金成隆一著 『ルポトランプ王国 : もう一つのアメリカを行く』

 

 

知能情報学部 4年生 Hさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : ルポトランプ王国 : もう一つのアメリカを行く
著者 : 金成隆一著
出版社:岩波書店
出版年:2017年

「第47代アメリカ合衆国大統領はドナルド・トランプです!」

朝のニュースを見ているとアメリカの大統領選の結果が流れてきた。信じがたいニュースに驚きつつも、「なぜ彼が選ばれたのか?」という疑問が浮かぶ。そんな問いへの答えを探るために最適な本が、金成隆一氏の『ルポ トランプ王国』だ。

本書は、トランプ支持者が多く住むアメリカ中西部や南部、いわゆる「ラストベルト」地域を中心に現地取材を重ねたルポルタージュだ。著者は都市部のエリート層が理解しきれていない「もう一つのアメリカ」に光を当て、そこで生きる人々の声を拾い上げている。廃れた工場地帯や失業にあえぐ地域で、トランプ氏を支持する理由を直接聞くことで、ニュースでは報じられない彼らの本音に迫る。

本書が特に印象的なのは、トランプ支持者たちの多様な背景と動機だ。彼らは必ずしもトランプ氏を全面的に支持しているわけではない。むしろ、「現状を変えてくれる存在」としてトランプ氏を選んだという意識が強い。製造業の衰退、移民問題、教育や医療の格差など、都市部の人々には遠い現実が、地方の人々の生活を直撃している。彼らの声を聞けば、「アメリカンドリーム」がどれほど歪み、失われつつあるかがよくわかる。

また、本書のもう一つの魅力は、著者の視点があくまで中立的である点だ。トランプ支持者を非難するのではなく、彼らの思いをそのまま伝える姿勢は、読者に偏見なく考えさせる力を持つ。現地の風景描写や個々のエピソードも豊富で、まるで旅をしながらアメリカの深層を見つめているような感覚に浸れる。

『ルポ トランプ王国』は、単にトランプ支持者の声を伝えるだけでなく、アメリカ社会の深層に潜む問題を浮き彫りにする力強い一冊だ。読者に対して、トランプを支持する理由をただ批判するのではなく、彼が生まれた社会的背景を考えるように促す。この本を通じて、アメリカの分断や社会的格差の実態を知り、政治や社会について考えるきっかけを得ることができるだろう。

トランプがなぜ選ばれたのか、その答えを一歩踏み込んで考えるための手助けとなる本書は、政治に無関心な人々にもぜひ読んでほしい一冊である。