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星野道夫著『旅をする木(星野道夫著作集3)』

書名: 旅をする木(星野道夫著作集3)
著者: 星野道夫
出版者: 新潮社  出版年: 2003年
場所: 1階開架一般  請求記号: 295.394/3/2001

「アジール」という言葉をご存知でしょうか?
ギリシア語で「害されない」「神聖不可侵」といった意味をもつ「asylos」から派生したドイツ語です。
歴史学でよく使われるのですが、近代以前の社会で、社寺や教会のように、社会的な暴力から避難できる聖域を指す言葉です。

法律が整備された現代では、こうした「アジール」は消えてしまいました。
ですが、誰しも一度は社会の圧力から逃げ出したい、と思ったことがあるのではないでしょうか?
現実に逃げ出すことはできなくても、本を使って自由な世界へ旅をすることはできます。

と、こう書くと、「本は全部そうでしょ」と突っ込まれるところですよね。
ですから、今回は、本当に現代における「アジール」へ旅ができる本、星野道夫著『旅をする木』をおすすめします。

星野道夫の肩書は写真家ですが、優れたエッセイストでもあります。

満点の星空、怖ろしいほど美しいオーロラ、沈まない太陽、此方から彼方へ移動するカリブーの大群。
圧倒的に広大な自然と共生し、古い生活を続ける人々と触れ合いながら生きる日々。
星野氏の純真な言葉は、現実に存在する異世界を実感させてくれます。

大勢の人が押しこめられた都会の日常から、遥か遠くへと旅をしたくなったら、頁を開いてみてください。

『旅をする木』は文春文庫から発売されていますが、図書館では文庫版は所蔵していません。
『星野道夫著作集3』に収録されていますので、そちらをご利用ください。

瀬尾まいこ『戸村飯店青春100連発』

  文学部 3年生 匿名さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名:戸村飯店青春100連発
著者:瀬尾まいこ
出版社:文藝春秋
出版年:2012年
 *図書館所蔵分は、理論社から2008年に発行されたものです。

 この作品は、大阪の下町の中華料理店、戸村飯店で育った、外見も性格も異なる兄弟を描いた連作短編集です。人情味溢れ、吉本新喜劇が大好きで、阪神タイガースを熱烈に応援するという大阪の気質に馴染めず、東京の小説の専門学校に通い、家を出て行った要領のよい兄のヘイスケと、先述した大阪気質に馴染み、陽気でひょうきんで何事にも全力で取り組む弟のコウスケ。この物語は、彼らの青春や葛藤を如実に味わわせてくれます。  

 この作品の最大の魅力は、意外性だと私は感じています。陽気で悪知恵の働きそうな表情を浮かべた兄弟が描かれた表紙とは異なり、ヘイスケもコウスケもそれぞれ悩みを抱え、繊細で傷つきやすい部分も持つ少年として描かれています。また、2人が、それぞれに対して抱いていたイメージが、それぞれの本心とは違っている点も楽しめると思います。このことは、章ごとにヘイスケとコウスケの交互の視点で展開されているからこそ、味わえるものであると思います。読み進めるにつれて、周りが思う自分と本来の自分のギャップに苦しむという思春期ならではの苦しみに共感し、彼らを応援したくなってしまうはずです。そして、ヘイスケとコウスケは離れてみて初めて、相手の立場や事情や思いに気づき、自分が抱くイメージと相手の本心のギャップを埋めていき、少しずつ歩み寄っていきます。2人が心の底では、お互いを心配したり、理解しようとしたりしていることが感じられる文章も多く見られます。これらのことから、この物語を読むことは、兄弟の大切さや絆を再確認し、自分の家族との関わり方を見つめ直すきっかけになるということが言えるのではないのでしょうか。それに、目の前のことに全力で取り組むことで、見えてくるものや得られるものがあるということをすごく感じさせてくれる作品であるとも思います。生まれ育った場所に馴染めず、居場所を求めて新しい世界に飛び出したヘイスケと、居心地の良い場所から外に出るのを恐れながらも新しい世界に羽ばたいていこうとするコウスケ。それぞれの目的は違うけれど、彼らの心の奥底には“戸村飯店”があります。“戸村飯店”を主軸に展開される、青春群像劇を楽しんでみて下さい。

大沼紀子『ばら色タイムカプセル』

  文学部 3年生 匿名さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

ばら色タイムカプセル

書名:ばら色タイムカプセル
著者:大沼紀子
出版社:ポプラ社  
出版年:2012年

 この小説では、La vie en rose 「あなたたちの人生が、薔薇色であることを祈っています」という意味が込められた、女性専用有料老人ホームが舞台となっています。父と、その再婚相手のことを思って、家出を決行したが、何もかもに疲れて崖へと駆け出してしまった、主人公の森山奏(13才)は、先述した老人ホームの入居者達に助けられ、自分の年齢を20才と偽り、食事と住居完備の条件で雇われ、入居者達と深く関わっていき、自分が忘れていた大事なことを思い出したり、「生きること」「死ぬこと」について教わったりしながら、自分の人生を見つめ直していくというストーリーです。

 この作品に登場する、入居者達は、皆すごく魅力的です。バラの手入れに力を注ぐ遥さん、クラブ登紀子を営業する登紀子さん、明るくかしましくプロの乙女の友情を育む仲良し3人組の佐和子さん・千恵さん・万里さん、健康を気にせず、自分が食べたいものを作って食べる長子さん。彼女達は、自分に正直で、自由気ままに伸び伸びと過ごしている点は共通しているけれど、それぞれ個性的で愛すべきところや面白みがあるように描かれていると感じられました。そして、主人公の奏が、彼女たちの行動や姿から感じ取ったことや、彼女達が奏にかけた言葉を、読者が、自分の中で反芻し、「生きること」「死ぬこと」について考えを巡らせるように自然と促されてしまう点も、この作品の魅力の1つだと感じました。また、気を張って、物わかりのよい子であろうと背伸びしていた奏が、入居者達や等身大の中学生の山崎和臣との関わりを通して、少しずつ変わっていく様子も、読み応えがあります。   

