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東野圭吾著『ラプラスの魔女』

法学部1年 中田朱音さん(「基礎演習(濱谷)」リサーチペーパーより)

 「ラプラスの魔女」は竹尾徹という元警察官の男性が、ある条件付きで羽原円華という十代後半の少女を護衛するように依頼される、というシーンから始まる。その条件とは、彼女について興味を持つことや、質問することは許されない、というものであった。しかし、徹は円華を護衛していく内に、円華が不思議な力を持っているのではないか、と考え始めるようになる。
 具体的には誰もが飛ばすことに失敗した紙飛行機を完璧に飛ばす事が出来たり、川に落ちた帽子の流れを完璧に予知する事が出来たり、天気を数分刻みで予知する事が出来たり、自然現象を見事に言い当てるなど、とても普通の人間には出来ないような事だった。
 そして、世間では遠く離れた2つの温泉地で、硫化水素中毒による死亡事故が発生する。警察の依頼により、地球化学の研究者である青江修介がどちらの事故も調査するが、それぞれ捜査上に怪しいと思われる人物はいても、それらの事故は、「天候上のいくつもの偶然が高確率で重なって発生した不幸な事故」としか言いようがないものであった。
 そして青江は双方の事故現場で羽原円華を目撃したため、円華に声をかけ、そこで彼女はとある人を探しているということを知る。ここで青江と出会った円華は護衛を振り切っているため、青江の元には円華の行方を追う彼女の側近たちが近づいてくる。
 青江は不思議な力を持っている彼女と彼女が探している人物が、今回の硫化水素事故に何かしらの関わりがあるのではないかと考え、調べようと彼女に関わろうとしていく。円華にこれ以上は近くな、と忠告されたものの、円華や彼女の周辺の人物、さらには円華が探している人物についての様々な調査を進めていくうちに青江は最終的にその重大な秘密を知ってしまう。
 彼女らが抱えている秘密とはどんなものなのか、今回の硫化水素事故はどのようにして起きたのか。私個人の感想としては、初めは物語の複雑に混乱してしまったが、読めば読むほどその後の展開が気になり、一気に読みたくなる作品だと感じた。また、「硫化水素」や「未来予知」がテーマとなっている本書であるが、化学が苦手であった私でも問題なく読み進めることが出来た。衝撃の結末が待っているので、様々な人に是非読んでみてほしいと思う。

参考:【映画】ラプラスの魔女 / 三池崇史監督 ; 八津弘幸脚本 ; 東野圭吾原作

東野圭吾著『マスカレード・ホテル』

法学部1年 中 優馬さん(「基礎演習(濱谷)」リサーチペーパーより)

