2-2. 教員オススメ」カテゴリーアーカイブ

櫻井智章先生(法学部)「事実は小説よりも奇なり」

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 現代社会は法に基づいて運用されているから、法的知識は、将来どのような分野に進もうとも、必要な(少なくとも無いよりはあった方が断然有利な)知識である。そう考える人は学生・社会人を問わず比較的多いと思われるが、いざ法学の学習を始めると挫折する人が多いのも事実である。入門書でも、勉強しやすいよう工夫されているものも多くなってきているとはいえ、「法の概念」「法の分類」など直ちに役立ちそうにない抽象的な説明が並んでいる(これらは体系的学習という観点からは重要な知識であり、執筆者が書きたくなる気はよくわかる)。こうした最初のつまずきが「法学は難しい」というイメージを生んでいるのではないかと考えられる。
 しかし、法は現実の社会で起こる紛争を未然に防止し、起こってしまった紛争を合理的に解決するために存在しているものである(だからこそ、現代社会において法的知識が重要なのである)。法学の入門書を読んで面白くなかった人は、実際の裁判例を読んでみてはどうだろうか。『判例時報』や『判例タイムズ』には多くの裁判例が掲載されている(ともに図書館に所蔵されている)。「事実は小説よりも奇なり」という言葉があるように、現実に起こる紛争は多種多様で、なぜそのような事件が起こったのか全く不可解な事件、思わず当事者に同情したくなるような事件など、小説より面白い事件もたくさんある。裁判官や検察官はキチンとした人たちだと思っているかもしれないが、彼らがグズグズだったために起きたトホホな事件もある(判例時報1884 号45 頁)。できれば第一審のものがよいだろう(控訴審判決は第一審判決を引用する形で書かれるので読みにくく、最高裁判決は法解釈の争いが中心であるため難しい)。目次を見て興味のありそうな事件を読んでみるとよい。最初は難しいかもしれないが、読んでいくうちに、裁判所がなぜその事実を重視したのか、この解決はおかしいのではないか、などと疑問を持つようになれば、法学についてかなりの実力の持ち主になっているはずである。

甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.35 2018) より

森本 裕先生(経済学部)「より良い仕組みを目指して」

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書名:市場を創る
筆者:ジョン・マクミラン(瀧澤弘和・木村友二 訳)
NTT 出版株式会社 2007 年
 「社会の役に立ちたい」「世の中を良くしたい」と考えている学生におすすめなのが、ジョン・マクミランの『市場を創る』です。
 市場(しじょう)というのは、金銭と財・サービスを交換するすべての場を示す表現です。ですから、身近なコンビニやスーパー、そして病院や大学も市場ということができます。かつての経済理論では、市場は自律的なので政府による介入は不要とされてきました。アダム・スミスの「神の見えざる手」の世界ですね。しかし、現実には市場を放っておくことはできません。放置された市場では、独占企業による価格の吊り上げ、無知に付け込んだ詐欺、利益偏重な企業活動による環境破壊といった問題が生じてしまいます。このような社会問題を解消するためには、取引のルールを作らなければなりません。整えられたルールを有する、規律ある市場が必要なのです。本書では全17 章にわたって、うまく市場を創れた成功事例を紹介しています。
 では、具体的な事例を一つ見てみましょう。第9章「特許という困惑」では、貧困国のエイズ問題について書かれています。かつては死の病であったエイズですが、1990 年代に治療薬が開発され、症状を抑え込めるようになりました。しかし、薬価が年間100 万円もするため、貧困国では薬を買うことができませんでした。販売価格は100 万円ですが、実は、製造には数万円しかかかりません。残りは製薬会社の利益になるわけですが、みなさん、「ぼったくり企業め!」と思うでしょうか?確かに原価率はものすごく低いのですが、新薬の開発には巨費が投じられているので、それを回収しなければなりません。そのために価格が高いのです。もし、この100 万円の価格を原価である数万円まで引き下げられれば、貧困国の患者も薬を買うことができるようになります。企業の利益を確保しつつ、貧困国の患者を救済するいいアイデアがないかということで、考え出されたのが次のルールです。「先進国では定価で販売し、大いに利益を上げる。一方、貧困国では原価で販売し、利益は一切出さない。」ということになったのです。このルールのおかげで、企業も患者もWin-Win の関係になることができました。
 ほかにも色々な、アッと驚く成功例が納められていますので、ぜひ読破してみてください。

甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.35 2018) より

須佐 元先生(理工学部)「とにかく沢山読もう」

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 新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。これからの新生活に心踊らせていることと思います。皆さんはこれまでも沢山の本を読んで来られたと思いますが、これからの四年間は、たっぷりと読書の時間が取れる人生の中でとても貴重な時間です。読書にはルールはありません。読書はまずは楽しみであり、同時に知識を得るための一つの方法です。読みたい本をできるだけ沢山読んでください。そこで得た知識は糧となり、また身についた読書習慣は今後の長い人生に、人工的ではない美しい色合いと深みを与えてくれるはずです。みなさんの選書の助けとなるかどうかわかり
ませんが、私が最近気に入った本を紹介しておきます。
『淳子のてっぺん』 唯川恵著
 これは世界で初めてエベレスト登頂に成功した田部井淳子さんのノンフィクションストーリーです。彼女の世代ではまだまだ女性登山家は少なく、登山家の世界は典型的な男社会でした。その中で決して諦めずに自分の信じた道を歩き、パイオニアと言って良い存在になっていった先達のストーリーです。現在でも日本は先進国の中では女性の
社会参加はかなり遅れていると言われています。皆さんにはぜひ一度手にとって欲しい一冊です。
『銀河鉄道の父』 門井慶喜著
 これはあまりにも有名な童話「銀河鉄道の夜」の作者である、宮沢賢治の父の視点からみた賢治の一生の物語です。ずば抜けた感性を持った賢治が普通の俊英からどの様に文学者へと脱皮していったのか、またその過程に父のどのような苦しみ、右往左往があったのかが描かれています。皆さんの視点から言えば、皆さんの保護者の方々がどのような気持ちで皆さんを見守っているのかということがわかるのではないでしょうか。
『宇沢弘文のメッセージ』 大塚信一著
 これは宇沢弘文と言う伝説的経済学者の業績に関して伝記的にまとめられたものです。数学者として出発した宇沢は経済学に転じ、そこで大きな業績をあげていきます。宇沢の思想には常に社会的弱者の視点があり、それが「社会的共通資本」という考えに結実していきます。門外漢でも読めるように書かれており、社会問題への意識を喚起し、偉大な先達の人生のあり方を学ぶという点でお薦めします。
 以上3冊推薦しましたが、とにかくそれぞれがそれぞれの興味の赴くままに本を読んで下さい。

甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.35 2018) より

西川麦子先生(文学部)「人を介して本に出会い、本を介して人に出会う」

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 私は、文学部社会学科の「メディアコミュニケーションと表現」領域の科目を担当しています。また、アメリカのコミュニティラジオ局でHARUKANA SHOW(HS)という日本語ラジオ番組を主宰し、インターネットで日米をつなぎ、毎週、生放送をしています。アメリカの大学図書館に勤務している番組スタッフの一人が、『国立国会図書館月報』(633 号2013 年12 月)の「本屋にない本」欄に紹介されている、平原哲也著『日本時間―日系社会のラジオ番組―ブラジル編』(2010)という本が興味深いので、番組でもとりあげましょう、と知らせてくれました。平原氏は、実は、「月刊短波」(2011 年12 月号)のサイトに、「米国コミュニティFM で日本語番組」というHSを紹介する記事を書いていました。
 さっそく、『日本時間』を注文しました。これは、ブラジル日系移民向けの日本語ラジオ番組や日本音楽番組についての1930 年代から現代までの歴史を、ブラジルの日本語新聞や日系人向けの出版物や関係者への取材などをもとにまとめた貴重な自主制作出版物です。驚いたことに、この本の9頁に、甲南学園の創立者の名前がありました。「1935 年5月16 日に日本経済使節団がリオに到着した。翌17 日夜に平生釟三郎団長が全国ネットのラジオ番組に出演し、…。」さらに詳しく知りたい方は、甲南大学図書館に、小川守正・上村多恵子著『大地に夢求めて―ブラジル移民と平生釟三郎の軌跡』(神戸新聞総合出版センター、2001)、など関連する本がたくさんあります。HSでは、2014 年に『日本時間』を紹介し、翌年、平原氏に番組にも出演していただきました。本もラジオもインターネットも含め、メディアとは人と人をつなぐ媒体です。
 ところで、HS の2017 年秋の番組テーマは「音楽体験」でした。異なる世代の出演者が、どのように音楽と出会いどんな媒体を介して聴いてきたかを語りました。そこで紹介された本、『実践カルチュラル・スタディーズ:ソニー・ウォークマンの戦略』(ポール・ドゥ・ゲイ他著、暮沢剛巳訳、大修館書店、2000)は、甲南大学図書館の中 山文庫にあります。また、入門書としては、田中東子・山本敦久・安藤丈将編著『出来事から学ぶカルチュラル・スタディーズ』(ナカニシヤ出版、2017)もおすすめです。
HARUKANA SHOW: http://harukanashow.org/

甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.35 2018) より

小西幸男先生(共通教育センター)「グローバル人材になるために読書?」

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 最近はグローバル化という文字が其処彼処に使われ、なんだか新しいことの様に扱われる。社会はグローバル人材の育成やグローバル化が今後の生き残りの手段のように騒ぎ立てる。ちょっと知りたいことがあれば、インターネットにアクセスして即座になんらかの答えが検索できる。情報環境の中で自分の中で「コレだ!」と確信することはとても難しい。ネット上では怪しい情報に惑わされることもある。
 世界を相手に状況や相手を理解するには、いろんな情報を知っておく必要がある。インターネットの情報にはその結論やモノの見方に到達する過程が省略されている。回答だけがポンと目の前に表れ、「なぜそうなるのか?」「なぜ違うのか?」の謎は解けないままのことも多い。だから、その場での解答は得られても、自分のモノになりにくい。
 自分のアイデンティティーとか価値観を持っていないまま世界に出て行くと「単なる日本から来た人」になってしまう。世界中どこへ行っても「自分」を持ち、表現できることがグローバル人でないかと思う。
 では、「自分」を築く近道はなんなのかと考えるとインターネット検索よりも時間はかかるけど、驚くことに「読書」が実は時短テクの一つなのだ。時間がかかって面倒に思える読書だが、「本」は恋愛小説から専門書まで様々なジャンルがある上に、自分で選べる。読むことは文字の情報以外にも知恵や情報を自分のモノにする思考回路を育てるのにとてもいい訓練の方法の一つである。
 例えば、読書を通じて他人の人生を疑似体験できる。実際には恋愛をたくさんすることは不可能だけど、物語ではいろんな身分・状況・心情を体験出来る。独りではいろんなことを体験したり、研究したりすることもできない。しかし、読書はそれを可能にする。読書の中で考えるプロセスを通して、経験値となって自分の中に蓄積できるのだ。
 グローバルを意識するにはまず足元から。日本を知っておくために日本中を旅したり、いろんな美やワザを習得したりすることは容易ではないけど、大学生の間に出くわす新しい知識や体験を自分のモノにするために何をどのように理解して知っておくかを読書のプロセスを通じてぜひ身につけてください。

甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.34 2017) より

伊東浩司先生(スポーツ・健康科学教育研究センター)「想像と知識」

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 昨年・一昨年度、新入生へむけての図書館報「藤棚」を書かせていただきました。その「藤棚」を読み返すと年月が過ぎていくのが本当に早いと感じています。2017年度入学された皆さんは、これからの学生生活に夢や希望に満ち溢れていることだと思います。ただ、充実した学生生活はあっという間に過ぎ去っていきます。この学生生活をより充実させるためには、勉学・スポーツなど多くのことをチャレンジしてほしいと考えています。様々な学生生活の一つとして、読書活動を推進するライブラリ サーティフィケイト というものがあります。貴重な学生生活の中でゆっくりと本を読める時間が持てれば本当に素晴らしいことだと考えています。私自身、スポーツ・健康科学教育研究センターに所属しているので、スポーツと本に関して少し書かさせていただきます。昨年、ブラジルのリオデジャネイロでオリンピック・パラリンピックが開催されました。日本代表選手の活躍で日本国内も大いに盛り上がりました。メダリストが東京都中央区をパレードした際には、沿道に80万人の方が祝福に駆けつけました。そのメダリストの半生などが書かれた本も多く出版されています。あの時の感動の思い出しながら、それまでのプロセスを知ることで、選手自身やその競技種目がより好きになるのではないでしょうか。そして、リオデジャネイロオリンピック・パラリンピックの次は、2020年に東京でオリンピック・パラリンピックが開催されます。皆さんが入学して4年目にあたります。私自身、この東京オリンピックへ向けて、陸上競技の強化委員長を昨年の10月からつとめています。新しく出来る国立競技場に日章旗をあげるという壮大な目標にむかって悪戦苦闘しています。そのような時に、大きな力になってくれるのはネットからの情報よりも、本から多くの情報を得ています。特に、スポーツやビジネスなどの世界でリーダーとして活躍された方の本を読むだけで、私の想像と知識の引き出しが増えていきます。そのため、時間があれば本を読んで少しでも想像と知識の引き出しを増やしていきたいと心掛けています。2020年は、皆さんにとって就職活動の年度になることを考えると、ぜひ、時間がある時に本を読んで少しでも知識の引きだしを増やる学生生活を送っていただきたいと考えています。

甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.34 2017) より