[藤棚ONLINE]マネジメント創造学部・中村聡一先生推薦『国家』『ニコマコス倫理学』

図書館報『藤棚ONLINE』
マネジメント創造学部・中村聡一先生 推薦

プラトン『国家』とアリストテレス『ニコマコス倫理学』はリベラルアーツには欠かせない主要図書であります。ラファエロ作『アテナイの学堂』の中央に位置するプラトンとアリストテレスが書籍を手にしておりますのをご覧ください。プラトンが手にするのが『ティマイオス』。アリストテレスは『ニコマコス倫理学』です。

アテナイの学堂

プラトンの『ティマイオス』は、プラトンの主要作品である『国家』の後半部分に収録されております「イデア論」を発展させる形で書かれたものです。彼から見て後世のネオプラトン派の学説とイエスという若者の存在を結び付ける形で、後のキリスト教神学に大きな影響を与えたといわれます。

アリストテレスが手にししている『ニコマコス倫理学』は今回の私の推薦図書のうちの一つです。

リベラルアーツとはなにか、耳にしたことはあるが、なんだかよくわからないという方が多いと思います。リベラルアーツの発祥は古代のギリシア学問とされますところ、これを「ヘレニズム」と呼びます。

ギリシアがクレタの王女ヨウロペに因んで「ヨーロッパ」と呼ばれることになった西暦でいうと紀元前二千年頃の逸話から、その後のトロイア戦争、ペルシア戦争、ペロポネソス戦争を経て、ソクラテス、プラトン、アリストテレスらに代表される”ヘレニズム哲学”が生まれました。

その後、アレクサンドロス大王の東方遠征、古代ローマの時代、キリスト教の誕生、イスラム教の誕生、そして十字軍遠征やルネサンスを経て、時代は近代へと移行していきます。大航海の時代、宗教戦争の時代を乗り越え、サイエンスや近代政治哲学を生み出してきました。この間、じつに数奇な道筋を経て、「ヘレニズム」は受け継がれてきたのです。

現在の私たちまで続くこの四千年ほどのヘレニズムの軌跡を追いながら、この間に生み出されてきた哲学や宗教、文学や芸術そしてサイエンスの成り立ちを学んでいくこと、これを”リベラルアーツ”と呼びます。

この西洋学問の概念であるリベラルアーツは、元々、西洋社会のエリート層には必修です。そして急速にグローバル化する現代社会において世界的に必須の素養になっています。

意識ないかも知れませんが、じつは日本にもここ数百年のあいだに二回も大きな歴史的転機をもたらしているのです。

最初のそれは、日本が戦国時代にあった西暦では16世紀にありました。その頃、西洋社会では新大陸発見により大航海の時代にありました。ポルトガルとスペインがこの時代をリードしました。この二か国でアメリカ大陸を境に世界を半分づつ領有する取り決めまでしたほどです。彼らからみて東半分をポルトガルが、西半分をスペインが領有する計画でした。だから日本にやってきたのはポルトガルでした。宣教師のミッションが訪れました。西洋文明を目の当たりにしたわたしたちの祖先は大きな驚きをもって迎えました。

このときやってきたキリスト教カソリックの神学思想の中核にはヘレニズム哲学がどっしりと位置しているのです。16世紀の西ヨーロッパといいますと、十字軍遠征に引き続いて興った12世紀ルネサンスからすでに数百年が経過していました。文化的にも高い水準に到達していました。西洋社会に文明をもたらした「ルネサンス」とは、「ヘレニズムの復活」という意味なのです。いったん消失してしまったプラトンやアリストテレスらを筆頭とする大量のヘレニズムの文献をふたたび学ぶ直すことが「ルネサンス」だったのです。主導したのはキリスト教会です。ポルトガルからの宣教師がもたらした西洋文明とは「ヘレニズム」なのです。

二つ目の大きな転機とは、もちろん誰もが知るところの19世紀終盤からの「文明開化」です。16世紀の第一次の文明開化はその後の鎖国政策により大きく後退しましたが、開国によって明治期に、おそらくそれまでの日本においては歴史上もっとも大きな文明の変化が生じました。わたしたち日本人がその生まれ育ちを知らないまでも「西洋風」として取り入れた文明とは元をたどれば「ヘレニズム」なのです。

甲南学園の創始者である平生先生はこの時代に日本に根付いたモダニズム文化を愛し学園の理念に掲げています。つまりすべての元をたどれば、行きつくところはソクラテスであり、プラトンであり、アリストテレスなのです。

なお、今回推薦の図書とは別途、上に記した内容を包括的に著した私の本が来年春頃に出版されます。クレタのヨウロペからダーウィンまでの人類四千年に迫ります。

あわせて学びのきっかけにしてください。