2-1. 学生オススメ」カテゴリーアーカイブ

細田高広著 『コンセプトの教科書 : あたらしい価値のつくりかた』

 

 

知能情報学部 4年生 Kさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : コンセプトの教科書 : あたらしい価値のつくりかた
著者 : 細田高広著
出版社:ダイヤモンド社
出版年:2023年

本書籍は、コンセプトを「つくる」ために書かれた。どのように発想し、構想を膨らませ、言語に落とし込むのか。最初の一手から仕上げまでの一連の流れひとつの体系にまとめられている。「コンセプト」という単語は、「全体を貫く新しい観点」と説明する辞書が多い。ビジネスシーンでのコンセプトの構成は、判断基準になること、一貫性を与えること、対価の理由になることの3つと言える。

また、最初の一手で重要なこととして、コンセプトメイキングがある。「新しい意味の創造」を意味し、コンセプトメイキングは問いからはじまるが、意味のある問いでなければ意味がない。意味のある問いから意味のあるコンセプトが生まれるからだ。

問いの良し悪しは「自由度」(問いが誘発する答えの幅)と「インパクト」(答えることで生まれる社会や生活への影響力)で決まる。良い問いは受け手の発想に自由を与え、決定的な答えを導く。設計には、顧客目線で設計する「インサイト型ストーリー」と、未来目線で設計する「ビジョン型ストーリー」の2種類がある。「インサイト型ストーリー」は、顧客を救済するもので、4つのC(Customer:顧客、Competitor:競合、Company:会社、Concept:コンセプト)から構成される。

コンセプトの設計ができたならば、1行化(ワンフレーズ化)しなければならない。ここではまず、3点整理法を用いて意味を整理する。次に、目的か役割かに応じて情報を削ぎ落し、最後に2単語ルールに則って言葉を磨き上げる。コンセプトに役立つ10の構文も存在するので、それを用いるとより良いコンセプトに仕上がるだろう。

ここまで到達すれば、試作品を作成すると良い。製品の開発コンセプトであれば、1枚の紙にまとめる、マーケティングコンセプトであれば、1文にまとめることが効果的だ。

このように、この本はコンセプトのつくり方を最初から最後まで懇切丁寧にまとめられている。

森見登美彦著 『四畳半神話大系』

 

 

知能情報学部 4年生 Oさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : 四畳半神話大系
著者 : 森見登美彦著
出版社:太田出版
出版年:2005年

主人公私と小津の友情物語であると言うならば、正解ではあるのだろう。複雑に入り組んだように思えた四畳半は四畳半なのだからよく考えればきれいな正方形なのである。四畳半を移動すれば、小津との新しい物語が生まれる。選択肢は無数にあるのに小津との運命からは逃げられないのだ。

私の物語を読んで涙も出なければ、腹の底から笑うこともない。てっきり明石さんとの恋物語が始まるのかと思った自分がどれだけの間抜けなのかと痛感した。私は阿呆でもあり間抜けでもある。だから小津の手のひらで転がされることしかできないのだ。妖怪占い師に揚げ足を取られているやつが華やかな学生生活を送れるはずもない。どの四畳半に転がり込んでも、根本的には同じだ。コロッセオ、モチグマン、蛾、猫ラーメン、小津。選択肢を変えても運命の黒い糸で結ばれたものはそうやすやすと運命の変更を認めてくれるわけがない。もしかすると神はそこまで手が回らないのかもしれない。もしかすると神ごとの役割を全うしているだけかもしれない。明石さんと結ばれるのは私と決まったのだからこれ以上のことはない。きっかけを作るために神は蛾の大群を送り込んだのかどうかは知る由もない。ただ目の前の好機を逃さないことだ。

好機というのは良い機会ということです。好機というのは掴まえにくいものであります。好機のように見えないものが実は好機であることもありまして、好機だと思われたものが好機ではないこともあるのです。目印はコロッセオです。もしこの本が見えたならそこにコロッセオがあるのです。いや、コロッセオがあるときこの本が開いているのかもしれせん。

ですが好機を逃しても焦る必要はありません。立派なみなさんはいずれは四畳半を覗くことができるのですから。

湊かなえ著 『白ゆき姫殺人事件』

 

