
知能情報学部 4年生 Hさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)
書名 : 教誨
著者 : 柚月裕子
出版社:小学館
出版年:2025年
柚月裕子の『教誨(きょうかい)』は、死刑囚として刑の執行を受けた女性の心の内側を丹念に描き、人間の「罪」と向き合うことの意味を深く考えさせる長編犯罪小説である。単なるサスペンスとしての面白さにとどまらず、読後に静かな余韻を残す重厚なテーマが印象に残る作品だ。
物語は、遠縁の死刑囚・三原響子が執行によって死亡し、その遺骨と遺品の引受人に指名された吉沢香純とその母・静江のもとに連絡が入るところから始まる。響子は十年前に我が子を含む幼女二人を殺害したとされ、「毒親」「ネグレクト」と社会的に糾弾された人物だった。しかし香純の記憶する響子は、報道されたイメージとはどこか違っていた。響子が最期に遺した「約束は守ったよ、褒めて」という意味深な言葉を解き明かすため、香純は響子の教誨師であった下間将人住職の助けを借りながら、青森県の菩提寺へ向かう旅に踏み切る。そこから、彼女は事件の背景と真実に少しずつ迫っていく。
本作の魅力は、単純に事件の真相を追うミステリーとしての面白さだけではない。響子という人物像が、世間のレッテルや報道とは異なる多層的な側面を見せることで、読者は「罪」とは何か、人はどのように裁かれうるのかを問われる。響子の行為そのものは決して許されるものではないが、彼女を取り巻く環境や人間関係がどのように作用したのかを想像させ、事件の当事者と第三者という距離感を繊細に描き出している。響子の最期の言葉が示す真意を追いながら、香純の視点を通して私たち読者もまた、罪に対する固定観念を揺さぶられていく。
読み進めるうちに、事件の背景や登場人物の思いが丁寧に重なり合い、「正義」とは何かについての問いが静かに立ち上がる。死刑制度や社会的な裁きについての明確な結論は提示されないが、それこそがこの作品の強さでもある。『教誨』は、人間の深層を抉り出す文学的な犯罪小説であり、罪と向き合い、人を理解しようとする姿勢の重さを読者に突きつける一冊だろう。
