カミュ著 『シーシュポスの神話』

 

 

知能情報学部 4年生 Tさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : シーシュポスの神話
著者 : カミュ著 ; 清水徹訳

出版社:新潮社
出版年:1969

「シーシュポスの神話」は、「世界に意味がないとしても人はどう生きるか」を真正面から扱う本である。人は意味や秩序を求めるのに、世界は沈黙して答えを返さない。そのズレをカミュは「不条理」と呼び、まず自殺という問題を入口に置く。意味がないなら生きる理由もないのでは、という問いを避けずに出してくる点が重い。ただし結論は投げやりではなく、不条理を理解したうえで逃げずに生きる態度、つまり反抗へ向かう。ここで重要なのは、反抗が「希望」や「救い」によって不条理を消すことではなく、消えないまま引き受けることだという点である。象徴として語られるシーシュポスは、岩を押し上げても必ず転げ落ちる罰を背負うが、カミュはその反復にこそ人間の勝ち方を見いだす。転げ落ちると分かっていても押す、という選択が自分の意志になる瞬間に、人は屈していない。

読み味は論理だけで押すというより、たとえ話が混ざり、そこで理解が進む部分もある。だから「完璧に分かった」と言い切るより、腑に落ちた所だけを拾いながら読むほうが合うと感じた。個人的には注釈が多い点が助けになり、哲学書にありがちな置き去り感が少ない。とはいえ、引用や批判の対象(宗教や思想家)を知らないと引っかかる箇所もあり、読みやすさは読者の知識に左右される。

読後に残るのは、意味を探し回って疲れるより、意味がない前提で自分の行為を選び直すという感覚である。やる気を出す本ではないが、「どうせ無意味だから」と投げる癖を止めるブレーキになる。現代は成果や正解を急かされやすいが、この本は「正解がない」状況での姿勢を問い直すことができる。今あることを深く考え、不条理と向き合うきっかけを与える一冊であった。

越尾圭著 『なりすまし』

 

 

知能情報学部 4年生 Mさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : なりすまし
著者 : 越尾圭

出版社:角川春樹事務所
出版年:2025

戸籍という“国家の台帳”が、ここまで人の生を左右するのかと衝撃を受けた作品。ブックカフェ店主・和泉浩次郎は、出勤した朝に妻エリカの惨殺体を見つける。捜査で明かされるのは、妻が戸籍を偽って生きていた事実。しかも和泉自身も別人の戸籍を買って生きる「なりすまし」で、警察に深入りされれば自分も崩れる。この二重の地雷が、冒頭から読者の呼吸を奪う。赤い表紙の不穏さの通り、平穏な家庭が制度の穴に呑まれていく過程が容赦ない。

物語は、戸籍売買、無戸籍児、加害者家族といった現実の暗部を、単なる設定で終わらせず「なぜそうせざるを得なかったのか」という事情と感情に落とし込む。脇役の刑事やブローカー的存在が“制度の綻び”を別角度から照らし、善悪が単純に割れないところが後味を深くする。“身分証明”が崩れた瞬間、人は誰からも救われなくなるという恐怖が、事件の血よりも冷たい。胸に深く長く残る。一方で、人物と名前(戸籍)の入れ替わりが重なり、途中から「整理しないとこんがらがる」「ご都合主義に見える瞬間がある」という指摘も散見される。けれど、その“混線”こそ、名前を失い、誰にも証明されない人生を生きる息苦しさの再現でもあるのだろう。

社会派の硬さよりも、サスペンスの疾走感が前に出ているので、重いテーマが苦手でも読みやすい。ただ、伏線の回収は“意外性”に振れやすく、論理パズルの端正さを求める読者には好みが分かれるかもしれない。とはいえ、身分とは何か、家族とは何かを突きつけるラストの余韻は強い。時間を取って一気に読み、途中で人物相関をメモすると、痛みと興奮の両方がより鮮明になる。

現代の“ID社会”に住む私たちへ、静かな警告として響くような思いがくる。実際に起こっている問題でもあるから、ただのフィクションとは感じられない。私達の隣り合わせのことだと考えると、より一層に深く読める。

冲方丁著 『十二人の死にたい子どもたち』

 

 

知能情報学部 4年生 Mさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : 十二人の死にたい子どもたち
著者 : 冲方丁

出版社:文藝春秋
出版年:2016

廃病院に集まった十二人の少年少女が、同意のうえで「安楽死」を実行する――はずだった。ところが“集いの場”のベッドには、想定外の十三人目の遺体。ここから物語は、密室の恐怖を煽るよりも「議論」と「推理」で転がりはじめる。書籍レビューで目立つのは、とにかく“止まらない”“一気読みした”という読了速度への言及だ。会話の応酬で状況と過去がほどけ、票決やルールが緊張を生む構図が、読み手を輪の中へ引きずり込む、と評価されている。

