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[藤棚ONLINE]図書館長・笹倉香奈 先生(法学部) 推薦『スマホ脳』

図書館報『藤棚ONLINE』
図書館長・笹倉香奈先生(法学部) 推薦

 新しい年度が始まりました。
 コロナウィルスに翻弄された昨年度を経て、今年度はどのような1年になるでしょうか。私は1年ぶりに大きい教室での対面の講義をすることができました。オンライン講義では分からなかった学生の皆さんの反応を確かめながら、対面講義の楽しさを実感しています。
 これからも波はあると思いますが、少しずつ日常が戻っていくことを願っています。引き続き、体調管理や感染症対策に気をつけながら大学生活を過ごしましょう。
 図書館でも万全の対策をして、新学期を迎えています。

 さて、今日は『スマホ脳』という本をご紹介します。

 皆さんは一日にどれくらいスマホを見ているでしょうか。
 スマホは時計代わりにも、パソコン代わりにも、本代わりにもなります。もはや、仕事でもプライベートでも、なくてはならない生活の一部になっています。常にスマホを持ち歩き、ふとしたときにすぐ取り出して操作する。バッグの中に見当たらなければ、財布が見つからない時以上に焦るのではないでしょうか。
 一度「スクリーンタイム」を見て、自分が一日にどれくらいスマホの画面を見ているのかチェックしてみて下さい。きっと驚くような数字が目に飛び込んでくると思います(私はそうでした)。

 本書は、スマホが私たちの脳にどのような影響を与えるのか、そのメカニズムはどういうものなのかということを解き明かします。筆者は、スウェーデンの精神科医です。数多くの研究を参照し、人間の脳の生物学的メカニズムから出発して、スマホが私たちの脳にどのような影響を与えるのかを考察します。

 人間の脳は、実は現代社会に適応していません。20万年前に地球上に現れてから99.9%の時間、人間は狩猟や採取をして生きてきました。人間の脳は、いまだに当時の生活様式に適応するようにできており、めざましく発展した現代社会に適応するようにはできていません。この「ミスマッチ」から様々な問題が生じることになると本書はいいます。

 例えば、進化の過程から見れば、脳は常に「新しいもの」を欲します。周囲をよく知れば、生存の可能性が高まるからです。そこで、新しい情報を獲得すると脳はドーパミンを放出するようにできています。新しい情報を得ると、脳の報酬システムが作動し、さらに情報を得る過程で「得られるか得られないかわからない」というときの方が、ドーパミンが増えるようです。スマホやSNSはまさに、このメカニズムに直接的に働きかけているのです。スマホやSNSをいじればドーパミンが放出され、その結果、脳はハッキングされてしまうのです。このようにして私たちは「スマホ中毒」になっていくわけです。

 このほかにも、スマホが記憶力や集中力を弱め、メンタルヘルスや睡眠を阻害していくメカニズムを本書は明らかにします。デジタルの発展が余りに早く、デジタルライフが人間に与える影響についての研究が追いついていないため、その影響の全体像を我々はつかめないでいるというのが現状のようです。

 本書は最後に「では、どうすればいいか」について具体的なアドバイスもしていますが、基本的な考え方は「人間がテクノロジーに順応するのではなく、テクノロジーが私たちに順応すべき」だということでしょう。スマホやSNSは、人間の依存を引き起こすように巧妙に開発されています。だからこそ、テクノロジーには大きな落とし穴があることを意識しなければなりませんし、私たちが心身ともに健康でいられるような、「人間に寄り添ってくれる製品」を求めなければなりません。人間の脳のメカニズムを理解し、デジタルライフから受ける影響を認識して賢く対応しなくてはならないのです。そのためにコンパクトにまとめられたヒントを、本書は与えてくれます。

 電車に乗ると、9割の人がスマホを凝視しているという、ひとむかし前には考えられなかった異様な風景が出現しています。コロナ禍で社会全体のデジタル化が1年前に比べて格段に進みました。大学の講義もオンラインで行うことが日常の風景になっています。

 そのような生活の中でも、テクノロジーに支配されないようにするために、たまにはスマホやパソコンの電源を切って見えないところに隠し、ゆったりとした気持ちで紙の本を手にとって、読書に集中する時間を作ってみてはいかがでしょう。

