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ニッコロ・マキアヴェッリ『君主論』

理工学部 1年生 匿名さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名:君主論
著者:ニッコロ・マキアヴェッリ
出版社:講談社  
出版年:2004年
 

愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶという。その言葉のように最近の本ばかりではなく、少し古い本にも目を受けてほしい。

さて、今回紹介する本はマキアヴェッリの書いた君主論だ。この有名な本は名前くらいは聞いたことのある人も多いだろう。私はこの本を歴史や政治に興味がある人は言うまでもないが、他にこれからリーダーになる人にも是非読んでみてほしいと思う。

この本は全26章で構成されている。

第1章では君主政体の種類とどうやってそれを獲得するのかを挙げている。

第2章からは様々な君主権について主に成立法別にまとめ、それぞれがその後に対してどのような影響を与えるのかを解説している。

第12章からは自己の軍によらない時に起こる問題と自己の軍を持つときにすべきことについてまとめている。

第15章からは君主が敵を増やさないためにどうしたらいいか、多くの君主がやっていたことは本当に有益か、他者に尊敬され指示を聞いてもらえるようにするためにはどうしたらいいか、周囲の人間が追従するようになるのを避けるにはどうしたらいいかなど、君主は普段どのようにふるまえばいいかを解説している。

第24章からは実際に書かれた時代のイタリアの現状を考え、どうしてそうなったのか、また、これからどう知ればいいのかを書いている。

 私は冒頭でリーダーになるかもしれない人にも読んでほしいと書いた。この本は多少汎用化する必要はあるだろうが、君主、つまり国のリーダーをやっていくうえで大切なことを過去の様々な事例を例に出しまとめている。

この本は目的のためなら手段をえらばないマキャヴェリズムの本の始まりだろう。この本の内容はリーダーとしてのふるまい方として現代で十分に通用することが書かれていると私は思う。

九鬼周造『「いき」の構造』

明治生まれの哲学者に九鬼周造という人がいます。日本で、最も愛されている哲学者と言ってもよいかもしれません。ご紹介する『「いき」の構造』は、昭和5年に発行された九鬼周造の代表作です。

九鬼周造は、東京帝国大学を卒業後、大正10年から足掛け8年間、ヨーロッパに遊学しました。この間、ハイデガーやベルクソンなど、著名な哲学者から西洋哲学を学びます。帰国後、京都帝国大学で教鞭をとるのですが、九鬼はただ西洋哲学を日本に伝えた人ではありません。ヨーロッパ滞在中に、日本人とヨーロッパ人に違いがあることに気付いた彼は、日本独自の感性である「粋」について、西洋哲学の手法も使って独自の分析を行いました。日本人が誇りに思う日本文化を、西欧の視点から見ても納得できる分析を行ったことが、九鬼周造の大きな業績のひとつです。

昭和5年に発行された『「いき」の構造』は、他の哲学書に比べて、短く、やわらかで、ほんのり艶やかであることも魅力です。とはいえ、20歳前後の皆さんは、『「いき」の構造』をまだちょっと理解できないかもしれません。なぜなら、九鬼は、「粋」とは「異性的特殊性」、つまり恋愛にもとづいていると定義しているからです。しかも、愛し愛される薔薇色の恋は野暮で、茨を摘んで生きる覚悟を秘めた白茶色の恋を選ぶことが、粋だと言います。今まさに、薔薇色の恋の時代を謳歌している皆さんには、ちょっと難しいでしょう?

