくわからないということは多いです。私は大学生になるまで自分で銀行に行くこと、さらにはATMを利用することは殆どありませんでした。そのため、初めて使うときは戸惑いました。また、アルバイトを始めてから年末に貰った年末調整の表もよくわかりませんでした。正直なところ、経済はややこしいので好きではないです。しかし、知らないままで良いかと言われると不安に思います。この本は税を中心に基礎事項を丁寧に教えてくれます。

 特に印象に残ったのは預金と年金です。将来のことを考えると預金をしておいた方が良いとは思いますが、どうするべきかよくわかりません。よくわからないままとりあえず貯金しています。この本を読めばお金の貯め方や運用の仕方がよくわかります。様々な預金形式や組織、投資などがあり、どれを選ぶかは自由です。それぞれのメリットとデメリットを知り、正しく選ぶことのできるようになると感じました。

 次に年金に関しては、将来もらえなくなるのではないかなどと言われているため、現役世代からすれば不安要素です。その回答を得られるだけでも良かったと思えます。そして、学生時代の免除制度や払い損ねてしまった場合の起源やどうなるのかについても言及されています。これに関しては、払い始めたところの学生は知っておくべきことだと感じます。私は詳しいことを全然知らなかったので、学ぶことができて本当に良かったと思いました。

 以上のことから、本書は社会人になるまでに読んでおきたい1冊だと感じました。学生のうちはまだしも、社会人になれば周りは当たり前の様に知っていて尋ねにくくなってしまうと思います。この本の企画、編集を担当された梅田直希さんのように何も知らず聞く機会を逃したまま社会人になる人は非常に多いでしょう。だからこそ多くの学生に読んでもらいたい本です。