☆新入生向けの図書案内
「若者の活字離れ」が指摘されることがある。電子媒体を含めるなど統計の取り方によってはそうも言えないといった反論もあるが、周辺を見ると活字が苦手な学生が増加しているのも事実のようだ。そのような人々に「読書」してもらうにはどうすれば良いか。本稿では私自身のメディア・ミックス的な読書体験を紹介してみたい。
2015 年版『情報通信白書』では、フィクションで描かれたICT 社会の未来像を展望してい
る。映画『マトリックス』ではコンピュータによって管理された仮想現実世界に生きる人々の姿が描かれ、アニメ『攻殻機動隊』では脳だけが代替不可能な存在で義体(脳機能以外の機械化)を利用して生きる人々の世界が舞台となっている。文化庁メディア芸術祭優秀賞受賞アニメ『電脳コイル』でも、ウェアラブル端末の電脳メガネでネットにつながり、電脳空間内のツールを利用する子供たちの様子を映像化している。
こうした作品群を生み出すきっかけとして言及されるのが、ウィリアム・ギブソンの『ニューロマンサー』だ。SF 界の潮流を変えた金字塔的作品とされ、インターネット社会の隆盛を予見した内容となっている。また、脳と体の分離というテーマは養老孟司『唯脳論』でも扱われており、情報化社会とは社会が脳の機能に近づくことを意味していると喝破している。ショートショートの名手、星新一の『声の網』では、個人情報を預かる情報銀行が登場し、「ここが人びとの脳の出張所なのだ」との位置付けがなされている。
映画やアニメを先に視聴し後日書籍に触れたケースでは、言葉だけでは伝わらない映像の迫力に圧倒されもしたが、反面、映像化しにくい部分の描写や一定の再生速度では見落としがちな説明で理解が深まった部分もあり、補完的に作用したとの感想を持っている。主題の表現方法として各種メディアには一長一短があり、「活字」の持つ力も依然として強力である。きっかけは何でも良い。比較的時間のある大学生の間に、「活字」の持つ魅力に気づいてもらえれば
幸甚である。
甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.33 2016) より
「2-2. 教員オススメ」カテゴリーアーカイブ
須佐元先生(理工学部物理学科)「自らの頭で考える」
☆新入生向けの図書案内
新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。これからの新生活に心踊らせていることと思います。本学に入学してくれた皆さんには、本学での学びを通して自らの頭で思考するとはどういうことかということに関し、自分なりの手ごたえを持ってほしいと思います。
現代は情報が氾濫し、また他人の意見が垂れ流されています。これらを無批判に受け入れるのではなく、自分の頭でよく考え、本当に分かっていることはなにか、またそもそも自分が考えている枠組みは正しいのだろうかなど、深く思考し反省するマインドを養っていただきたいと願います。そのような観点から、みなさんの選書の一助とすべく、一冊の本を推薦いたします。
「科学にすがるな!」――宇宙と死をめぐる特別授業 佐藤文隆、艸場 よしみ著
この本は大変面白い設定の本です。科学に関してそれほど深く勉強したことのないある女性(著者、艸場 よしみさん)が、死とは何だろうかという問いを突き詰めて考えていきます。その中で科学の先端では「死ぬこと・生きること」をどのように考えるのだろうかという疑問を持ち、まさに「科学にすがる」ように理論物理学の大御所である佐藤文隆氏に教えを乞うというところから始まります。佐藤先生は先ごろ退官されましたが、本学でも教鞭をとられた先生で、独特の世界観と科学に対する深い知識・洞察で知られる方です。本の中のやり取りの中で、艸場さんはしばしば佐藤先生に叱られます。ほとんどの人が陥りやすい「科学万能」の世界観は厳しく戒められ、逆にその限界を説くことによって科学的思考の価値が際立ちます。またこの本はその硬い内容にもかかわらず、お二人の
やり取りを中心に構成されているため、とても分かりやすく面白く読めてしまいます。
理工系のみならず文系の学生の諸君にもぜひご一読をお勧めいたします。
一冊の本を推薦させていただきましたが、本来読書とは自由なもので、楽しみでもあります。図書館で様々な本を手に取って読んでみてください。ネットサーフィンにはない濃密で知的な世界が広がっていることを感じるはずです。
ぜひ読書を習慣として有意義な学生生活を送ってください。
甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.33 2016) より
松川恭子先生(文学部)「インド系作家の小説は面白い」