 図書館は紙の本の宝庫です。館員一同、皆様を図書館でお待ちしています。


【図書館事務室より】
 コロナに始まりコロナに終わった2020年度。2021年度もまだまだ翻弄される日々が続いています。しかしながら、『藤棚ONLINE』は新年度も平常運転!で頑張って更新したいと思いますのでよろしくお願いいたします。
 今年度も、第1号は図書館長の法学部教授・笹倉香奈先生よりおすすめ本をご紹介いただきました。甲南大学図書館にも所蔵がある本ですので、ぜひ読んでみてください!
 オンライン授業に移行しつつありますが、図書館は通常開館しております。オンライン化に合わせてキャンパスも人の姿が減りつつありますが、対面授業の合間に図書館でゆったり読書というのも充実した時間の使い方ではないでしょうか。学生の皆さんのご来館をお待ちしています。

山中伸弥, 羽生善治著 『人間の未来AIの未来』

理工学部  1年生 石山 遥希さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : 人間の未来AIの未来
著者 : 山中伸弥 , 羽生善治 著
出版社:講談社
出版年:2018年 2月

1996年に、将棋界初の七冠王に輝き、2017年に前人未到の「永世七冠」の称号を得た天才棋士羽生善治先生と、2012年に「成熟細胞が初期化され多能性をもつことの発見」によって、ノーベル生理学・医学賞を受賞したiPS細胞研究所所長の山中伸弥先生による対談をまとめた本です。

iPS細胞とはいったい何なのか、なぜプロ棋士は人工知能に敗北してしまったのか、この先世界はどうなっていくのか、など二人がそれぞれ疑問に思っていたことを、二人それぞれの意見を出しあい、考えていく本になっています。偉大なる2人の考えがよくわかり、とても勉強になる本でした。人工知能などに興味がある人だけでなく、理工学部の方、文系学部の方もぜひとも読んでみてほしい本です。

 

将棋世界 編『羽生善治全局集 七冠達成まで』

理工学部  1年生 石山 遥希さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 :  羽生善治全局集 七冠達成まで
著者 :  将棋世界 編
出版社:マイナビ出版
出版年:2015年

将棋界で有一、七つのタイトルを取り、七冠王になった羽生善治の名人獲得から七冠王達成までの合計111局の棋譜が載っている将棋棋譜解説本です。一局一局に解説もついていて、わかりやすかったです。将棋中級者以上の方や羽生善治ファンの人は是非とも一読してほしい一冊です。

 

[藤棚ONLINE]共通教育センター・鳩貝耕一先生コラム『文字萌え』

図書館報『藤棚ONLINE』
共通教育センター・鳩貝耕一先生コラム『文字萌え』

 ピコ太郎さんのPPAPが流行りだしたのが2016年で、今でも私は一人カラオケで歌ったりします(笑)。ところが、最近になって撲滅しなければならないとされる新PPAPが登場しました。詳細については触れませんが、「Password付きZIPファイルを送ります、Passwordを送ります、Aん号化(暗号化)、Protocol(プロトコル)」と、ダジャレもさることながら、最後の「protocolって何だ?」ということになってしまいます。
 一般的には、テレビのニュースで時々見かける、外相どうしがサインしあって交換する書面(議定書)のことです。情報科学の分野では、コンピュータどうしの通信における、やりとりに関する取り決め(通信規約)を指します。みなさんが普段からとどこおりなくメールしたり、ホームページ(Webページ)をブラウズできたりするのも、このprotocolが「標準化」されているおかげなのです。ただ、それだけでは文字化けする可能性があり、文字コードの標準化も必要です。文章の1文字には1つの数が割り当てられており、これを「文字コード」と呼んでいます。
 ネジの規格を始めとして標準化には様々な分野がありますが、1990年ごろに行われていた標準化活動の一つとして全世界の文字を表すことのできる文字コードであるUnicodeがあります。当初は32ビット(4バイト)文字コードを日本の代表者が強く推していたにもかかわらず、突如「Unicodeという全世界の文字を表すことができる16ビット(2バイト)文字コードを策定しました」のような高圧的な文字コードの決め打ちがありました。どうやら、以前、私が追っかけをしていたのはUnicodeではなく、ISO/IEC 10646という別の標準化活動だったようです(この二つは、後に統合されますが)。Unicodeが出てきた当時のいきさつに不信をいだきつつ、今日まで悶々と過ごしてきた私がここにいます(大げさ)。
 最近になって、これではいけないと思い立ち、当時の経緯を確認するため、様々な参考資料を集めだしました。私も(別の標準化活動の)経験者の一人ではありますが、標準化の舞台は常にドロドロとした世界であり、『ユニコード戦記』(小林 2011)にはUnicode 2.0の頃の舞台裏が描かれています。この本を紹介したところで、みなさんにとってはどうでも良い話しか載っていませんので、『世界の文字と記号の大図鑑 ― Unicode 6.0の全グリフ』(ベルガーハウゼン他 2014)を紹介することにします。

