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【第6回 甲南大学書評対決】 マンジット・クマール著 『量子革命 : アインシュタインとボーア、偉大なる頭脳の激突』

4月27日(木)に開催された第6回 甲南大学書評対決(主催:甲南大学生活協同組合)で紹介された本です。

 

理工学部機能分子化学科教授 山本雅博 先生からのおすすめ本です。

書名 :量子革命 : アインシュタインとボーア、偉大なる頭脳の激突
著者 : マンジット・クマール
出版社: 新潮社
出版年:2013年

2022年にノーベル物理学賞で「量子のもつれ」が選ばれたりと、量子という言葉が世間を賑わせています。1926年にシュレディンガーが波動方程式を提唱し大革命が起きました。

それまでの学問をすべて「古典」という分野に押し込んでしまったほどの革命が、実はいろんな実験結果の理論との細かな矛盾にあったことをこの本は詳しく書いています。お金儲けから始まり、その普遍化によって電子・原子・分子の力学を完全に書き換えた大革命に繋がっていったことが興味深いです。

山本先生は大学2年生のときに量子力学を履修し試験に臨まれたそうですが、シュレディンガーの波動式方程式を記せという最初の問題がわからなかったため、完全白紙の答案を提出された過去もおありだとか!それが、現在では研究で量子力学の第一原理計算という数値計算を生業とされているのですから、人生はわからないものですね!

【第6回 甲南大学書評対決】 朝永 振一郎著 『物理学とは何だろうか 上・下』

4月27日(木)に開催された第6回 甲南大学書評対決(主催:甲南大学生活協同組合)で紹介された本です。

理工学部機能分子化学科教授 山本雅博 先生からのおすすめ本です。

書名 :物理学とは何だろうか 
著者 : 朝永 振一郎
出版社: 岩波書店
出版年:1979年

タイトルには明記されていませんが、物理学のなかの一分野である熱力学についてとてもわかりやすく解説されています。熱力学は完成されている学問です。アインシュタインの1905年の奇跡の論文も、実は熱力学をベースとしています。

熱力学の第一法則、仕事、熱、内部エネルギー、熱力学の第二法則、エンタルピー、エントロピー、化学ポテンシャル等の概念は一度は聞いたことがあるかもしれませんが、最も理解しづらい分野です。先生は学生の時にこの本をおすすめされたので読んでみるとさらにわからなくなった、という思い出があるそうです。

東大のある先生が、教員も熱力学をわかっているわけではなく、授業で教え始めてわかると言われているのも納得ができます。熱力学を教えており、さらに某先生が自分の遺書として本を残したいと言われて熱力学の教科書を書いたときに最も参考にした本がこの本です。石炭採掘の際の熱機関による排水ポンプの効率をどのようにあげたらいいのかというお金儲けの話から発展して、その熱機関の最大効率はどう決まるか、さらには熱力学がサイエンスのすべての世界を説明する普遍的な学問体系となったことはこの本で教えらました。

文系の方に「シェイクスピア読んだことある?」と聞くくらい理系の方には必読の本です!理系の方は(もちろん文系の方も)ぜひ手に取って読んでみてはいかがでしょうか。

【第6回 甲南大学書評対決】 村上 春樹著 『タイランド』(神の子どもたちはみな踊る 所収)

4月27日(木)に開催された第6回 甲南大学書評対決(主催:甲南大学生活協同組合)で紹介された本です。

理工学部機能分子化学科教授 山本雅博 先生からのおすすめ本です。

書名 :タイランド(神の子どもたちはみな踊る)
著者 : 村上 春樹
出版社: 新潮社
出版年:2000年

『ノルウェーの森』あたりから村上春樹を読み始めたという山本先生。めったに小説を読まないという先生自身も『ハルキスト(村上春樹の熱狂的ファン)』ということで、ほぼすべての本・雑誌への寄稿を読まれているそうです!新刊の村上春樹の小説が入手困難だったときは、生協書籍部の方が個人的に買われた本を購入していた、とのことで熱狂ぷりが伝わりますね・・・!

