小西幸男先生(共通教育センター)「グローバル人材になるために読書?」

☆新入生向けの図書案内
 最近はグローバル化という文字が其処彼処に使われ、なんだか新しいことの様に扱われる。社会はグローバル人材の育成やグローバル化が今後の生き残りの手段のように騒ぎ立てる。ちょっと知りたいことがあれば、インターネットにアクセスして即座になんらかの答えが検索できる。情報環境の中で自分の中で「コレだ!」と確信することはとても難しい。ネット上では怪しい情報に惑わされることもある。
 世界を相手に状況や相手を理解するには、いろんな情報を知っておく必要がある。インターネットの情報にはその結論やモノの見方に到達する過程が省略されている。回答だけがポンと目の前に表れ、「なぜそうなるのか?」「なぜ違うのか?」の謎は解けないままのことも多い。だから、その場での解答は得られても、自分のモノになりにくい。
 自分のアイデンティティーとか価値観を持っていないまま世界に出て行くと「単なる日本から来た人」になってしまう。世界中どこへ行っても「自分」を持ち、表現できることがグローバル人でないかと思う。
 では、「自分」を築く近道はなんなのかと考えるとインターネット検索よりも時間はかかるけど、驚くことに「読書」が実は時短テクの一つなのだ。時間がかかって面倒に思える読書だが、「本」は恋愛小説から専門書まで様々なジャンルがある上に、自分で選べる。読むことは文字の情報以外にも知恵や情報を自分のモノにする思考回路を育てるのにとてもいい訓練の方法の一つである。
 例えば、読書を通じて他人の人生を疑似体験できる。実際には恋愛をたくさんすることは不可能だけど、物語ではいろんな身分・状況・心情を体験出来る。独りではいろんなことを体験したり、研究したりすることもできない。しかし、読書はそれを可能にする。読書の中で考えるプロセスを通して、経験値となって自分の中に蓄積できるのだ。
 グローバルを意識するにはまず足元から。日本を知っておくために日本中を旅したり、いろんな美やワザを習得したりすることは容易ではないけど、大学生の間に出くわす新しい知識や体験を自分のモノにするために何をどのように理解して知っておくかを読書のプロセスを通じてぜひ身につけてください。

甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.34 2017) より