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【第10回 甲南大学書評対決】 ハン・ガン著 『すべての、白いものたちの』

4月23日(水)に開催された第10回 甲南大学書評対決(主催:甲南大学生活協同組合)で紹介された本です。

 

経営学部教授 西村 順二 先生からのおすすめ本です。

 

 

書名:すべての、白いものたちの
著者: ハン・ガン
出版社:河出文庫
出版年:2023年

西村先生1冊目のおすすめ本です。2024年にノーベル文学賞を受賞した本です。

 

以下、先生の書評です。

 

本書は2024年ノーベル文学賞を受賞したハン・ガン氏の著作です。

筆者は、冒頭に筆者にとっての白いものは「おくるみ、うぶぎ、しお、ゆき、こおり等」を挙げています。単に「白色」という色に拘るでなく、筆者の過去の体験、それを現在からみた上でのそれらに対する思いが詰まっています。それを「しろいもの」に見出しています。筆者の世界観が「しろい」をキーワードに広がっています。そして、「しろい」という形容詞が何を修飾するかは読み手に任され、そこには余白がふんだんに用意されています。

是非一読して、ハン・ガンさんの世界観を感じてみてください。きっと、明日から見る風景が変わるかもしれません。また、これまで気づかなかった景色があることに気が付くかもしれませんよ。

 

 

第10回 甲南大学書評対決、生協書籍部で実施中!

もあわせてご覧ください!

中辻享(文学部)『焼畑を活かす土地利用の地理学 : ラオス山村の70年』

■『焼畑を活かす土地利用の地理学 : ラオス山村の70年
京都大学学術出版会 , 2025.2
■ ISBN  9784814005734

■ 請求記号 612.236//2002
■ 配架場所 図書館1階・教員著作コーナー
■ 編著者 中辻享(文学部)著

<自著紹介>
ラオスの人々と一緒に村の土地利用を示す地図を作ったりしながら、東南アジアの山村の環境問題と貧困問題について考えました。また、これまで活用されてこなかった古い航空写真を使って、戦争や焼畑が森林にどんな影響をもたらしたのかを70年間のスパンで考察しました。伝統的なタイプの焼畑は環境破壊ではなく、実は村の人々にいろんな恵みをもたらしていることがわかってきました。

上林朋広(文学部)『南アフリカの人種隔離政策と歴史の再構築 : 創られた伝統、利用される過去』

■『南アフリカの人種隔離政策と歴史の再構築 : 創られた伝統、利用される過去
明石書店 , 2025.2
■ ISBN  9784750359021

■ 請求記号 316.848//2006
■ 配架場所 図書館1階・教員著作コーナー
■ 編著者 上林朋広(文学部)著

<自著紹介>
1990年代まで、南アフリカは悪名高い国でした。アパルトヘイトと呼ばれる過酷な人種差別政策を実施していたからです。本書は、なぜこの体制が20世紀末に至るまで維持されたのかを、政治や社会運動だけでなく、博物館や学校教育など日常的な事例に焦点を当てて考察しました。南アフリカに住む人々がいかに人種差別を経験し、抵抗したのか、本書の記述を通して考えてもらえればと思っています。

KONANライブラリ サーティフィケイト学生企画『未知の場所に踏み込む人へ向けたナビゲーションプロジェクト』

行ったことがない場所に行くときは、ちょっとした勇気が必要ですよね。ルートを調べるだけでなく、どんな場所か見ておけるという点でも、地図アプリは便利です。
普段はポートアイランドキャンパスに通っているフロンティアサイエンス学部3年生の島村大地さんが、甲南大学図書館をGoogleMapに搭載してくれました。
「春から甲南」の皆様も、「改めて甲南」の皆様も、ご体験ください。

 新入生になったとき、まずはどこに何があるかを把握しなければならないのは必須である。自分も岡本キャンパスにて授業がある際に、何号館がどこにあるのかが分からず迷ってしまったこともあった。迷いそうなときには、GoogleMapなどの地図アプリケーションを使用するが、これを図書館内でも使えるようにすることによって、はじめて訪れるときでも図書館内部の地形把握ができ、上級生になった際でも、新たな発見につながるのではないかと考えた。
 先ずは、地形の整理から行った。図書館の職員さんと打ち合わせをして、撮影する階や各階のどこまで映すか等を決めていった。特に、撮影枚数は多くとりすぎるとマップ上での操作に影響が出るため、適切な枚数になるようにした。
 次に撮影は、許可を得て、人がいない閉館日に行った。撮影者自身が映り込み過ぎず、適切な高さを維持しながら撮影することに気を付けた。 撮影当日は雨模様だったこともあるが、公園等の屋外での撮影とは違い、光の加減に注意しなければならなかった。
 ぼかしを入れたり撮影者を消すなど、写真を加工し、GoThruというツールで撮影位置情報を確認しながら写真を配置していった。この作業が一番難所であり、位置が変わると 1階 なのに2階の景色が見えたりしてしまう。写真から写真をつなげる際に階層から逸れないように設定を加えたり、そういったことを一つ一つ行うのが少々大変だった。方角についてもGoogle Mapsでは一つ一つ設定しなければいけないため慎重にかつ丁寧に行うのがまた大変だった。
 こうして完成したものを実際にアップロードし、都度ぼかしを入れたり等の修正を行い完成させた。今後は、キャンパスごとに利便性向上のための写真撮影等を行い、それらで培った経験を活かして、社会で各々利用者に向けた情報提供を行いたいと感じた。