ですが、「野暮は揉まれて粋になる」という言葉があるとのこと。少し背伸びをして「粋」を学んでみませんか。注釈付の文庫版が読みやすいですし、電子書籍を無料で読むこともできますが、白茶色で装丁されたちょっと古い単行本もお勧めです。ルビもない本を、スマホを片手に調べながら読むのも粋ではないでしょうか。そして、十分に世間に揉まれた後にはぜひ再読してみてください。その時には、自分の選択を諦めながらも肯定し、前向きに「生き」る日本人になれているに違いありません。

昭和16年に九鬼周造が亡くなった後、彼が所有していた書籍や原稿類は、親友の天野貞祐先生に託されました。当時、旧制甲南高等学校の校長でおられた天野貞祐先生は、貴重な書籍を含むその書籍群を甲南高校に寄贈されました。長い間に散逸してしまった本もありますが、そのほとんどが、現在、甲南大学図書館に「九鬼周造文庫」として保管されています。

「九鬼周造文庫」には、書籍だけでなく、『「いき」の構造』の草稿を含む直筆原稿や研究ノート、第一高等学校時代から留学時代までの講義録ノートも含まれています。劣化を防ぐために長い間公開できなかったのですが、少しずつ電子化していたものを、2016年4月から『甲南大学デジタルアーカイブ』で公開しています。

優雅なイメージの九鬼周造と、実直なイメージの天野貞祐先生が、第一高等学校時代からの親友であったことは、個人的には意外でしたが、「九鬼周造文庫」に遺された穏やかに笑う二人の写真や、「天野貞祐學兄に捧ぐ」と書かれた原稿などから、4歳年上の天野先生を先輩と慕う、心の通い合った友であったことを窺い知ることができました。是非一度アクセスしてみてください。

伊東浩司先生(スポーツ・健康科学教育研究センター)「スポーツの歴史を知ってみよう」

☆新入生向けの図書案内
 新入生の皆さん、大学入学おめでとうございます。大学生活は、授業はもちろん、課外活動やサークルなど皆さんにとって楽しい生活がまっていますと昨年も書かせていただきました。昨年は、スポーツの専門書などを読んで「想像の翼をひろげよう」とも書かせていただきました。今年は、ブラジルのリオデジャネイロでオリンピックが開催されます。すでに日本代表に決まっているチーム・選手もいますが、これから予選会などでどんどんチーム・選手が決まっていきます。現地に行って応援をする人がいるかもしれませんが、多くの人は。テレビやネットなどでの観戦になるかと思います。より、観戦を充実するには、事前に情報を多く入手することだと思います。ルールや代表選手を覚えることで確かに、観戦が面白くなるとは思いますが、私のお勧めは、その競技種目がどのような経緯でできたかなどの歴史を調べることをお勧めします。スポーツの歴史が書かれている本を読むことによって、競技種目がどのように考え始められたかを知り、ルールがどのように変わっていきながら現在のルールになっていったかを知ることができ、その種目に対する見方も変わってきます。マラソンは、どうしてマラソンという名前がついたか、42.195km という距離がどのような経緯で決まったかなどは有名な話ですが、私自身、まだまだ歴史を知らない競技種目が多くあるので、オリンピックまで少しでも多くの本を読みたいと思っています。特に、皆さんには、オリンピックの歴史か柔道に関する本を読んでいただきたいと考えます。オリンピックの5つの輪にも意味があり、聖火が始まった理由などを知れば知るほどその世界に引き込まれていくのは間違いなしです。また、柔道は、日本発の国際的競技です。特に、神戸市御影うまれで「柔道の父」と呼ばれ、また「日本の体育の父」とも呼ばれている嘉納治五郎先生のことが書かれている本を読むことで、リオデジャネイロオリンピックだけにとどまらず、東京オリンピックへの考え方が変わるのは間違いありません。いずれしろ、ネットから多くの
情報が得られますが、ぜひ、本をゆっくり読める時間が持てる大学生活を送ってもらいたいと思います。

甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.33 2016) より

 