 マスカレード・ホテルの紹介をしていきます。
 ホテル・コルシア東京という場所が東京で起きている次の殺人現場として予想され物語が始まり、展開していきます。次の殺人現場を予想した人が、登場人物の一人である刑事の新田浩介という人物です。映画では、木村拓哉さんが演じておられます。新田さんは、実際に犯人の確保のためにホテル・コルシア東京のフロントクラークになりすまして、潜入捜査をおこない犯人逮捕を目指していきます。
 ここで新田さんの教育係として任命されたのが、ホテル・コルシア東京で働き絶対的な信頼を置かれているホテルマンの山岸尚美という人物です。映画では、長澤まさみさんが演じておられました。山岸尚美という人物は、どんな仕事でも手を抜くことなく一生懸命な人物であります。このような行動は読者にとっても非常に勉強になるところであると考えます。人は年を取るにつれて、手を抜くことを覚えてしまいます。私自身も、今まで手を抜くことはしたことがあります。山岸尚美という人物から私は、手を抜かずに一生懸命に取り組む大切さを改めて学びました。このようなに学べることがマスカレード・ホテルの最大の魅力であります。
 もちろん刑事の新田浩介という人物からも自分が就いている職業に対してのプライドを持つことを学ぶことが出来ます。プライドを持つということは、その職業を好きでなければプライドは持てませんし、本気で目指してその職業に就けたからプライドが持てるのではないかと思います。
 これらのことは特に私たち大学生が将来目指すべきところであり、大学4年間で自分にとって適性な職業を見つけていくための必要な事柄であると私は考えます。
 法学部の学生にとって、マスカレード・ホテルという本は警察官・刑事を目指したくなると思います。少しでも目指そうとする人がいて頂けるのならば、このリサーチペーパーの一つ目は達成できたと思います。
 もう一つ達成させたいことは、先ほど述べたように本を読むことから沢山のことを学ぶことです。
 第一に、本や長い文章を読むことが苦手という人がいると思います。現に私も苦手としている部分でもあるのですが、私は今回ビブリオバトルを通じてマスカレード・ホテルという本を読み、その本を紹介するという機会を頂けました。マスカレード・ホテルという本の中では、刑事の新田浩介もホテルマンの山岸尚美も仕事内容が書かれたマニュアルのようなものを参考にして、犯人逮捕のためにそれぞれ可能性を高めていました。このような場面からどんな論文であれ読んでいけば、結果として結びつく可能性が出てくることがあると感じました。
 法学部の学生に照らし合わせてみれば裁判で分からない事柄や既に判決されたことを理解するためには、判例であったり、六法全書であったりを読むことで理解できる可能性が高まると考えました。
 このようなことを今後取り組んでいくことが積極的になれば、きっと本や論文からヒントを得ることができ、このリサーチペーパーで達成させたいもう一つの事柄である「本を読むことから沢山のことを学ぶこと」が達成できると考えています。
 最後にマスカレード・ホテルという本からは大学4年間を通じて自分の将来についての選択肢の幅が広くなるだけでなく、助言のようなものを与えてくれるのでお勧めできる本ではないかと思います。また、大学生活において様々な本や論文を読むこと・触れることの重要さを学ぶことができる本となっているため、このマスカレード・ホテルという本をきっかけにして学力の向上や自分の持つ知識を増やしていくことが出来れば良いと考えました。
 これでマスカレード・ホテルという本の紹介を終わります。

参考:【映画】マスカレード・ホテル / 鈴木雅之監督 ; 岡田道尚脚本 ; 東野圭吾原作

[藤棚ONLINE]文学部・友田義行 先生推薦『アンパンマンの遺書』

図書館報『藤棚ONLINE』
文学部・友田義行先生 推薦

 コロナ禍の下、「自粛警察」という言葉を耳にするようになりました。営業を続けるお店や、県外からの来訪者を探し出し、休業や自宅待機などを要請するそうです。報酬のない「ボランティア」活動であり、正義の心で動いておられるのかもしれません。
 悪をくじき、弱きを助ける、正義の味方。ヒーローはいつの世もあこがれの存在です。アンパンマンが最初に出会ったヒーローだった方も多いのではないでしょうか。ウルトラマンや仮面ライダー、鉄腕アトムなどに比べると、アンパンマンはずいぶんとしょぼいヒーローです。困った人に自分の顔を食べさせたり、水に濡れてふやけてしまったり。すぐに顔を失い、力が出なくなって、悪者にぶっ飛ばされてしまいます。ジャムおじさんに新しい顔を焼いてもらわないと、ろくに活躍できないヒーロー。
 本書はアンパンマンの作者・やなせたかしの自伝です。著者が76歳のときに遺書(?)として発行されました。ご紹介するのは手に入れやすい文庫版で、著者94歳の挨拶文が追記されています。
 読んで意外だったのは、アンパンマンの話が終盤に少し登場するだけということ。著者は大人相手の漫画家を目指していましたが、手塚治虫ら輝かしい活躍を見せた同時代の漫画家たちとは違い、絵本作家として幼児の間で人気を得ました。むしろ日陰に生きてきたのだと、自らの半生を捉えています。顔のないアンパンマンは、無名性の象徴でもあるのです。たしかに、アンパンマンがアニメ化されたのは1988年で、著者はすでに70歳近くでした。この翌年、手塚治虫が亡くなっています。アンパンマンと鉄腕アトムはすれ違いました。
 「なんのために生まれて なにをして生きるのか わからないままおわる そんなのはいやだ!」、「ぼくらはみんな生きている 生きているからかなしいんだ」、どちらもやなせたかしの作詞です。彼はアニメーターや絵本作家である前に、詩人でした。
 アンパンマンの原型となった絵本『あんぱんまん』のあとがきに、著者はこう書いています。「ほんとうの正義というのは、けっしてかっこうのいいものではないし、そして、そのためにかならず自分も深く傷つくものです」。他人を傷付けるばかりの正義が横行する世界を、顔の欠けたアンパンマンはどう見つめているでしょうか。

