池田公司先生(経営学部)「『失敗の本質』に学ぶ経営学」

☆新入生向けの図書案内

著者: 戸部良一 ほか
タイトル: 失敗の本質 : 日本軍の組織論的研究
出版者: ダイヤモンド社
出版年: 1984
配置場所: 図書館 1階特設
請求記号: 391.3/Sh79

著者: 野中郁次郎 ほか
タイトル: 失敗の本質 : 戦場のリーダーシップ篇
出版者: ダイヤモンド社
出版年: 2012
配置場所: 図書館 1階特設
請求記号: 391.3//2010

 野中郁次郎教授(一橋大学名誉教授)は、わが国を代表する経営学者の一人であり、欧米や世界各国でIkujiroNonaka の名は広く知られている。野中教授が、竹内弘高教授(一橋大学名誉教授、ハーバード・ビジネス・スクール教授)との共著で出版した『知識創造企業』(TheKnowledge-Creating Company )は、「暗黙知」と「形式知」の相互作用によるダイナミックな知識創造プロセスを明らかにしたことから、新しい経営学の理論として国際的に高く評価されている。英語版(Oxford University Press)が1995 年に出版され、全米出版家協会の「ベストブック・オブ・ザ・イヤー」が授与されている。同書の日本語版(東洋経済新報社)は1996 年に出版されている。
 野中教授の著書としては、この『知識創造企業』が代表的であるが、2011 年に起こった福島第一原発の事故をうけて、同教授が30 年ほど前に執筆した古典的名著『失敗の本質:日本軍の組織論的研究』(ダイヤモンド社、1984 年)が再び熱い注目を集めている。ここで、読者の多くは、書名の中の「日本軍の」という文言に戸惑うかもしれない。著書を英語で書くような国際派の経営学者が、なぜ第2次世界大戦における旧陸海軍の失敗を研究しているのか疑問に感じるであろう。
 組織論の立場からみると、旧陸海軍の失敗には学ぶべき点が多い。野中教授は、こうした観点から戦況を左右した旧陸海軍の主要な六つの作戦を取り上げ、組織の抱える問題点を抽出し、その分析と解釈によって行政機関や企業など現代の組織にも当てはまる教訓を導いている。
 野中教授は、福島原発事故独立検証委員会のメンバーを務めた経験から、2012 年7 月に続篇、すなわち『失敗の本質:戦場のリーダーシップ篇』(ダイヤモンド社)を公表している。1984年に公表された『失敗の本質:日本軍の組織論的研究』と合わせて読むことをお勧めしたい。なお、1984 年の『失敗の本質』は、中公文庫から廉価な文庫本としても出版されている。
甲南大学図書館報 藤棚(Vol.30 2013) より