舞台がほぼ一室に絞られるため、台詞のテンポと論点の切り返しが読み味を決める。そこで好意的な読者は「討論劇として面白い」「推理と議論を楽しむミステリ」と捉え、人物の観察がそのまま謎解きになる快感を推す。

一方、登場人物が多いぶん序盤は番号と名前の対応に戸惑う、説明が続いてだれる、という指摘もある。それでも、各人の役割がくっきりしてくると一気に読みやすくなった、キャラクター分けが明確で後半はスラスラ読めた、という声が続く。議論が進むほど「死にたい理由」が多層化し、誰かを救うことは正しいのか、他者の選択に介入できるのか、という問いが浮上する点が刺さった、という反応も多い。私の思いとしては、誰もが抱える「悩み」から「死にたい理由」と深堀りしていくうえで、救いがある事を気付かせる展開はすごく好みである。

ただし賛否を分けるのもまた“言葉の濃度”だ。議論が回りくどく疲れる、語りが達観しすぎて現実味が薄い、結末が想像の範囲内だった、文章運びが好みに合わない――と辛口も少なくない。それでも本作が強いのは、死をセンセーショナルに消費せず、匿名の場でしか吐き出せなかった痛みを、対話の場に引き上げるところだろう。人物関係をメモしつつ読むと、賛否の分かれ目も含めて“議論に参加した感覚”が増す。読後に残るのは解決の爽快感というより、他者の生を想像し続ける手触りである。重い題材であっても推進力は強い。会話型ミステリ好きに勧めたい。

杉本喜美子(マネジメント創造学部)『Emerging markets and industrialized countries in the new wave of globalization : proceedings of the French-Japanese Conference on Asian and International Economies in the Era of Globalisation, Aix-en-Provence 2024』

■『Emerging markets and industrialized countries in the new wave of globalization
Springer, 2025.10
■ ISBN  9783032046017

■ 請求記号 333.6//4080
■ 配架場所 図書館1階・教員著作コーナー
■ 編著者 Gilles Dufrénot, Kimiko Sugimoto(マネジメント創造学部

<自著紹介>
本書は2024年にSciences Po Aixで開催された日仏共同国際経済学会で発表された論文を収録した選集で、編集と第9章を担当しています。「新たなグローバル化の波に各国はどう対応できるのか」という共通のテーマに向かい、欧州・アジア・アフリカの研究者達が、国際貿易・国際通貨システム・企業の戦略的行動・経済政策に関連づけて、各国が経済発展の過程で直面する構造的課題の多様な側面を明らかにしています。

 

[藤棚ONLINE]全学共通教育センター・西浦太郎先生推薦「風の歌を聴け」

図書館報『藤棚ONLINE』
全学共通教育センター・西浦太郎先生より

風の歌を聴け(村上春樹、講談社、1979年)

 今回、ご紹介したいのは村上春樹さんのデビュー作「風の歌を聴け」です。私は普段、あまり小説を読まないのですが、この作品は、ある人に勧められて読み、とても印象に残っています。

 本書を読んだ後の私の感想は、「この人は化け物だな」というものでした。そして、この人が今後、表現し、生み出していく世界はどのようなものなのだろう、と感じずにはいられませんでした。(他の人にはあまり分かってもらえませんが・・・)。いずれにしても、彼の後の作品の萌芽が多く含まれた一冊なのかもしれません。

 あまりネタバレになると良くありませんが、小説は世界に対して無関心なトーンで進み、最後にある女性との出会いと、別れがあり、そしてDJの言葉があります。

 人の言葉にならない悲しみや気持ちを聴き、苦しむ人と共に居続けようとする姿勢について考えさせられる作品です。

 また、読んだ後に、本のタイトルについて考えてみるのも面白いかもしれません。

経営学部 平野 恭平先生へのインタビュー

文学部4生 Iさんが、経営学部 平野 恭平先生にインタビューを行いました。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

 

 

―読書の頻度はどのくらいですか?

 

研究に関する本は週2―3日、最低1―2時間読むようにしています。なかなかその時間を確保できないこともありますが、論文を執筆するときなどはほぼ毎日、本や論文を読んでいることもあります。娯楽の本だと、月に数日読むことができればいいかもしれません。小説も好きなのですがなかなか時間が取れず、出張の際の新幹線や飛行機の移動時間に読むようにしています。

 

 

―図書館や書店はそれぞれどのくらい利用されますか?

