松川恭子先生(文学部)「小説を読み、映画を楽しむ/映画を観て、小説を楽しむ」

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 よくよく考えると、映画の中には小説を原作としたものが多い。皆さんの世代は、海外の作品なら『ハリー・ポッター』シリーズを、最近の日本映画なら、人気の小説家、有川浩の小説を原作とする『阪急電車』『図書館戦争』などを思い浮かべるかもしれない。ここ数年、自分自身が鑑賞した映画の中に小説を原作としたものがあったかどうか振り返ってみると、残念ながら、全然ないという結論になった。インドのメディアを研究対象としている関係でインド映画を観る(普段は時間がないので、大体インドに調査に行く飛行機の中で鑑賞している)か、まだ幼い娘と一緒に『ファインディング・ドリー』などのアニメ映画を観に行くというのが最近の私の映画の鑑賞傾向だからだ。
大学院博士後期課程まで進み、在学年数が長かったため、学生時代の私は、そこそこの本数の映画を観たと思う。小説を原作とする映画で私が好きなものに、5歳の時に両親とともに日本からイギリスに移住した作家、カズオ・イシグロ原作の『日の名残り(he Remains of the Day)」や、スリランカからイギリス経由でカナダに移住したマイケル・オンダーチェの『イングリッシュ・ペイシェント(English Patient)』などがある。どちらの原作ともに権威あるブッカー賞を受賞し、映画の方はアカデミー賞にノミネートされ、後者は作品賞を受賞している。映画版『日の名残り』は、年老いたイギリス人執事が名門家に捧げた半生を振り返る様をアンソニー・ホプキンスが味わい深く演じ、原作の雰囲気をそのままスクリーンに再現している。また、映画版『イングリッシュ・ペイシェント』は、瀕死の重傷を負った「イギリス人の患者」をレイフ・ファインズが演じ、なぜ彼が「イギリス人の患者」と呼ばれるようになったのかが、進行中の現在と回想を交えた形で美しく描かれている。私は『日の名残り』は原作を先に読んでから映画を鑑賞し、『イングリッシュ・ペイシェント』は映画を観てから小説を読んだが、どちらも楽しい経験だった。
 幅広い世代に広く知られている作品としては、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズを挙げられるだろうか。イギリスのJ・R・R・トールキンの『指輪物語(The Lord of the Rings)』は、ホビット族の青年フロドの、強い力を秘めた指輪を破壊する旅路と冥王復活をめぐる様々な人々の戦いを描いた作品であり、原作の壮大な物語を映画でポイントを絞っていかに描けるかが課題だったが、出来上がった映画は、原作好きの私でも満足できる内容だった。
 ここに挙げた三つの作品は、原作の小説、映画のDVDとともに甲南大学図書館に所蔵されている。DVDは、視聴覚コーナーで鑑賞することができる。小説を読んでから映画を楽しむか、映画を先に観てから小説を楽しむか。それは、皆さん次第だが、このような「メディア・ミックス」的な使い方で図書館を利用するのも一つの方法だと思う。

甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.34 2017) より