 

知能情報学部 4年生 Oさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : 白ゆき姫殺人事件
著者 : 湊かなえ著
出版社:集英社
出版年:2012年

本書は2014年に映画化もされた、『告白』『夜行観覧車』などの代表作をもつ湊かなえによるミステリー小説である。著者は『告白』のヒットとともに読んだ後に嫌な気分になるミステリー、通称イヤミスというジャンルを広めた。もちろん本書もイヤミスとなっている。

ある日、化粧品会社に勤める美人OL社員が殺害されるという事件が起きる。その事件の手がかりをつかんだフリー記者、赤星が独自に調査を始めるところから物語は始まる。本書は5章に分かれており、第1章から第4章までは赤星目線の取材にまつわる物語が展開され、第5章では、事件の容疑者である城野美姫目線の話となる。

本書では真犯人が誰かということではなく、人間の醜さやSNSの怖さに注目してほしい。赤星の取材内容には多くの登場人物が出てくるが、全員が微妙に違う証言をする。それは曖昧な記憶であったり、自分に都合の良いように塗り替えられた記憶を語っているからだ。時には自分を守るために意図的に嘘の証言をする者もいる。赤星も記事を面白くするため、無実の城野美姫を犯人だと勘違いさせるような誇張した記事を掲載する。SNSではこのミスリードのせいで、城野美姫はますます社会に戻ることが難しくなっていく様子が描かれている。

人生において噂話を他人に話した経験は少なからず誰にでもあるだろう。ただ事実は当事者にしかわからず、その当事者が真実を話してくれる確証もない。誰も本当のことはわからないのである。その中でも噂話が絶えることはない。無責任な発言により苦しめられる人がいるということを理解しなければならない。「白ゆき姫殺人事件」はこのネット社会に生きる現代人の私たちにとって自己を見直せるきっかけとなる一冊となるだろう。

筧裕介著 『認知症世界の歩き方 : 認知症のある人の頭の中をのぞいてみたら?』

 

 

文学部 4年生 Kさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : 認知症世界の歩き方 : 認知症のある人の頭の中をのぞいてみたら?
著者 : 筧裕介著
出版社:ライツ社
出版年:2021年

認知症についてどのようなイメージがありますか。

「記憶がなくなる病気」

「詳しく知ることがなんとなく怖い、タブーに感じる」

私はこのようなイメージを持っていました。もしも私と同じようなイメージを持たれている方がいらっしゃれば、本書はおすすめの一冊です。

本書は、認知症のある方に行ったインタビューをもとに、当事者の視点で認知症に関する困りごとや気持ちを書いた本です。また、それらを旅にたとえた形式でまとめていたり、文体が優しい語り口調であったりと親しみやすい工夫がされています。

そして、「旅人の声」として、認知症のある方が語るかのように、症状によって生じる感じ方や気持ちを交えながら、認知症に関するエピソードが紹介されています。このコーナーによって、認知症のある方が生きている世界を想像しやすくなっています。

私は本書を読んで、認知症の症状は記憶に関するものだけでなく、例えば形や大きさを正しく認識できないために黒いマットが穴に見えるなど、認知機能に関する症状も多くあることを知りました。また、そのような症状のために認知症のある方の生きている世界は、私が思っていたよりも危険で不安定なのだと思いました。ドラマなどで認知症の方がパニックに陥ったかのようなシーンを見たときに怖いと思ったことがあります。しかし、周囲が危険だらけの世界で生きていれば、当然の反応だと思い直しました。そして、他者の視点を知ることの大切さを実感しました。

また、本書には、認知症のある方の視点だけでなく、なぜそのように感じるのか、その原因に関する説明もあります。そのため、認知症のある方やその周囲の方が生活しやすくなるヒントがあると思います。また、どのような認知機能の働きが、私たちの普段の生活を支えているのかについても知ることもできます。些細に思える行動も複雑な仕組みで行われていることを知ると生活の見方が少し変わるかもしれません。

本書を手に取って、知らない世界を少し知ってみようかなという気持ちで、認知症について知ってみるのはいかがでしょうか。

織守きょうや著『記憶屋』

 

 

文学部 4年生 Kさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : 記憶屋
著者 : 織守きょうや著
出版社:KADOKAWA
出版年:2015年

