星野源著『いのちの車窓から』

法学部1年 新美拓人さん(「基礎演習(濱谷)」リサーチペーパーより)

 星野源をテレビなどで見たことのある人は明るい・陽気な人物な印象を持っていると思う。しかし、彼は過去には壮絶な人生を送ってきた。
 まず、芸能人としての活動を始める前の少年時代だ。とあることがきっかけで学校でいじめられるようになった。そこからパニック障害になり、安定剤を飲むほどだった。彼が高校生のとき、不安神経症になってしまい、学校に行けず、家から出られなくなった。この後に、クレイジーキャッツの『だまって俺についてこい』という一曲に出会い立ち直っていき、芸能活動を始める。
 しかし、彼は再び壮絶な経験をする。俳優・音楽家としても成功し始めたとき、彼は「くも膜下出血」という病気になった。重篤な状態だったが、手術は成功した。しかしその後が苦痛だったという。食べ物はもちろん水も飲めず、ずっと頭痛が続く。

「今すぐにでもベッドの頭上にある窓から飛び降りたい。早く死んでしまいたい。こんな拷問のような痛みはもうたくさんだ」

 彼はこの時の苦しみをこのように語っている。この時の経験が「地獄でなぜ悪い」という歌になっている。
 無事に退院した後、容体が悪化してきたため、再入院する。ついに完治した彼は、「SUN」・「恋」という大ヒット曲を生み出していった。
 このような経験をしてきた彼だからこそ、人間関係についての考え方などに共感が出来るのだと思う。私の紹介した「いのちの車窓から」にもそれが書かれている箇所がある。人見知りについて書かれているのだが、自分が人見知りだからかもしれないが、考えさせられる部分があった。

相手に「人見知り」というのは「自分はコミュニケーションを取る努力をしない人なので気を使ってください」と言っているようなものだ

 このフレーズがとても自分の中に残っている。「周りの目を気にして嫌われないようにする必要はない」というこの文章は、彼が言うと説得力があるのだ。
 文章だけでなく歌にも同じようなものがあると思う。私は彼の楽曲を全て聞いたわけではないが、自分が聞いたものだけでも励まされる歌が多くある。彼のメジャーな歌ももちろん元気が出るいい歌なのは間違いないが、個人的には昔の歌が一番励まされている気がする。例えば「日常」という歌である。バイトの帰りに聞いていると、「明日も頑張るか」みたいな気になれる。雰囲気は悲しい感じなのだが、「とりあえず頑張れ」と言われている感じがするのだ。
 また、この本以外にも彼は本を執筆している。
 「そして生活は続く」は、彼の初めて書いた本であり、この本もまた日常が書かれている。しかし、いのちの車窓がブレイクした後に書かれているのに対し、この本はブレイク前に書かれているため、また違うものになっている。
 「よみがえる変態」はくも膜下出血から復活するまでの3年間が書かれている本である。
 ここに挙がっている本全てにいえることなのだが、面白い・くだらないことを言っている部分と考えさせられる部分がある。これが自分が読みやすいと感じた理由だと思う。今紹介したような話の部分と彼がゲームをしているだけの一夜のような話が適度な間隔で書かれている。
 メリハリがあるため読んでいても苦痛ではなく、印象に残りやすい。「人見知り」の話が印象に残っているのもこれが理由だと思う。また、文章も難しく書かれておらず、理解しやすい。
 最後にこの本の一文を引用して終わりたいと思う。この文は彼の人生そのものを表しているようにも感じる。

「いのちの車窓は、様々な方向にある。現実は一つだけれど、どの窓から世界を見るのかで命の行き先は変わっていくだろう。」