 この物語を通して、あなたの人生が薔薇色であるためのヒントを見つけてみませんか。

松田美佐著『うわさとは何か』

書名: うわさとは何か : ネットで変容する「最も古いメディア」(中公新書2263)
著者: 松田美佐
出版者: 中央公論新社  出版年: 2014年
場所: 1階開架小型  請求記号: S081.6/2263/29

「うわさ」には信憑性がない、と分かっていても、「そういうこともあるかもしれない」と思っていませんか?
ニュースよりも、ネット上の誰かの発言の方を真実だと思うことはありませんか?

うわさが真実であることもあるかもしれません(ただし、検証するのは非常に困難です)。
それに、「ガソリンが不足する」といううわさによって、大勢の人が、「大丈夫だと思うけれど、入手しておこう」と判断した結果、本当にガソリンが不足してしまう、というように、「うわさ」が自己成就してしまうことも度々あります。

もっと身近な事例ではどうでしょうか。
「Aさんが辞めたのはあなたのイジメが原因だって、うわさになってるよ」(本書冒頭より)
まったく身に覚えがなくても、ドキッとします。

人の「うわさ」にはついつい耳を傾けてしまうけれど、特に自分に関する「うわさ」は強いストレスになります。そんな非常事態にそなえて、そもそも「うわさ」というものがどういうものか、学んでおきませんか?

この本では、デマ、流言、ゴシップ、口コミ、風評、都市伝説など、様々な「うわさ」について調査し、社会や人間関係にどのような影響をもたらしているのかが説明されています。社会学・社会心理学の本ですが、社会学を専攻していなくても、分かりやすく読みやすい1冊です。

「うわさ」に負けない人生のために、ご一読ください。

マルクス・シドニウス・ファルクス(ジェリー・トナー)著『奴隷のしつけ方』

書名: 奴隷のしつけ方
著者: マルクス・シドニウス・ファルクス(ジェリー・トナー)
出版者: 太田出版  出版年: 2015年
場所: 2階中山文庫  請求記号: 232//F

イギリス・ケンブリッジ大学の古典学研究者ジェリー・トナーが、様々な古典にから奴隷に関するエピソードを引用しながら、古代ローマ貴族「マルクス・シドニウス・ファルクス」になりきって書いた「奴隷」の取り扱い説明書です。

奴隷というと、足かせをされ、鞭打たれながら厳しい労働をするというイメージですが、意外にも古代ローマ人は、奴隷にも人間性があることを認め、奴隷に対して過酷な扱いをすると法律に基づいて主人が罰せられることもありました。

主人は、奴隷たち一人ひとりをよく観察し、それぞれの適正に合った仕事を与えなくてはなりません。また、必要な食事や休憩、娯楽を与えないと生産性が落ちるため、福利厚生にも配慮しなくてはなりませんでした。
古代ローマの「主人」とは、家族や従業員、奴隷を含めた”ファミリア”という大きな組織を経営するリーダーでした。ローマという巨大帝国は、大小無数の”ファミリア”がそれぞれの事業を行うことで成り立っていたのです。

この本をお勧めする理由は、もちろん、労働者を奴隷のようにマネジメントする方法を学んでほしいからではありません。
何に囚われたら奴隷となってしまうのか、奴隷制度のどこに致命的な欠陥があるかを考えることができるからです。

実際、過去から学ぶことは、未来を創る上でとても役に立ちます。
マルクス・シドニウス・ファルクスもこんなことを言っています。
「あなたがどの時代のどこの人であろうとも、たとえその世界がローマとは異なる原則で成り立っていようとも、ローマから学ぶべきものなどないと決めつけてはいけない。ローマには多くの知恵が眠っている。そのなかには、あなたにとっても、目を閉じるより開けてよく見たほうが得になるものがたくさんあるはずだ。だから、読まれよ。そして学ばれよ。」(本文p020より)

小倉美惠子『オオカミの護符』

書名: オオカミの護符
著者: 小倉美惠子
出版者: 新潮社  出版年: 2011年
場所: 1階開架一般  請求記号: 387//2111

ライトノベルのようなタイトルですが、民俗学の本です。

著者の小倉さんは、神奈川県・土橋の古い農家のご出身だそうです。
先祖代々土着の農家だったそうですが、土橋が都市化するにつれ、大好きだった祖父母といつしか疎遠となり、ご自身も国際親善に関する仕事をされていたとのこと。
ご実家の周りもすっかり住宅街になったのですが、ある日、ぽつんと残されていたお蔵に、オオカミの絵が描かれたお札が貼ってあるのに気が付きました。
古いものではなく、最近貼り換えた跡があるようです。しかも、何度も繰り返し貼り換えられたらしく、幾重にも跡が付いている・・・。

気になった小倉さんは、そのルーツを訪ねてみることにしました。
はじめは両親、古くからのご近所、山の御師、山里の古老・・・失われていくカミサマたちと出会う過程に、わくわくします。

この本については、文学部の田中貴子先生が描かれた書評が朝日新聞に掲載されています。
こちらもご参照ください。
http://book.asahi.com/reviews/reviewer/2012020500014.html

(konno)