主人公の遼一は、恋心を寄せていた杏子のトラウマを克服するお手伝いをしていました。その中で遼一と杏子は、消したい記憶を消してくれる都市伝説上の怪人「記憶屋」の話を知りますが、遼一は記憶屋をただの都市伝説だと考え、本気にしていませんでした。しかし、ある日、杏子が遼一とのやり取りも含めてトラウマに関する記憶すべてを忘れてしまいます。このことをきっかけに、遼一は記憶屋の存在を認め、そして正体を突き止めようと、記憶屋を探しはじめます。

この小説のテーマは、「記憶を消すことは良いことか悪いことか」であると考えられます。トラウマで苦しんでいた杏子の姿と人から忘れられることの痛みの両方を知っている遼一は、このことを悩みながら記憶屋の真相に迫っていきます。また、杏子以外にも記憶屋に記憶の消去を依頼した人物が登場し、その人物がどのような目的で、誰のどんな記憶を消すことを記憶屋に依頼したのかについても明かされます。

記憶を任意で消せるという非現実的な設定やそれによって生じる本小説のテーマは、共感しづらいかもしれません。しかし、この設定やテーマだからこそ、誰もがもっている記憶の普段は意識されづらい一面である、記憶は保有者だけのものではないこと、記憶の中には自身に関わってくれた人々が存在していることにスポットライトが当たり、人とのつながりの中に自分が存在することを改めて認識し、そして考えるきっかけを与えてくれるように思います。突飛な設定によって、日常生活で当たり前となっていて忘れがちなことに気づかされる点が面白いと思いました。

なお、本小説はホラー小説に分類され、作中では都市伝説を取り上げますが、怖い要素はないので、どなたでも安心して読めます。

また、つい読み進めたくなる記憶屋の真相に迫る過程だけでなく、相手を大切に思うからこそ記憶屋に記憶の消去を依頼した人物のお話も含まれているので、メリハリがあり、最後まで興味をひかれながら読むことができると思います。

澤田智洋著 『マイノリティデザイン』

 

 

文学部 4年生 Kさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : マイノリティデザイン
著者 : 澤田智洋著
出版社:ライツ社
出版年:2021年

受験や就活で、周囲から色々な助言をもらっても、やっぱりネームバリューが頭から離れないまま、他者と競争し、その隙間にスマホを見れば、すぐにSNSで他者の様子がわかって自分と比較ができてしまう。きっと社会に出ても、評価され、比較されることは続く。また、生活の中でなんとなく目にする商品や広告はすぐに変わり、前のものは思い出せない。私たちは、ものごとが大量に消費されていく社会の中で、強いことが良いことだと思い、強くなることを強いられているのかもしれません。

そのような中で、

「すべての弱さは、社会の伸びしろ」

この言葉は信じがたい言葉かもしれません。これは著者の言葉です。

著者はコピーライターで、視覚障害のある息子さんが生まれたことをきっかけに、一般的に弱さと考えられているマイノリティ性に目を向けて、それを生かす働き方をするようになりました。本書は、そのような背景をもつ著者が、マイノリティ性を生かす方法について、事例を交えて書いた本です。

本書では、マイノリティ性があるからこそ実現したアイデアが紹介されています。そのアイデアがユニークで面白かったです。また、マイノリティのためのアイデアが、結果としてマイノリティ以外の人も楽しませていて、弱さは社会の伸びしろだと実感できました。

一方、納期に追われながら、すぐに消費されるものを作る働き方に虚しさを感じていた著者が、マイノリティを生かす働き方に夢中になっていく様子からは、働くことについて考えさせられました。

「あなたの弱さは、だれかの強さを引き出す力」

これも著者の言葉で、発想力という強みをもつ著者とは違い、強みのない私は励まされました。強みがなくても、自身の弱さがだれかの強さを引き出せるのなら、周囲を良くすることに少しでも役立てるように思えたからです。

生活をしていく上で、ある程度の強さも必要で、強くなるための向上心や努力も大切だと思います。しかし、強さばかりでなくて良い、弱さがあっても良いと、本書を読んで思えました。自分にも他者にもやさしくなれる本だと思います。