紺野キリフキ 著 『はじめまして、本棚荘』

 

文学部  3年生 Tさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 :  はじめまして、本棚荘
著者 :  紺野キリフキ
出版社:メディアファクトリー
出版年:2010年

もしも本棚だらけのアパートがあるのなら、読書が好きなあなたは入居したいと思うだろうか。

「昔はねえ、お家賃というのは本で払ったものですよ」と、本棚荘の大家さんは言う。このアパートは、中にも外にも本棚だらけである。そんな所へ姉の代わりに引っ越してきた、本に興味のない「わたし」。

主人公の女性は「とげ抜き師」である。とげ抜き師とはどんな職業なのだろうか。
作中では、このとげ抜き師に対して疑問を抱く人物はいない。むしろ、「とげ」を抜いてもらうために彼女の元へ訪れ、「わたし」はそのとげを抜くのである。
夜の仕事に務める女のとげ、猫遣いの男のとげ、眠り姫と呼ばれる大学生のとげ、捨てられたサラリーマンのとげ、それぞれ違う理由で携えてしまったとげや、その本棚荘の人々と関わりあうことで、「わたし」は確かに成長していくのである。

この物語の肝は、やはり詳しく説明されることのない「とげ」という存在である。しかし、読者は登場人物たちのとげを知るたびに、どこか現実味を感じて、違和感なくこの存在を受け入れることができるのである。それはきっと、読み手が心のどこかで感じた感情をゆったりと重ね合わせることで、言葉にするのは野暮であるように「とげ」の正体を理解することができるからである。
そして、紺野キリフキという作家が描き出す世界は、あまりにも現実を突飛に切り取っている。それはまさに確立した世界観であるといえるだろう。その優しくも摩訶不思議な文章はぜひ一度味わってもらいたい。

姉が返ってくることが決まり、最後は「わたし」が本棚荘から立ち去る姿が描かれる。その描写は、まるで不思議な世界に迷い込んだようである。
本を閉じれば、自分にとっての「とげ」と静かに向き合いながら、心地良さがふと残ったまま。

 

森 絵都 著 『カラフル』

 

文学部  3年生 Tさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : カラフル
著者 : 森 絵都
出版社:文藝春秋
出版年:2007年

本学で所蔵している本はこちら⇨ 森 絵都著 『カラフル』講談社 , 2011年

自分で初めて買った小説を思い出せるだろうか。私にとって「カラフル」はそんな一冊である。

死んだはずの自分の魂が抽選に当選したことにより、本来なら生まれ変われるものの生前の過ちのせいで輪廻のサイクルから外れた「ぼく」が、自殺を図った中学生である小林真の体を借りることで、天使と共に、生前に自分が犯した過ちを探るという物語である。

まるで児童文学のようなファンタジーである物語には、リアルな社会問題を抱えた登場人物たちが描かれている。ユーモアある在り得ない設定により、それが優しく描かれているため、そのバランスこそが幅広い年代の人々に親しまれ続けている理由ではないだろうか。

主人公である「ぼく」には記憶が無く、そんな状態で突然知らない環境の中へ放り込まれるわけだから、その手探りで人間関係を図りながら宿主である小林真という人物像を探そうとする姿は、楽しみながら気軽に読み進めることができる。あまりにもどうしようもない人間であった小林真を変えるために奮闘する姿も、その初々しい努力にはどこか惹きつけられるような魅力を感じるだろう。そんな中、立て続けに辛い出来事が「ぼく」を襲う。そして、10代という多感な時期に生きる登場人物たちは、その不安定な気持ちを吐露し合っていくのである。そこからは、薄暗くもどこか共感できるような感情が描かれており、言葉の一つ一つが鮮明かつ印象的に心に残るのではないだろうか。

