2023年4月に発刊された『平生フィロソフィ』の編集に携わったタスクフォースメンバーに行ったインタビューです。
甲南学園は、4月21日に創立記念日を迎えました。
甲南生に改めて甲南学園設立者の平生釟三郎のことを改めて知り、甲南大学しかない魅力を実感してほしい。
平生釟三郎が残した言葉や生涯を学び、大学生活や今後の生活に生かしてください。
企画者: 経済学部2回生 K
吉沢英成著「平生フィロソフィ : 平生釟三郎の生涯と信念」
甲南大学出版会
神戸新聞総合出版センター (発売) , 2023.4
『平生フィロソフィ』について、どういう目的で作成されたのか、特に学生に読んでもらいたい部分を、「『平生フィロソフィ』出版タスクフォース」メンバーの上田勝弘さんにインタビューしました。
平生の人生を創り上げていた信念、精神的基盤について学んでもらう書です。それは、平生がいうところの人生の「哲学的根柢」、「哲学的英知」であり、本書のタイトルを『平生フィロソフィ』とした理由もそこにあります。
世界が混迷の中にある21世紀の今なお、平生の精神は時を超えて普遍性をまとい、そのポテンシャリティを引き出してもらうのを待っている揺るぎない潜在力が、そこにはあるのです。平生の精神を脈々と次代へと伝え続ける甲南のDNAとも呼ぶべきものが。
平生の抜きんでた魅力を、甲南人であるかどうかにかかわらず、できるだけ多くの人々に伝えたいというのも、本書の期するところです。(本書「はじめに」を要約)
本書は100ページあまりのコンパクトな書物ですが、どの部分を切り取ってもみなさんの心に響くはずです。
本書の冒頭に「平生フィロソフィへの理解を深めるために」というタイトルで、この本の読み方を案内していますので、参考にしてください。
「『平生フィロソフィ』出版タスクフォース」のメンバー皆様に、平生釟三郎の好きなエピソードや言葉と、好きな平生の本を教えていただきました。
【上田勝弘さん】
関東大震災における被災者の補償については、政府を巻き込んだ重大な社会問題になりましたが、平生の活躍により東京海上は大きな危機を脱することができました。
震災直後に平生は、法的な理屈だけではこの問題を解決できないことを各務鎌吉に警告し、なんらかの見舞金を支払うことを提案していたのです。
このことは平生が「共働互助」の精神をいかんなく発揮した最も象徴的なシーンであったと思います。
〇 上田さんが好きな平生の本
私自身が初めて平生のことを詳しく学んだ『平生釟三郎』(河合哲雄)という本です。
「日記、講演録、書簡などを渉猟して書き上げられた」(『平生フィロソフィ』P124)ものであり、平生の伝記の決定版です。
こちらは約1000ページの長編ですが、機会があれば是非チャレンジしてください。
【溝上真理子さん】
1927年3月甲南高等学校第2回卒業式 理事長平生の言葉から
「本校を出で大学に入り、数年の後には社会に出で独立の人として世に立つに於いては、自己が甲南高等学校出身なることを以て特色を発揮せざるべからず。I am from the Konan を以て誇とすること。而して其の誇とすべきは学業の優秀にもあらず、競技の優勝者なるを以てにあらず、実に人格高潔、正を履(ふ)んで畏れざる、男らしき男児たるを以てならざるべからず。」
(I am from the Konan という言葉におおっと思ったのが選んだ理由です)
〇 溝上さんが好きな平生の本
『平生釟三郎追憶記』
意外におしゃれで洋服が好き、気が短くて、ダンスは嫌い、麻雀、野球、ラグビーを愛し、額に縦皺は機嫌が悪い時。時にくすりと笑えるエピソードを含め、平生をよく知る各界の人物の追憶談を読むと、伝記や日記の中とはまた違った平生を垣間見ることができ、興味深い本です。
【鈴本めぐみさん】
「人生というものは、物欲が満たされればそれで十分だと考えるのでなく、社会奉仕にこそその意義がある」と社会奉仕の姿勢を生涯貫いているところに感銘を受けました。
他者への“service”とは何かを考えた時、つい金銭的援助を思い浮かべてしまいますが、それだけではなく、「他者のために助言したり知恵を貸すことも奉仕である」という言葉からも、自分にできるどんな些細なことも“service”になりえる、と捉え方が変わり印象に残りました。
〇 鈴本さんが好きな平生の本
『マンガ 平生釟三郎 正しく 強く 朗らかに』
平生先生の生涯がわかりやすくまとめられているため、大変読みやすいです。平生釟三郎という人物を初めて知る人にとって、入門編として最初に読んでもらうと、より『平生フィロソフィ』への理解も深まると思います。
【天野裕介さん】
人生全体が、自分の利益のためでは無く「世の中や社会全体のために」という考え方に貫かれており、その徹底ぶりには迫力さえ感じる。
現在、平生記念館の建つ旧平生邸の敷地面積は、超高級住宅街であった住吉村の中では極めて小さい。平生の収入・財力をもってすれば、大豪邸を建てることも容易だったはず。
いま、社会貢献に私財を投じ続けた清廉な男の創立した甲南学園に勤務していることを、私はとても誇らしく思う。
〇 天野さんが好きな平生の本
『平生釟三郎日記』(全18巻)
平生哲学の大鑑であり、かつ類稀なる歴史的資料です。
【小黒夏輝さん】
甲南学園の人物教育率先の建学の精神の礎となっている「凡て人はみな天才である」という言葉です。画一主義、詰め込み主義をやめて、人が本来持っている知識や個性を引き出すという教育観は、現代でも通用し、まさしく世界での教育力が低下している日本に足りないものではないかと思います。
文部大臣平生釟三郎の時代が続いていれば今の日本の教育の在り方は全く別のものだったのではないかと残念に思う一方で、平生先生の精神を引き継ぐ甲南学園として、私たちが現代の教育に影響を与え続けなければならないと考えています。
〇 小黒さんが好きな平生の本
『新 平生釟三郎のことば』です。薄く持ち運びのできるサイズの本であり、平生の主要なことばやエピソードがまとめられています。仕事中などの隙間の時間にパラっとめくって、平生精神に立ち返ることができます。
甲南生が改めて、平生釟三郎について知るきっかけになり、大変貴重な機会となったと感じました。インタビューに答えてくださり、ありがとうございます。
企画展示『平生釟三郎の本』では、平生釟三郎に関する以下の本もご紹介しました。リンク先の記事もご参照ください。
『マンガ平生釟三郎 : 正しく強く朗らかに』
『平生釟三郎 : 暗雲に蒼空を見る』
『現代日本と平生釟三郎』
『平生釟三郎自伝』
『大地に夢求めて : ブラジル移民と平生釟三郎の軌跡』
『平生釟三郎 : 人と思想』
『平生フィロソフィ』(甲南大学出版会)については、こちらもご参照ください