新入生のみなさん、ご入学おめでとうございます。4年連続で図書館報「藤棚」を書かせていただきました。過去に書かせていただいた「藤棚」を読み返してみると毎年ながら月日が流れていく早さに驚いています。2018 年度に入学してくる学生の皆さんには、「学園のルーツ」というタイトルで書かせていただきました。自身の1 年を振り返ると、その前の年度の反省から、本や新聞を読む時間を増やすように意識をしてきました。特に、新聞を細かく読むようにしてきました。自身が担当する講義などで、新聞記事を紹介して、学生の皆さんの考えを聞いたりしました。いよいよ、来年には東京で、オリンピック・パラリンピックが開催されます。前回のリオデジャネイロ大会や前々回のロンドン大会などをテレビなどで観戦した方も多くいるかもしれませんが、今回は、時差のない日本での開催になります。これまで、そして、これからの人生の中でも、一番興味・関心を持ってスポーツをテレビ等で観戦することになると思います。そこで、皆さんにお勧めするのが、オリンピック憲章などが書かれている書物などを読むことです。皆さんもよく目にする五つの輪が描かれている五輪のマークは何を意味しているかご存知でしょうか。このお互い重なり合う五つの輪は、五つの大陸の団結と世界中の競技者たちがオリンピック競技大会に集うことを表していて、色も青、黄、黒、緑、赤と決められ、それぞれがどの大陸を意味していることだけでも知ることで興味を増していくことになるかと思います。また、青少年の教育やいかなる種類の差別もなく、友情、連帯そしてフェアープレーの精神なども謳われています。私の講義の中で、プロ野球の乱闘について意見を書いてもらうことがあります。乱闘は、フェアープレーの精神に反しないか、関係する人が全員出てくることが友情、連帯になるのかなど、真のスポーツとは何かを考えることばかり書かれています。ルール・ルーツなどの基本原則を知ることで、スポーツへの興味が増大すること間違いなしです。
甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.36 2019) より
「2-2. 教員オススメ」カテゴリーアーカイブ
石井康一先生(国際言語文化センター)「読書――「考えること」」
新入生の皆さんの入学とともに、この国の新しい時代が始まります。通学の電車の中ではスマホのゲームで時間を空費せずに、文庫本・新書を手に取りましょう。インターネットの情報に振り回されずにそれを使いこなす自分自身を大学時代に確立し、成長させていかなければなりません。読書は、人生を切り開いていくエネルギーなのです。
書物を読むということは現実の体験なのです。体験の代替物ではありません。そしてそれ以上に、体験に枠組みと深さを与え、次なる体験へと導いてくれる何かなのです。
(四方田犬彦『人間を守る読書』文春新書 2007)
入手しやすい最近の本の中から……今日の世の中を作り上げた平成の三〇年はどんな時代だったのか、思索の手掛かりを与えてくれるのが後藤謙次著『10 代に語る平成史』(岩波ジュニア新書2018)です。木村英樹著『中国語はじめの一歩〔新版〕』(ちくま学芸文庫2017)は、第2外国語として中国語を選択した人にも、他の言語を選んだ人にも、中国語を学ぶことの面白さや楽しさを伝えてくれます。そして、大学生として「考えること」の重要性を示唆してくれるのが、梶谷真司著『考えることはどういうことか――0 歳から100 歳までの哲学入門』(幻冬舎新書2018)です。
私が「考えること」を通して手に入れる自由を強調するのは、現実の生活の中では、そうした自由がほとんど許容されていないからであり、しかもそれは、まさに考えることを許さない 、考えないように仕向ける力が世の中のいたるところに働いているからである。だから、自由になるためには、「考えること」としての哲学が必要なのである。(太字原文)
一見実用書の小笠原喜康著『最新版 大学生のためのレポート・論文術』(講談社現代新書2018)も、「考えること」を形にすることの大切さを訴えかけてくれます。新入生の皆さん、勇気を持って大学図書館という豊かな海への船出を!そして4 年間の長くて短い旅が、充実した幸福な時間となりますように!
甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.36 2019) より
鶴岡孝章先生(フロンティアサイエンス学部)「良質の読書と睡眠が成績を 向上させる!?」
皆さん子どもの頃に「本を読みなさい、賢くなるから」と言われた経験がありませんか?これって本当なのでしょうか?実は、最近ある研究グループがこの点に関して面白い報告をしていました。小学生を対象に読書時間を調査し、学業成績との相関を確認すると、確かにある一定のところまでは読書時間が長いほど成績が良いという傾向があったのに、より長い時間読書をすると成績が低下し始めるということが分かったそうです。実は、長時間読書をする小学生は睡眠時間が短いという傾向があり、いくら読書をしても睡眠時間が短いと成績は低下するそうです。つまり、適度な読書と適度な睡眠が大事ということですね。小学生を対象とした実験結果ですが、大学生は読書時間も短く、睡眠時間も短いそうなので、皆さんもこの点に注意して、適度な勉強、適度な読書、そして適度な睡眠を心がけて大学生活を歩んでください。
さて、前振りが長くなりましたが実はこれは「新入生向けの図書案内」として書いてるので何かおすすめの図書を紹介します。それは「脳のなかの幽霊」という本で、「甲南大学生に薦める101 冊の本」のなかでも紹介しています。これは私が皆さんと同じ大学生のころに読んで「脳ってすごい働きをしているけど、意外に簡単に騙せるんだな」と思った一冊です。少しだけ中身を紹介すると、例えば神経の断裂など完全に修復不能な怪我や病気で左手が動かなくなった人に対して、左手を完全に見えない状態にし、そこに鏡を置きます。その鏡の前に右手を差し出すと右手が鏡に投影され、左手があるかのような状態に見えます。それで右手を動かすとその鏡のなかの手も動くという状況を体験させるという実験を数ヶ月行うと、何をしても動かなかった左手が動くようになったそうです。もちろん動いているのは右手だけにも関わらず左手が動いているという擬似的な状況を見て、錯覚を起こさせることで別の神経回路が構築されるというなんとも信じがたいことが起こるようです。まさに「百聞は一見にしかず」ですね。でも目で見た情報も脳が処理をしています。この本を読むと脳の不思議や重要性を実感することができると思います。話は最初に戻りますが、適度な睡眠が大事なのは脳への記憶の定着は睡眠時に起こるからですよね。これを機に自分の脳について学んでみるというのはいかがでしょうか。きっとこの先の大学生活だけじゃなくその先に生活にも活かせると思います。
甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.36 2019) より
倉本宜史先生(マネジメント創造学部)「私は、甲南大学生だから サイエンスします」
ご入学おめでとうございます。甲南大学というミディアムサイズの総合大学に入学され、学び始める皆さん向けの図書として池上(2016)を紹介します。まず、池上(2016)の書籍名は『はじめてのサイエンス』なのですが、「サイエンス」と聞いて、「理系」や「難解」と思う人が多いのではないでしょうか。なぜ「文系」に区分されるマネジメント創造学部の教員がこの本を紹介するかと言いますと、「サイエンス」は文系と理系を区別する言葉ではなく、どの学部の学問領域も「サイエンス」を行うのだと、まずは皆さんに理解してほしいからです。つまり学生は、分析対象や分析手法は学部や学科によって異なりますが、「サイエンス」の考え方を学びに来ていると言えます。
では次に「サイエンス」とは何でしょうか。池上(2016)を要約すると、世の中には様々な物事の「法則」や「理論」がありますが、それらを100%正しいものだとは考えずに疑うことから始めます。「例外なく100%正しい」ということは多くの場合で断言できないからです。そして、真実(真理)があるかもしれないという気持ちで、その真実を明らかにするために、自分たちで「もしかすると、こうかもしれない」という仮説を立てて、確かめます(検証します)。この一連の作業が「サイエンス」です。なお、池上(2016)では物理や化学、環境問題などの基礎知識を、数式を使わずに丁寧に説明しており、「サイエンス」の考え方を教養として理解できる構成になっていますので、興味のある人は読んでみてください。
そして「サイエンス」は地道です。一人の人間で確かめられる真実は氷山の一角です。しかし、そのわずかな学問の進化は、人類の進化を意味します。みなさんと4 年間、ミディアムサイズの総合大学ならではの仲間や教員との距離の近さの中で、一緒にそんな「サイエンス」を楽しめればと思います。
紹介文献:池上彰(2016)『はじめてのサイエンス』,NHK 出版.
甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.36 2019) より
梅谷智弘(知能情報学部)「レポートとの付き合い」
大学生になると、試験のかたちも大きく変わります。高校などの中間試験や期末試験、入学試験などのようなスタイルだけではなく、論述形式が多くなり、レポートによる試験もあります。特に入学当初は何を書いたら……ということもあります。筆者も大学入学直後、試験のスタイルの変化に戸惑いました。レポートは、母語だからこそ、きちんとトレーニングしないと書けるようにはなりません。
ここで紹介するのは、戸田山和久,『新版 論文の教室 レポートから卒論まで』,NHK 出版,2012 です。心に影響を与える良い本との出会いの勧め、というより、実用のための書ですが、敵(レポート)を知らずに戦いを臨んでもよい結果は得られません。また、大学を卒業し、進学や就職するとなると各段に文章を書く量が増えます。というより、文章で仕事をするようになります。これは、文系理系によらず、ですし、英語(外国語)で仕事をするから、といっても、変わりません。この書籍では、なぜだめなのか、を実例とともに説明しており、昨今問題となっている研究倫理の問題についても踏み込んで紹介しています。大学でのレポートとの付き合いには欠かせないと思います。一方、レポートの書き方の書籍はこの本だけではありません。自分で自分にあった書籍を探し、良い書籍に出会う、つまり、教員が指示する教科書、参考書だけでなく、大学生活では書店や図書館で本を自分で探すことが大切です。
最後になりますが、レポートを作成するためには、様々な資料を調べ、読み込むことが求められます。図書館は、資料を集め、整理するという書庫としての機能や、他の図書館を連携した複写サービス、検索データベース、など、知的活動のための基盤となります。特に大学図書館は、司書など専門職の役割が大きく、レポート作成や良い本の出会いの道しるべとなっています。図書館に積極的に足を運び、レポートと付き合ってもらえたらと思います。
甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.36 2019) より
山口 聖(経営学部)「『嫌われる勇気:自己啓発の 源流「アドラー」の教え』 岸見一郎、古賀史健著 (ダイヤモンド社)」
アルバイトやクラブ、サークル活動など、大学に入学してから、これまで以上にたくさんの人と関わるようになったことと思います。たくさんの人と関わり、さまざまな価値観を持つ人と交流することで、これまでの価値観を広げることができますし、価値観が類似した他者を見つけ、それを共有することができれば、代え難い喜びを得ることができるでしょう。
一方、関わりが広がることで、上下関係や価値観が異なる人との関係も生じてきます。そのような中でたくさんの人が経験することになるのが、人と付き合うことのしんどさではないでしょうか。心理学者であるアドラーは、人間の悩みは、すべて対人関係の悩みであると述べています。では、対人関係の悩みの根底にあるものは何なのでしょうか。そしてその悩みから解放されるためにはどうすればよいのでしょうか。本書では、アドラー心理学を専門とするカウンセラーと、対人関係に悩む若者との対話を通じて、これらに対する疑問が明らかにされます。
アドラーは、海外ではフロイトやユングと並ぶ心理学者として知られています。しかしながら、本書で語られる通り、アドラーがフロイトと異なる点は、人の性格や人生観は、過去の経験によって決定されるわけではないと考えることにあります。したがって、人は今日から変わることができ変われるからこそ対人関係の悩みも克服することができるのだと、本著は主張します。
しかしながら、このことは同時に、自分が変わることができない理由を、自分以外の要因に責任転嫁することができないことを意味します。本書では、自分の能力が不足していることから目を背け、自分はやればできるという可能性の中に生きるために、仕事の忙しさを理由に小説を書かない小説家志望の友人のエピソードが紹介されます。本書で登場する様々なエピソードは、対人関係が苦手ではない人にとっても、ためになると思います。自分はやればできると思っている人、あるいは自分ができない理由を自分以外の要因に責任転嫁したことがある人は、一読してみてはいかがでしょうか。社会に出る前に、自分自身と向き合う良い機会になると思います。
甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.36 2019) より