25ページほどの短編小説ですが、米国で医学の修業をした女医さんが、タイでの休暇中にひょんなことから普段は心の奥底にしまっている暗い影を指摘され、それが癒しになっていくというストーリーです。気分が落ち込んだ時は村上作品を読むと癒されると2019年のAERA(朝日新聞出版のニュース週刊誌)に書かれています。自分の心情を代弁してくれていると感じ、癒されるのではないでしょうか。

村上春樹は芦屋市で育ったこともあり、身近に感じており好きだとおっしゃっていました。プレゼン前には新潮社営業部よりメッセージも届き、先生も嬉しそうにしておられました!図書館にもたくさんの村上春樹著書があります。この機会に読んでみてはいかがでしょうか?

[藤棚ONLINE]図書館長・杉本喜美子先生(マネジメント創造学部)コラム「遠まわりのすすめ」

図書館報『藤棚ONLINE』
図書館長・杉本喜美子先生(マネジメント創造学部) コラム

 みなさんは本を読みますか?どんな理由で目の前の本を選んでいますか?

 昨年末より『天才読書』という本が話題です。“天才たちの頭の中”を見せてもらうことをコンセプトに、テスラ/アマゾン/マイクロソフト創業者らがどのような本を読んできたかを知り、(1) 読書には人生を変える力があること (2) どのような本を読んで成功に到達できたか、を知ることができます。同じ本を読んでも同じ行動ができないのはみなさん承知。とはいえ凄い方々から少しでもヒントを得たいという気持ちもあり。このあたりが、ヒットにつながっているのでしょう。読書は時間がかかるし、そのうえ得た“何か”を表現しにくいもの。小説を読んで“じんわり、ほのか”に感動。新書を読んで“あっ、そうか!”と腑に落ちる。こんな一瞬のために膨大な時間を費やすなんて、楽しいこと盛りだくさん、かつタイパ重視のみなさんにとって、魅力のない趣味かもしれません。

 しかし、先述の本は、(3)成功した方でも読書に膨大な時間を使っていた=人生においては遠まわりこそ大事、ということを示した点で、いい本といえるのではないでしょうか。たくさんの本の中で、自分の読む本が自分の人生にプラスになるかは分からない。だけど、普段の生活から少し離れて、静かに自分と本だけの時間に飛び込んでみる経験は、これからのみなさんをどんな形で支えるかわからない。私は小説が好きですが、主人公の良い/悪い行いの背後にある“深い想い”に触れるといつも、自分の人を見る浅さに気づかされます。人は複雑で御せないもの。だけど“想い”だけが互いの心を動かし、世の中を変えるんだと感じることができます。大学での図書館の使い方はいろいろ。心を整える休憩場所として、みなさんをいつもお迎えしています。

 遠まわりをして、自分を取り戻しませんか?

 自分の学びのなかで関心のある2冊を紹介します。

『創造的破壊の力 資本主義を改革する22世紀の国富論』東洋経済新報社
 フィリップ・アギヨン, サイモン・ブネル, セリーヌ・アントニン(著)
 村井章子(訳)

『入門 開発経済学 -グローバルな貧困削減と途上国が起こすイノベーション-』中公新書   山形 辰史 (著)

 普段、西宮キャンパスで開発経済学を教えていて、人々の暮らしをよくしていくために経済学はどう貢献できるのかを考えています。どうすればイノベーションを起こしやすい社会になり、持続的成長を達成できるか?成長・繁栄を平等に享受できる社会になるには、どのような制度が必要か?現実社会と学問がどう繋がるのかが分かる2冊です。


【図書館事務室より】
 藤棚ONLINE2023年度第1号は、今年度新たに図書館長に就任されましたマネジメント創造学部教授・杉本喜美子先生より、コラムとおすすめ本紹介でした。
 効率重視の目的一直線な行動に比べると遠回りに思える読書の良さ、というお話しでしたが、どうせならKONANライブラリサーティフィケイトにエントリーして、認定証や記念品と一石二鳥を狙ってみるのはいかがでしょう!(このくらいの効率狙いはまあ許容範囲ということで…)
 図書館では、HPだけでなくTwitterやこのブログでも情報発信していますので、定期的にチェックしてみてくださいね。学生の皆さんのご利用をお待ちしています。