D・シッシュ先生(国際言語文化センター)「フランス文学を発見しましょう」

☆新入生向けの図書案内
 新入生の皆さん、入学おめでとうございます。これからの貴重な時間を、自分の教養を高めながら、視野を広げるために使いましょう。そのために、図書館は理想的な場所であろうと思います。
 皆さんは、英語の勉強を続けると同時に、第2外国語の勉強も始める予定です。外国語学習は、単なるコミュニケーションの手段を得るためのものではありません。外国語学習のおかげで、いろいろな国の文化と考え方を発見することができます。学習の中身をより豊かにするために、その国の文学も読んでみませんか。もちろん、原文を読むことはまだ不可能ですが、翻訳を読むことはできます。私はフランス語とフランス文化を教えていますので、ここでその代表的な作品を幾つか紹介しましょう。
 19 世紀のフランス文学は、所謂『小説』が発展し、非常に豊かです。おまけに、その邦訳
の質はとても高いです。最も有名な作品と言えば、ヴィクトル・ユゴーのLes Misérables でしょう。この小説は1862 年に刊行され、世界的な評価を得ました。そのタイトルは「 悲惨な人々」という意味です。なぜなら、全ての登場人物が、社会的・政治的、ひいては精神的に過酷な状況で生きているからです。数年前、日本でも、「レ・ミゼラブル」というミュージカルを元にした映画が大人気を集めましたが、これはハリウッドの制作したものでした。原作は、フランス語で書かれています。フィクションであっても、当時のフランスの政治的・社会的・文化的文脈とメンタリティーを知ることができます。
 その次に、フロベールとバルザックの作品もおすすめします。フロベールのMadame
Bovary 「ボヴァリー夫人」は、同時代の地方の暮らしに退屈し身を滅ぼして行く女性を描き、本国でも、2回以上映画化された作品です。それから、バルザックのLe père Goriot 「ゴリオ爺さん」は、革命後のフランス社会とメンタリタイーの変貌を鋭く描いた作品です。現代人が読んでも、人間の幸福について、多くのことを考えさせられます。
 20 世紀の文学では、アルベール・カミュのL’étranger「異邦人」をおすすめします。カミュは、実存主義のサルトルと同様に偉大な哲学者です。第二次世界大戦後に、『不条理』という概念を打ち出し、1957 年にノーベル文学賞を受賞しています。現代の人間の自由と責任についてたくさん考察を残しています。制度的には、または物質的には自由を享受する現代の日本に生まれ育った学生の皆さんも、カミュを読むことで、自分の『あり方』を見直し、『自由』つまり『自らに由(よ)る』ということがどういうことであるか、考えるきっかけを得られるでしょう。
甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.33 2016) より

三好大輔先生(フロンティアサイエンス学部)「「才能」ありますか?」

☆新入生向けの図書案内
 いきなり私事ですが、44 歳になりました。大学4年生、大学院修士課程2年間、博士課程3年間、博士研究員、大学教員として、皆さんが生まれる前から研究しています。最初の3年間ほどは、努力もせずに、ある程度の研究結果を出していると満足していました。非常に恥ずかしいのですが、学会などに行っても、「俺って結構才能ある」と思っていました。でも、今思い返すと、研究課題に対して、すべきことをやり切ったことはなかったように思います。でも、「これくらいで十分やろ」と自分に言い聞かせていたと思います。博士課程に進学すると、研究成果が自分の生活や将来に直接影響してくるようになります。気が付くと、同年代の研究者は、どんどん素晴らしい成果を出しています。今更ほかの道もありません。まずい!ようやく私も気が付きました。そのとき私が思ったことは、「とにかく博士課程の3年間は必死で頑張ってみよう」でした。必死で頑張ると、思い通りかどうかは別にして、結果が出ます。思い通りだと、「次は、これもうまくいくかも!」と調子に乗ります。思い通りでなければ、悔しく思いながら「次は、こうしたらうまくいくはず!」となります。頑張れば頑張るほど、すべきことが増えてくるのです。逆に、「これくらいでいいやろ」と思うと、研究(仕事、勉強、生活、、、何にでも置き換えてください)の進展や展開はありません。研究を進めるためには、一生懸命に取り組むこと、そして継続する必要があることに気が付きました。つまり、「目の前の課題に継続して必死で取り組める才能」が必要だと思うのです。「努力に勝る才能のなし」と謳われる最強の「努力する才能」は、与えられたものではなく、自らの意志で獲得できるはずです。
 前置きが長くなりましたが、上記の中年の戯言に同意できない皆さんは、次の書籍を読んでみて欲しいと思います。サミュエル・スマイルズ著、竹内均訳の「自助論」(三笠書房)です。「天は自ら助くる者を助く」で知られる不朽の名著です。格言のオンパレードのような書籍ですが、例えば、「天性の才能に恵まれていれば、勤勉がそれをさらに高めるだろう。もし恵まれていなくても、勤勉がそれに取って代わるだろう」とあります。また著者は文中で、時間が最も大切だとも述べています。例えば、「失われた富、知識、健康は取り戻せるが、時間は戻ってこない」とあります。20 歳前後の皆さんは、それだけで最も得難い財産を持っています。特に大学にいる間の時間は、その後の人生よりもとても自由度が高いものです。
さあ、どうやって過ごしますか?とりあえず、読書してみませんか。

甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.33 2016) より

真崎克彦先生(マネジメント創造学部)「読書のすすめ」

☆新入生向けの図書案内
 自分の馴れ親しんだ場から一歩外に出れば、そこには豊穣な未知の世界が広がっています。自分が日常接することのない世界にふれ、それについて思いを巡らせる。読書はそのような体験に皆さんを誘うでしょう。PC やスマホには、手軽に欲しい情報が手に得られるという長所がありますが、同時に、自分の好きな情報だけを容易に選別して見ることができるので、どうしてもそれだけ、自分の馴れ親しんだ世界に閉じこもりがちとなります(「島宇宙化」と呼ぶ社会学者もいます)。学生時代は時間の自由がきくので、知らない場所を訪ねるのも良いし、本を通して知らない世界にふれるのも良いでしょう。有効に時間を使って欲しいと思います。キャンパスになじむことができれば、大学はそれなりに居心地の良い場所。だからこそ外に出ることも心がけてください。
 「幸福の国」として知られるブータンについての良書を紹介します。ブータンは国民総幸福(GNH)という国是で知られてきました。ヒマラヤ山脈の尾根と渓谷が織り成す雄大な景観、豊かで美しい文化遺産と自然環境が守られてきました。人びとは文化や自然を大事に守りながら心豊かに暮らしています。そうした生活様式の維持・発展を通して、今後も人びとに幸せな暮らしを保障しようとするのが、国民総幸福です。その国是の理論的支柱とも称されるブータンの知識人、キンレイ・ドルジ著の『「幸福の国」と呼ばれて―ブータンの知性が語るGNH』(2014年、コモンズ)です。
 経済成長が起きるからこそ社会は豊かになり、われわれは幸せな生活を送れる。そのためにも、自己実現を目指してどんどん勉強し、どんどん働かないといけない。ひいては、そうした生存競争によって社会の繁栄が守られ、さらに増進されていく。われわれは往々にしてそのような思いにかられがちですが、それは本当でしょうか?ブータンでも発展・開発が進むにつれ、そうした考え方が広まり、今では経済格差や村落過疎化など、日本と同じような社会問題に悩まされるようになりました。そうした中、ブータンではあらためて、これまでの文化の継承や自然の保全を軸とした暮らしを見直そうという機運が高まっています。(この点も日本に似ています。)そうした昨今のブータン社会情勢が、同国で生まれ育ち、そこに暮らす著者の目線より等身大に伝えられます。ブータンを特別視せず、同じ課題に面する者どうし、その解決に向けて学び合えることはないか考えよう。こうした観点より『「幸福の国」と呼ばれて―ブータンの知性が語るGNH』を読んでもらえれば、皆さんも有意義な異文化体験ができると考えます。

甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.33 2016) より