 私は幼いころから「百科事典萌え」していまして、必要に迫られて解説を探すのではなく、百科事典を適当にパラパラとめくりながら妄想の世界にひたるのが好きでした(笑)。この大図鑑では「文字萌え」、すなわち世界の文字をながめながら妄想にひたることができます。「好萌啊!(Hǎo méng a)」といったあたりでしょうか。
 それでは、Unicodeの表現の豊かさについて見ていきましょう。実は、このブログ自身もUnicode(UTF-8)で書かれています。
 『ユニコード戦記』では、フランス語のセディーユ(cédille)のことがセディラと書かれています。コムサ・デ・モード (COMME ÇA DU MODE)のÇに付いている発音区別符号のことです。「著者はフランス語のこと知ってるの?」と一瞬疑いましたが、英語の辞書をひいてみると、英語ではセディラ(cedilla)と呼ぶことがすぐに分かりました。標準化会議で用いられる言語は、ほぼ100%が英語です。よって、この本でも英語読みで書かれているということが分かりました。老舗ベーカリーのKÖLN[kœln]など、ドイツ語のウムラウトや音声記号も問題なく表示できます。これらの文字は、「ラテン文字」としてUnicodeの最初のほうに格納されています。
 Unicodeの標準化においては、後々まで批判の対象となったUnicode 2.0での「ハングルの大移動」問題があります。ハングル文字は、公布された当時は訓民正音 (훈민정음)と呼ばれていました。初声(초성)、中声(중성)、終声(받침)に表音文字の字母を1つ以上割り当てて音節(조합)文字を作ります。Unicode 1.1と2.0の間の非互換、大移動の意味は、組合わせた結果の6,656文字が11,172文字に増えてしまった結果、もとの(文字コードの)場所には収まりきらず、別の場所に移動せざるを得なくなってしまったことが原因です。
 上記のように、Unicodeでは様々な国の文字を同時に表示することができます。16ビット(65,536文字)ごとに面(plane)という単位で区切られています。一般的に使用されているのはBMP(Basic Multilingual Plane)と呼ばれており、BMPは面00です。
 以下の括弧内の文字の例はWindows 10以外では表示されない可能性がありますが、面01には、学術的に価値のある言語の文字、たとえばエジプトのヒエログリフ(𓋹𓁾𓅂𓅢𓁢)、メソポタミア文明の楔形文字など、あるいは変体仮名(そば屋の看板文字など)、麻雀牌やトランプ(🀀🂓🂡)、絵文字(👽😁🐵🐶🚿🚽🛀)などが格納されています。面02には、今日では使われなくなった漢字(𩾛𤯔𡆠𪚥)が格納されています。
 普段、私もかな漢字変換で出てくる文字しか使用していませんが、上記のようにUnicodeを使用すると多彩な文字表現ができますので、知っておいて損はないです。

書誌情報
トニー・グラハム,『Unicode標準入門』,翔泳社,2001
・小林龍生,『ユニコード戦記 文字符号の国際標準化バトル』,東京電機大学出版局,2011
ヨハネス・ベルガーハウゼン,シリ・ポアランガン,『世界の文字と記号の大図鑑 ― Unicode 6.0の全グリフ』,研究社,2014

福沢諭吉著 齋藤孝訳 『現代語訳 文明論之概略』

経済学部  3年生 Tさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 :  現代語訳 文明論之概略
著者 :  福沢諭吉著 , 齋藤孝訳
出版社:筑摩書房
出版年:2013年

