知能情報学部 3年生 Kさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)
書名 :恋に至る病
著者 : 斜線堂有紀著
出版社:KADOKAWA
出版年:2020年
斜線堂有紀の『恋に至る病』は、愛の持つ純粋さと狂気、そしてそれが引き起こす破滅的な悲劇を描いた衝撃的なミステリー小説です。本作では、幼なじみの宮嶺と寄河景の二人の関係を軸に、人間関係の光と影、さらには愛の危うさを丁寧に描写しています。
寄河景は、誰からも愛される善良な女子高生として登場しますが、物語が進むにつれて日本中を震撼させる自殺教唆ゲーム『青い蝶』の主催者へと変貌していきます。その変化は急激ではなく、じわじわと忍び寄るように描かれるため、読者は彼女の変貌を恐ろしくもリアルに感じ取ることができます。一方で、彼女を一途に愛する幼なじみの宮嶺は、景の変化に気づきつつも、「世界が君を赦さなくても、僕だけは君の味方だから」と彼女を支え続けます。しかし、この愛情は純粋であるがゆえに、彼女の変貌を止めるどころか、むしろ黙認する結果となり、最終的には彼自身をも巻き込む破滅へとつながっていきます。
本作の中核を成すのは、この二人の関係と、それに伴う心理描写の巧みさです。宮嶺の視点を通して描かれる景への愛情は、献身的であると同時に自己破壊的であり、その痛々しさが物語全体に深い緊張感を与えています。一方で、景自身の無垢さと狂気が混在するキャラクター性も、単なる「悪」として一括りにできない複雑さを持ち合わせており、読者の心を強く揺さぶります。
また、自殺教唆ゲーム『青い蝶』という設定は、単なる物語上の装置にとどまらず、現代社会におけるSNSの匿名性や孤独感、つながりの脆さを象徴しています。人々が抱える見えない不安や孤独が、このゲームを通じて表面化し、悲劇的な結末を生む様子は、単なるフィクションでは片付けられない普遍性を持っています。
『恋に至る病』は、恋愛がもたらす幸福だけでなく、そこに潜む狂気や破壊力を鋭く描き出した作品です。読後には深い余韻が残り、「愛とは何か?」という普遍的な問いを突きつけられることでしょう。恋愛小説やミステリーの枠を超え、人間の本質に迫った本作は、多くの人にとって心に残る一冊となるはずです。