太宰治著『人間失格』

法学部1年 久本小茄さん(「基礎演習(濱谷)」リサーチペーパーより)

 まずは太宰の生涯から見ていく。
 本名は津島修治で、14歳の時に貴族院議員である父が病没。人間失格の主人公である葉蔵も育ちが良いという設定であり、太宰と共通している。16歳の頃から小説やエッセイをクラスメートと作った同人雑誌に書き始めたた。20歳の秋ごろから急激に左翼運動に傾斜し、12月に最初の自殺未遂。「資産家の子」という自己の出身階級に悩み、下宿で睡眠薬による自殺を図った。彼は金持ちの家に生まれるも愛情には恵まれなかったのである。
 翌年、東京帝国大学(現・東京大学)に入学。かねてから尊敬していた井伏鱒二に上京後すぐ弟子入り。秋ごろ、深い関係にあった小山初代に地元有力者からの身請け話が持ち上がり、動揺した太宰は彼女を上京させる。名家の子が芸妓を呼び寄せたことは郷里で騒ぎになった。2人が同棲をはじめると、生家から長兄が上京し、「(初代が芸妓でも)結婚は認めるが本家からは除籍する」と言い渡される。これを受けて、太宰は実家から縁を切られたのである。
 一方、太宰は銀座のカフェの女給・田部シメ子と出会い、そのまま浅草見物など3日間を共に過ごした後、彼女とカルモチン心中を図る。田部は間もなく絶命、太宰は一命を取りとめた。事件後、太宰は自殺ほう助罪に問われたが起訴猶予となる。
 翌月、小山初代と仮祝言をあげた。22歳で大学にはほぼ行かず、反帝国主義学生同盟に加わる。翌年、左翼活動がばれてしまい長兄に激怒され、彼の左翼活動は終わった。
 26歳の時、授業料未納により大学を除籍され、都新聞社の入社試験にも落ち、3回目の自殺未遂を起こす。その直後、腹膜炎で入院し、鎮痛のため使用した麻酔剤をきっかけに薬物中毒になる。
 翌年、遺書のつもりで書いたという作品集「晩年」を刊行。同年秋、太宰の薬物依存があまりに深刻なため心配した井伏らは太宰に半ばだますような形で精神病病棟に入院させる。太宰は、「自分は人間とは思われていないのだ、自分は人間を失格してしまっているのだ」と深く傷つく。この体験は8年後、「人間失格」に結実する。
 退院後、妻初代は入院中の浮気を告白。ショックを受けた太宰は、28歳で、初代と自殺を図ったが未遂となり離婚する。その後、「女生徒」「富嶽百景」「斜陽」などを執筆し、反響を呼ぶ。1948年、過労と乱酒で結核が悪化。栄養剤を注射しつつ「人間失格」を執筆。
 6月13日深夜、山崎富栄(戦争未亡人)と身体を帯で結んで玉川上水に入水する。6日後に遺体が発見される。38歳没。しかし、この入水心中は女側の無理心中説や狂言心中のつもりだった説など様々な憶測を呼んだが、真実は藪の中である。
 太宰は感受性が強く人間不信で常に情緒不安定な性格であり、女性関係やお金にだらしない性格であった。彼は傷つきやすい性格であったので人一倍病みやすく、自暴自棄な面があったと思った。現代でもリストカットを繰り返し、薬物を過剰摂取して精神病院に入院する人は多々居るし、インターネットにおいてもそういった人をよく見かける。だから、「人間失格」は70年以上前の作品であるけれど、現代の若者でも理解しやすい作品だと思う。何度も自殺を試み、多数の女性を巻き込んだりと波乱万丈な人生を歩んだ彼だが、もし自分が太宰と全く同じ状況に置かれたら病んでしまう気持ちも分からなくはないと思った。
 ここまで調査してみて、太宰の人間関係はかなり複雑だったので、相関図の代わりに太宰の人間関係を数行でまとめてみようと思う。小山初代は最初の妻であり、太宰の入院中に他の男性と過ちを犯しその後離婚。石原美知子は2番目の妻で、太宰の師匠である井伏鱒二が「このままでは太宰がだめになる」と思い、彼の再婚相手を探し、紆余曲折ありながらも彼女と見合い結婚したのである。また、田部シメ子と心中未遂を起こし、愛人であった山崎富栄と心中を試み成功。太宰は女性関係が多く、太田静子という愛人もいた。
 この作品は一度読んでみると、特に繊細な心の持ち主でなくとも、共感できる作品だと思った。度重なる問題から自暴自棄になるということは私にも起こりうることなので、この作品のこういった面は私にも影響を与えたし、だれしもが影響を受けると思う。
 本作で描かれている良家の子が堕落していく様子は、陰鬱な雰囲気をまとっているが、だんだんと引き込まれいくものがあると思った。この陰鬱な雰囲気には、太宰の作風や人柄が反映されていると思うので、見所だと思う。堕落する過程がテンポよく描かれており、さらに太宰と人間失格の主人公の人生が酷似していることから、この作品を読むと太宰のおおまかな人生の流れや人柄を共感しながらすらすらと読み取り、つかむことができると思う。
 太宰の性格や人生から多くのことを学び取り、太宰の考えや行動と自分のそれにどんな共通点があるかをぜひ見出してほしい。