そして、「ぼく」は本来の目的である生前の過ちを思い出すのである。
読了後余韻として残るのは、「カラフル」というタイトルの意味と、数々の名言である。

当たり前に生きる日常が、少し違った見え方をするようになるかもしれない。
まだ読んだことのない方にはぜひ一度手に取って頂きたい名作である。

[藤棚ONLINE]図書館長・笹倉香奈 先生(法学部) 推薦『Factfulness:10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』

図書館報『藤棚ONLINE』
図書館長・笹倉香奈先生(法学部) 推薦

 皆さん、こんにちは。
 新しい年度が始まりました。大変な状況の中での新学期になりましたが、図書館ではこれからも皆さんの学修に役立つ情報を発信していきたいと思います。

 私は法学部で刑事訴訟法という科目を教えていますが、本日は専門分野とは直接の関係がないけれども、皆さんにもぜひお読み頂きたい本をご紹介します。

 『ファクトフルネス:10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣』は、かなり話題になった本ですので、ご存知の方も多いかもしれません。
 現在の世界の状況のもと、冷静に事実に基づいて世界を見ることの重要性を説く本書の重要性は、さらに増しているように思います。

 著者はスウェーデンのカロリンスカ医科大学の医師で公衆衛生学の研究者です。生涯をかけて、「データ」をもとに事実を正しく見ることの重要性を説きました。それが「ファクトフルネス」の実践なのです。
 私たちは世界について様々な思い込みをしています。それは、私たちの様々な本能から来るものだと本書は分析します。

 分断本能(「世界は分断されている」)、ネガティブ本能(「世界はどんどん悪くなっている」)、恐怖本能(「危険でないのに恐ろしい」と考えてしまう)、単純化本能(「世界はひとつの切り口で理解できる」)、犯人捜し本能(「誰かを責めれば物事は解決する」)、焦り本能(「すぐ手を打たなければ!」)等々。著者は、これらの10の「思い込み」が何をもたらしてしまっているのか、私たちがいかに事実に基づかないで世界を悲観的に見てしまっているかということを具体的なエピソードを交えながら、わかりやすく明らかにしていきます。

 では、ファクトフルな思考をするためには、どうしたら良いのでしょうか?本書は次のように言います。

 本能を抑えて事実を正しく見ることがどれほど難しいことなのか、自分の知識がいかに限られていることを認めましょう。そして、堂々と「知りません」と答え、新しい事実を発見したら、喜んで意見を変える、すなわち「謙虚」であることが重要です。

 そして「好奇心」をもつことです。新しい情報を積極的に探して受け入れ、自分の考えに合わない事実を大切にし、その裏にある意味を理解しようと努めましょう。間違ってしまっても恥じず、間違いをきっかけに興味を持ってみましょう。

 本書が提唱する「ファクトフルなものの見方」は、冷静な対応をするためにすべての人にとって必要だと思います。こういう時期だからこそ、一読をおすすめします。


【図書館事務室より】
 2020年度が始まり早くも2週間が過ぎました。新年度最初の藤棚ONLINEは、今年度より新しく図書館長に就任されました、法学部教授の笹倉香奈先生よりおすすめ本をご紹介いただきました。
 新型コロナウイルス感染拡大防止のための様々な措置が取られる中、甲南大学も教職員・学生が一丸となって対応している最中にあります。特に新入生にとってはただでさえ不安と希望に揺れる新生活の区切りにあって、大変な心労を抱えていることと愚考します。
 今回笹倉先生にご紹介いただいた本は、いたずらに不安を煽られず冷静に対応するために必要な考え方を示してくれるものとのこと。ぜひ読んでみてもらいたいところですが、本学図書館も今は閉館中。5月以降、無事開館できたらぜひ図書館で借りてみてください!
 一日も早い終息を願う日々ですが、学生の皆さんも心を元気に過ごしてください!
 何かわからないことや不安に思うことがあれば、大学に問合せしてみてください。職員も最小限の人員で対応しているため電話はつながりにくいかもしれませんが、真摯に対応しておりますのでお気軽にどうぞ!