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最近では小説を読む時間がほとんど取れないが、小学生の頃の私は、かなりの読書好きだった。学校の図書館に入り浸っては、『少年少女世界文学全集』(講談社)を全巻読破するのを目標にしていた。小学校3 年生あたりからその習慣が始まったと記憶している。その頃の私について「学校の行き帰りも本を読みながら歩いていたよ」と幼馴染は証言する。この小文を書くにあたって、この全集にはどんな作品が収録されていたのだろう、と思い確認してみると、アメリカ編に「若草物語」「トム・ソーヤーの冒険」等が、イギリス編に「宝島」「フランダースの犬」等が収録されていた。その他、フランス編、ドイツ編など、ヨーロッパが中心で、他地域の文学といえば、「古事記」他が収録された日本編以外には、「アラビアンナイト」等が収められた東洋編しかなかった。とても「世界文学」とはいえないラインナップである。この全集が出版された1960 年代は、欧米中心で文学作品が考えられていたということなのだろう。
この中で、私が研究対象としているインドの作品は、東洋編の「ラーマーヤナ」しかない。だが、インドは、近年、多くの素晴らしい作家を輩出している。現代的な世界文学全集を編集するとしたら、アフリカ、中南米諸国の作家と並んで、インド系作家の作品がいくつも入るだろう(インド国籍ではなく、イギリスやアメリカの国籍を持つ作家もいるので、「インド系」という言葉を使う)。彼らの多くが英語で小説を書き、世界中に読者を獲得している。彼らの小説を読んで、私がインドについて知ることは多い。とにかくインド系作家の小説は面白い。インド人は移民として世界各地に出ていっていることもあり、中にはインドを越えた領域を舞台とするスケール感の大きい作品もある。まだ日本語訳されていない作品も多く、私はインド系作家の小説を英語で読むことが多いのだが、今回、日本語で読めるお勧め作品を2つ挙げておきたい。一つは映画『スラムドッグ・ミリオネア』の原作、『ぼくと1 ルピーの神様』(ヴィカス・スワラップ著、2006 年、ランダムハウス講談社)である。主人公がクイズ番組に出場するという物語の軸は同じだが、インドに生きる人々の姿が丹念に描かれており、各エピソードが胸を打つ。著者は在大阪インド総領事を務めたこともある。そしてもう一つ、『ガラスの宮殿』(アミタヴ・ゴーシュ著、2007 年、新潮社)を挙げておく。こちらはインド移民の貧しい少年とビルマ王朝に仕える侍女の少女の出会いから始まる、ビルマ(ミャンマー)とインドを舞
台とした壮大な歴史小説である。
活字離れと言われつつ、特定のジャンルの本は読まれているとも聞く。大学生には自由な時間が多い。アルバイトに精を出すのもよいが、読書の幅を広げるには絶好のチャンスだと思う。これまで読む機会がなかったような様々な作品にぜひチャレンジしていってほしい。
甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.33 2016) より
三好大輔先生(フロンティアサイエンス学部)「絶対的な何か」–藤棚vol.32より
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「近頃の若者は、、、」皆さん、こんな言葉を耳にして憤慨したことはありませんか?一方で、「どうせ頑張ったって、、、」と思わず言ってしまうことはありませんか?私は、皆さんの倍以上の時を過ごしてきました。以前は、「近頃の若者は、、、」と言われて腹を立てていました。また最近では、「どうせ頑張ったって、、、」と、しょぼくれているような気がします。
「こんなオヤジになりたくない!」と思った皆さんに二冊の本を紹介します。
一冊目は、岡本太郎著の自分の中に毒を持て―あなたは“常識人間” を捨てられるか (青春文庫)です。「芸術は爆発だ!」の芸術家です。著者は、20 年近く前に亡くなっています。ですが、今読み返してみても、とても納得できる言葉が記されています。私の理解は次の通りです。相対的価値観(人からどう思われるか)はどうでもいい。絶対的価値観(自分の信念)を貫き通せ。つまり、閉塞感があったり、社会が悪かったり、うまくいかない様々な理由があっても、ありのままの自分と向き合って認める。そこから己だけの道を突き進め、と言われているような気がします。
二冊目は、植松努著のNASA より宇宙に近い町工場(ディスカヴァー・トゥエンティワン)です。もしかして、この著者のTED での講演等を見た方もいるかもしれません。講演も感動的ですが、本書も感動的です。著者は、「どうせ無理」という言葉を世界から無くそう、と訴えます。周りから何を言われても、自分の目標や夢に向かって行くべきである、と仰っているように思います。
この二冊の著者は、生い立ち、人生の目標、職業等、何一つ共通点がありません。ですが、メッセージは共通しているように思います。それは、自分の中に絶対的な何か(目標、価値観、信念等)をもつことが大切だ、ということでしょうか。