 筆者の福沢諭吉は、大坂の蔵屋敷で下級武士の長男として生まれた。幼少期は塾で勉強に励み、慶應義塾の基礎となる蘭学塾を開いた。以降、アメリカ、イギリス、ロシアを訪問した。彼の啓蒙思想、教育の考え方は、近代日本の発展に大いに貢献した。学問の重要性を説いた「学問のすすめ」は彼の代表作として現在も広く世間に知られている。

 本書は、「学問のすすめ」と同時期に刊行された諭吉による文明論である「文明論之概略」を現代に生きる我々でも読めるように、教育学を専門とする大学教授の齋藤孝氏が現代語訳した。タイトル通り本書は文明論であり、文明を発展させるにあたり何が大切であるかが述べられているが、それは、革新的な技術や時代に合った法律ではない。文明を発展させるにあたり最も大切なことについて、物事の本質を捉えてながらも、抽象的になりすぎず、欧米、アジアなどの歴史的な出来事や身近な物事を例に挙げて説明している。そのため、難しい本を読んでいる感覚は無かった。福沢諭吉という天才の考えを普通の大学生である自分が理解できたことに感動を覚えた。

 執筆当時と現在では、日本は大きく発展し、世界の中での日本の位置づけが変わっている。しかし、時代は変わったとしても、日本の文明の発展に必要なものは当時と変わらないように感じる。諭吉のメッセージは、現代に生きる我々にも通用するだろう。

 

アイザック・アシモフ著 , 伊藤哲訳 『わたしはロボット 』

フロンティアサイエンス学部 4年生 岩田 和也さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 :  わたしはロボット
著者 :  アイザック・アシモフ著 , 伊藤哲訳
出版社:東京創元社
出版年:1976年

本学で所蔵している本はこちら ⇨ アイザック・アシモフ著 ,  小尾芙佐訳 『われはロボット 』早川書房 , 2004年

 本作の人間とロボット(人工知能)の関係は「ロボット工学の三原則」に基づいている(一部抜粋)。

  1. ロボットは人間に危害を加えてはならない。
  2. ロボットは人間の命令に従わなくてはならない。
  3. ロボットは自らの存在を護らなくてはならない。

 これらの法則はロボットが人間に従属することを示している。現在、就職活動では「将来はロボットに仕事をとられるかもしれない、人工知能が発達すると働き方も大きく変わる」と必ず1回は耳にする。現在の日本におけるロボットへの接し方は共存ではなく競争のようだ。ロボットは休む必要がなく、専門性に特化した構造を持っていれば人工頭脳を駆使して人間以上に効率的に行動し、高い生産性をもたらす。それゆえにロボットは人間に従属する存在であることを再定義すること三原則は、将来的に人間の優位性を保つうえでも必要であるといえる。

 さて本作では執筆者アシモフ自身が考案した「ロボット工学三原則」の欠点やイレギュラーな条件から見えるロボットの不完全性や、人工頭脳がもたらす危険性が記されている。この書評で私は注目すべき章として「逃避!」を紹介したい。この章では、科学者が極めて優秀な人工知能に、星間エンジンを積んだ宇宙船を設計するように依頼した。その宇宙船は理論上、搭乗者が星間を移動中に必ず死亡するため、他の人工頭脳では「人間を死なせない(第一)」と「設計する(第二)」というジレンマによって思考回路が破綻、故障した。しかしこの人工頭脳ではある一つの解が提示した。移動中に一度死んで、目的地に着いたら蘇生すればよいのだ。作中でその宇宙船の搭乗者が実際に一度死亡し、魂が天国の門の手前まで行ってから現世に帰ってきた。人工知能にとってこの解は非常に合理的なものである。しかし同時に人工頭脳が目的のために人間的な解釈を超えた三原則の下で結果を導き出す危険性も秘めていることわかる。

 本作が発表された1950年前後は人工知能そのものが開発されて間もない頃である。アシモフは人工知能が人類にもたらす恩恵とその背後に潜むリスクを本作で例示するかのように記している。ロボットと人工知能が一般的に普及しつつある今こそ、人工知能が生まれた頃に執筆されたこの一冊を読み直し、人間とロボット(人工頭脳)とのあり方を考えるべきではないだろうか。