[藤棚ONLINE]法科大学院・宮川聡先生推薦「米朝置土産 一芸一談」

図書館報『藤棚ONLINE』
法科大学院・宮川聡先生推薦「米朝置土産 一芸一談」

桂米團治監修
淡交社, 2016

 今回私が紹介したいのは,第2次大戦後の上方落語復興の立役者の1人である三代目桂米朝さんが1989年4月から1990年10月まで朝日放送ラジオで放送されていた「米朝のここだけの話」という番組で行われた様々な分野の著名人との対談の内容を文字起こしした「米朝置土産 一芸一談義」という本です。2016年に淡交社から発行されていますが,桂枝雀さんが担当されていた「前説」も収められています。なお,編者の桂米團治さんは米朝さんの息子さんです。

 この本では,後に紹介する13名との対談が取り上げられているのですが,実はこの本の前編というべき「一芸一談」(この本でも13名との対談が文章化されています。)が1991年に公刊され,2007年に文庫化されています(ここでは,藤山寛美,13世片岡仁左衛門といった人たちとの対談が文字起こしされています。)。ただ,残念ながら,現在は古書を手に入れるしかなくなっているようですので,続編というべき「置土産」のほうを取り上げることにします。

 「置土産」では,①夢路いとし・喜味こいし(漫才師),②菊原初子(地歌筝曲演奏家),③朝比奈隆(指揮者),④吉村雄輝(上方舞台吉村流の家元),⑤小松左京(小説家),⑥島倉千代子(歌手),⑦小沢正一(俳優・俳人・エッセイスト),⑧橘右近(落語家・書家),⑨高田好胤(薬師寺管長),⑩阪口純久(きく)(上方料理「大和屋」の4代目女将),⑪立川談志(落語家),⑫茂山千之丞(大蔵流狂言師)という各分野を代表する著名人との対談が再現されています。現在大学で学んでいる皆さんにとっては,あまりなじみのない名前ばかりかもしれませんが,非常に興味深いお話が展開されています。

 個人的には,SF作家として著名な小松左京さん(代表作は,「復活の日に」,「日本沈没」など)との対談に最も興味を覚えました。米朝さんと小松さんは,その昔,ラジオ大阪で「題名のない番組」(題名のない音楽会ではありません)という番組を担当されていたので,気心が知れているうえに,博識なご両者の口から話がよどみなく流れ,それがそのまま文章化されているので,読みやすいことこの上ないという感じでした。

 東芝が開発した日本語ワープロ1号機について,使ってみようかと考えたが値段が600万円(正確には630万円だったようです)といわれてあきらめたと発言されている小松さんは,その後,安くなったワープロを使うようになられたのですが,ワープロの操作に慣れていないときに,誤ってせっかく作成した文書(400字詰め原稿用紙2枚半)を消去してしまい,入力しなおさなければならなくなり,大慌てをした話などが出てくるのですが,私にも同じような覚えがあるので思わずぞっとしたりしました。また文壇との付き合いが嫌で関西にとどまっているというような極めて率直なお話が出てきて,人付き合いが苦手な私はここでも「よくわかります」と感じてしまいました。

 30年以上前に放送された番組ですから,その内容や表現については現在の基準からすると問題がある箇所もありますが,それも含めて当時の雰囲気を感じることにも意味があるのではないかと思います。一度手に取ってみればよいのではないでしょうか。

[藤棚ONLINE]全学共通教育センター・西浦太郎先生推薦「カブール・ノート 戦争しか知らない子どもたち」

図書館報『藤棚ONLINE』
全学共通教育センター・西浦太郎先生推薦「カブール・ノート 戦争しか知らない子どもたち」

山本芳幸著
幻冬舎 2004

 みなさん、こんにちは。今回、皆さんにお勧めしたい本は、「カブールノート」です。

 カブールはアフガニスタンの首都ですが、この国では、過去何十年もの間、何度も戦争が行われてきました。著者の山本さんは、かつて国連の難民高等弁務官事務所(UNHCR)に勤め、戦争により家や土地、家族を失った人々へのさまざまな支援を行ってきました。本書では、現地の人々が生きる状況や、山本さんが紛争状況で人を支援する際の苦悩や葛藤が赤裸々に書かれています。

 日本にも、そして世界にも自分達の想像を超える体験をしている人たちがいます。日本に閉塞感を感じ、世界をもう少し知り、より大きな文脈から見てみたいと思っている方に本書を是非、お勧めします。また、国際協力という分野の実態を知り、日本人特有の考え方について考えたい人にとっても良書です。

 専門的な話も出てきますが、エッセイ調で比較的読みやすいので是非、手に取ってみてください。