ジャレド・ダイアモンド「銃・病原菌・鉄」

書名: 銃・病原菌・鉄 : 1万三〇〇〇年にわたる人類史の謎 (上・下)
著者: ジャレド・ダイアモンド
出版者: 草思社  出版年: 2000年
配置場所: 1階開架一般  請求記号: 204/D71/

  人類が誕生してから約250万年間、ヒトは石器を使って狩猟採集を行っていました。この時代は、「旧石器時代」と呼ばれています。この長い旧石器時代は、文明の進化も緩やかでした。しかし、農耕が始まってからは急速に発展し、わずか約1.2万年で、現代人がスマホを握るに至っています。
 その間、ヒトは生物学的な進化も続けてはきましたが、その速度は緩やかなままです。つまり、旧石器時代中期のヒトと、現代のヒトは、知能も含めて、生物としてはほとんど変化がありません。あらゆる年代ヒト、あらゆる国と地域のヒトは、どんな生活をしていても生物学的な格差はない、と結論付けることができます。
 では、文明の格差は、なぜ生まれたのでしょうか。強大な政治力・経済力を持った国家が生まれる条件とは何だったのでしょうか。鉄を製錬し、銃を創造して、他の大陸を圧倒したのは、なぜヨーロッパを中心としたユーラシア大陸の人々だったのでしょう。逆に言えば、アメリカ大陸の先住民族、たとえばアステカ帝国によって、スペインが制圧されなかったのはなぜでしょう?そして、この本のタイトルにあえて「病原菌」が追加されている理由は?

 著者のジャレド・ダイアモンド氏は、生物学から始めて医学、進化生物学と幅を広げ、この本を執筆する頃には言語学などの人文科学分野まで研究対象としていた学際的な研究者です。学問分野の枠にとらわれずに人類の歴史を検証したことで、それまでの常識に一石を投じました。

 オーストラリアの友人からこんな話を聞いたことがあります。砂漠でキャンプをしていたら、ディンゴ(野生の犬)が彼の靴を盗っていってしまったそうです。近くに住む伝統的な狩猟採集生活をしているアボリジニの子どもたちに、靴を見つけてくれるように頼んだら、ディンゴの足跡を追跡して1時間ほどで靴を取り戻してくれたとのこと。靴を取り戻すだけでも、周辺の地理やティンゴの生態など、多様な知識を使います。ましてや、生きていくためには、膨大な量の知識が必要となります。
 本やインターネットに、たくさんの知識を蓄えているつもりでも、わずかに1.2万年分です。しかも、それらの外部記憶領域にアクセスできなくなったら、我々は生きていけるでしょうか?
 昔の人も偉かったのだと、改めてそんなことも考えた本でした。

(konno)