もちろん、この著者たちは成功者ですよね。では、私たちは、そんな何かを見つけることが出来ないのでしょうか?そんなことはないはずです!これらの本を読んで、私みたいなオヤジでも、目覚めたつもりで頑張ろうと思っています。月並みな言葉ですが、皆さんのこれからの人生には無限の可能性があります。自分の大切な何かを見つけて、それと共に自分らしく進んで行きたいですね。
甲南大学図書館報 藤棚(Vol.32 2015) より
佐伯邦夫先生(マネジメント創学部)「組織を率いる、戦略を仕事とするならば推薦するこの一冊」–藤棚vol.32より
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私の父は、既に亡くなりましたが、陸軍士官学校卒業、戦争が終わるまでは職業軍人でした。私が生まれる前で、生前あまり父も積極的に語る事はなかった。大学に入り、少し父と同じ本を読み、同じ思索が出来ないか、或いは父と共有できるものはないかと思い、士官学校時代勉強になった本はないかと尋ねると、「クラウゼヴィッツ著の戦争論だ」とニヤッと笑った。何、まだ軍隊を引き摺っているの?と言うと、これは経営の原点としても通用する。お前も読むと良い。確か岩波文庫だったと思う。翻訳も複雑で、すっと読めない。ドイツの特徴であろう論理の几帳面さ、使われた言葉の硬質さ、難解だった。
米国大学院留学前はJerome D. Salinger, のThe Catcher in the Rye、Kurt Vonnegut(カート・ヴォネガット)のモンキーハウスへようこそ、ハイアニスポートなど、雑誌The NewYorker に掲載される短編的、いかにもアメリカ的、都会的文章を読んでいた。当時の読解力では分厚い小説は難しく、ショートストーリーは助かった。
戦争論はMBAを卒業し、NYで働き始めた際何冊かの本と共に、時間がある時読み直した。著者のクラウゼヴィッツ(Carl PhillipGottfried von Clausewitz:1780 - 1831)はプロイセンの軍人。戦争の研究に没頭し、政治、軍事政策の中枢でプロイセンのために働き、軍事教育者としても有名になった。「戦争論」の執筆途中で病いにたおれ、51歳でこの世を去った。
「戦争論」が有名なのは、近代戦争を体系的に研究した最初の著作であり、戦略だけでなく、戦争と政治の関わりを包括的、体系的に論述しており、軍事戦略、政治学、そして経営戦略を学ぶ者にとって基本書とされている。科学的な分析方法(彼自身は「戦争は科学ではない」と言い切っているが)や哲学的手法をつかい、戦争研究を学問として確立させたという点で、それまでの戦術・兵法書と大きく異なる。そこでは勝つ事よりも負けない事を優先、そして補給線(兵站)の確保を強調している。ビジネスにも大切な点である。難解だが一読に値する。薦めます。
甲南大学図書館報 藤棚(Vol.32 2015) より
灘本明代先生(知能情報学部)「専門に関係するいろいろな本を読んでみよう。」–藤棚vol.32より
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みなさん、高校と比べて大学は教科数が多く、それに伴い教科書もたくさんあり、驚きませんでしたか?
教科書をぺらぺらとめくると難しい事がたくさん書かれていてびっくりされたかもしれません。
1年生のうちは様々な一般教養を学んで行きますが、徐々に学部毎の専門教科の授業が増えてきて、卒業するころには様々な専門知識を習得することが出来るかと思います。専門に関する事は授業で先生方が教えて下さいますが、それに付随した様々な知識を自ら習得することも心がけて下さい。
この時、みなさんはインターネットを用いて知識を習得することが多いかと思いますが、是非一度図書館に行って本棚を見てみて下さい。
図書館は学部毎に本棚があり、専門書やそれに付随する本がたくさんあります。難しそうな専門書の隣には、皆さんにとって興味深い本があるかもしれません。そして是非、隣の本棚も見てみて下さい。意外と興味深い本がたくさんあるかと思います。知識の宝を是非図書館で発見して下さい。
例えば、コンピュータの授業を受けているときに、スティーブ・ジョブスやビル・ゲイツ等のコンピュータに関する人々の伝記本を読んでみると、新たな発見があったり、コンピュータが身近に感じることが出来ると思います。科学者の伝記本も同様におもしろいです。松下幸之助や本田宗一郎等の著名な経営者の伝記本もたくさんあります。もちろん歴史上の人物の本や、政治家の本等、様々な伝記本があります。
「伝記なんて小学生の時読んだよ。」と言わずに、大学生になってから、自分の専門や様々な人々の伝記本をよまれると、授業が身近な物になると思います。
甲南大学図書館報 藤棚(Vol.32 2015) より