フロンティアサイエンス学部 島村大地

湊かなえ著 『告白』

 

 

知能情報学部 4年生 Tさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : 告白
著者 : 湊かなえ著
出版社:双葉文庫
出版年:2010年

「愛美は死にました。しかし事故ではありません。このクラスの生徒に殺されたのです。」中学校内で娘を亡くした教師が、ホームルームでクラスメイトたちに告白するところから物語は幕を開ける。教師は娘を殺した生徒A,Bとした。この二人が協力して娘を殺したことを知った教師は、エイズ感染者である夫の血液を牛乳に混ぜて二人に飲ませることで制裁を下し、教室を去った。教師の告白をきっかけにクラスメイトは二人をいじめるようになっていく。のちに牛乳は教師の夫によりすり替えられ、二人がエイズを発症することはなかったが、教師の復讐はこれで終わりではなかった。

この物語では、登場人物が交代で語りてを担い、それぞれの告白をしていく。教師の校内での事件の真相の告白から始まり、教師が去った後の教室の異様さを語る学級委員長、家庭内で起きた事件の経緯と、弟に制裁を下した教師への怒りについて語るBの姉、Aと共に教師の娘を殺し、その裁きを受け精神が追いつめられる様子や、日常的に母親から理想を押し付けられていたことに対する苦悩について語るB、母親への歪んだ愛を抱き、母親の気を引きたいがために教師の娘を殺害したことを誇らしげに語るA…。別々の視点から事件の一連について語られることで、その真相が浮き彫りになっていく。

端的で分かりやすい説明、展開の速さ、構成の見事さにより、読者のページをめくる手は止まらず、そのスピードは次第に速くなっていくに違いない。登場人物の狂気さには目を背けてしまいたいが、その登場人物ひとりひとりにもしっかりとした行動原理があり、読者の同情を誘う顔もある。人間も少しの思い込みやタイミングの違いで、一歩間違えれば異常と化すことが感じられる。物語の終わり方も衝撃的で、ある意味では救われ、ある意味では救われないといった印象を持った。生まれ育った家庭環境や、教師の下した制裁から生み出される人々の狂気、恐怖を、ぜひ味わっていただきたい。

角田光代著 『八日目の蟬』

 

 

知能情報学部 4年生 Tさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : 八日目の蟬
著者 : 角田光代著
出版社:中公文庫
出版年:2011年

希和子は浮気相手とその妻が出かけた自宅に忍び込んだ。部屋で泣く赤ん坊を抱き上げようとした際に、赤ん坊が希和子に向って笑いかけた。希和子は夫婦の間に生まれた赤ん坊を見るだけのつもりだったが、気づくと赤ん坊を抱えて逃亡していた。希和子は赤ん坊に薫と名付け、友人の家や老女の家、宗教施設のエンジェルハウスなど、生活の場を転々としながら薫を育てる。小豆島での生活を最後に、希和子が誘拐犯として薫と引き離されるところで逃亡劇は幕を閉じる。大人になった薫こと恵理菜は、エンジェルハウスでかつて共に過ごした千草の接近をきっかけに、希和子や自分の親、そして自分自身について、見つめ直すこととなる。

逃亡生活の最中、希和子の目に入る様々な媒体から自分に捜索の手がどこまで伸びてきているのかを知る際の焦燥や、薫の授乳やおむつ替え、発熱からくる子育てをした経験のない希和子にとっての困惑や不安など、その心情描写はあまりにもリアルで、まるで読者も希和子と共に逃亡していると錯覚させられる。そのため、逃亡劇としてのドキドキハラハラとした感覚が読者をまとう。また、エンジェルハウスでは外部からの情報が遮断され、希和子と薫は女性のみの集団生活を強いられるため、そのカルトチックでミステリアスな空気感に、読者も不安にかられるだろう。物語後半では、希和子や実の母を通して、薫が子供に対する愛情について考え、葛藤する姿が描かれる。浮気相手の子供を育てる、それは倫理的には問題があるのかもしれないが、生命の運命として、種の保存として子供を育てるのは本能、むしろ必然ではないのか。生まれてくる子供は、美しい世界をその目で見る、それを果たす義務が自分にはあるのではないか、あなたも考えさせられるだろう。

このように、一つの物語の中で様々な感情に出会い、思考させられるのも、本作の魅力の一つであるかもしれない。ぜひ手にとって、筆者の生命に対する美しさの考え方や、登場人物たちに対するいとおしさを感じてほしい。