 

本や論文を執筆しているときは頻繁に図書館に行きます。ILLで本や論文を取り寄せることも多く、図書館職員の方に助けてもらっています。学生の時は図書館の閲覧室に籠っていましたが、今は研究室があるので研究室で過ごすことが多くなりました。書店は気の向くまま、大学の帰り道や何となく時間を潰すときに利用することもあります。

 

 

―面白そうな本の見つけ方や、手に取る決め手を教えてください。

 

実際に書店に行き、自分の専門である日本史や経済学、経営学などのコーナーに寄って面白そうな本を見つけています。本を手に取って、序文や注、あとがきなどをパラパラと捲ってみると面白いですよ。決め手はやはりタイトルと帯。あとは直感です。小説や新書の帯は面白いのが多く、目について手に取ることも多いです。

 

 

―読書の魅力は何だと思いますか?

 

専門書は、新しい知識や情報が増えるということです。今はインターネット上でもすぐに論文が読め、AIでも簡単にまとめられます。しかし、そのような論文の集大成として書かれた本を読むと、著者の思考がより整理された形で体系的に理解できるように思います。これは著者の思考を読み解く、自分たちにしかできないアプローチだと思います。

娯楽の本については、映像化されているものも良いのですが、原作を読みながら自分の脳裏でビジュアル化するという独自性は読書ならではだと思います。相手を理解し、考え方や感情を想像することは、対人関係や人間力を高める訓練にもなるのかもしれませんね。

 

 

―本は紙派ですか、電子派ですか?その魅力も教えてください。

 

圧倒的に紙派です。以前、図書館の本の落書きを調べたことがあるのですが、そういったものは電子書籍では残らないものですよね。古本に書き込みや落書きの痕跡が残っていたり、貴重な写真が挟まっていたり、所有者の様々な痕跡が残るのは紙の本ならではの魅力だと思います。あとは、本の装丁にこだわりが見られることや、年齢的に長時間の電子デバイスがしんどいというのも理由にあります…。

 

 

―先生のお気に入りの本を教えてください。ジャンルや作家でも構いません。

 

歴史学だとリュシアン・フェーヴル『歴史のための闘い』でしょうか。私は西洋史には詳しくないのですが、非常に上手く訳されていて読みやすく、歴史学を考える1冊としておすすめです。経済史などに関するものだと中岡哲郎『日本近代技術の形成:〈伝統〉と〈近代〉のダイナミクス』、阿部武司『日本綿業史:徳川期から日中開戦まで』も面白いです。小説だと、池波正太郎さん、城山三郎さん、三浦しをんさん、玉岡かおるさんの本を読むことが多いです。

 

 

―学生の間に読んで欲しい本を教えてください。

 

まずは何でも良いので読んでください。最初は新書でもライトノベルでも良いので1冊手に取って、最初から最後まで読んでみてください。最近はAIが要約してくれることもあり、読書という行為が失われつつあると感じますが、自分の力でインプットして自分なりの解釈に繋げることが大切だと思います。

あえて1冊挙げるなら、お気に入りの本でもある中岡哲郎『日本近代技術の形成』をおすすめします。中岡先生には大学院生の頃からお世話になっていたので思い入れが強いというのもありますが、この本は経済史・経営史・技術史的に考えさせられる内容になっており、特に近代史を学ぶ人には読んでほしい1冊です。

 

 

【感想】

読書とAIの話を聞いて、本当にその通りだと納得しました。確かに、自分の力で読み解くことや想像することは私たち人間にしかできないことであり、私たちは読書を通してその力を培わなければならないと思いました。最後に、先生には急な依頼にも関わらずインタビューを受けてくださったことを、心から感謝申し上げます。ありがとうございました。

 

 

☆先生からのおすすめ本☆

■『歴史のための闘い
L.フェーヴル著 ; 長谷川輝夫訳
■ 東京 : 創文社 , 1977.5
■ 請求記号 201//33
■ 配架場所 図書館 . 3F書庫一般

 

 

■『日本近代技術の形成 : 「伝統」と「近代」のダイナミクス 
中岡哲郎著
■ 東京 : 朝日新聞社 , 2006.11
■ 請求記号 509.21//2025
■ 配架場所 図書館 . 3F書庫一般 サイバー . 一般和

 

■『日本綿業史 : 徳川期から日中開戦まで
阿部武司著
■ 名古屋 : 名古屋大学出版会 , 2022.2
■ 請求記号 586.221//2006
■ 配架場所 図書館 . 1F開架一般

 

 

(インタビュアー: 文学部4生 Iさん