月別アーカイブ: 2012年4月

金泰虎先生(国際言語文化センター)推薦『異文化理解の座標軸』

☆新入生向けの図書案内

著者: 浅間正通
タイトル: 異文化理解の座標軸
出版者: 日本図書センター
出版年: 2000
配置場所: 図書館 1階開架一般
請求記号: 361.5//2235

今、我々はグローバル化時代の真っ直中に住んでおり、ご存じの通り、人・物・情報などが国境を超えて激しく行き交っています。そして日本に居ながらにして諸外国の人々と接する機会が増えていることから、異文化・他文化に対する理解が重要になってきています。そこで、異文化・他文化と共生するための道しるべとして、上記の本を推薦したいと思います。
本書は、編者の浅間正通氏を含む6人が書いた文章を綴ったもので、3部構成となっています。
第1部では、歴史における「異人」の意味を紐解き、日本における異文化理解の実際を明確にし、そこで生じる問題点を克服するための視座に転換して「共感」を提案しています。第2部では、日本における異文化理解教育の現状と課題について述べており、その異文化理解の核心は「人間理解」であると提言しています。第3部では、異文化理解における「外なる国際化」、「内なる国際化」を絡ませて他文化共生社会に向けての提案を行っています。取りも直さず、日本における異文化理解に対する歴史的歩み、そして異文化理解のための人間理解、ひいては異文化理解の体験、さらには望ましい海外留学とは何かについて言及しており、今後、学生諸君にとって増えてくるはずの異文化・他文化の体験時には、大いに参考になるものと思われます。
ところで、自己表現を慎むことを美徳とする観念が色濃く残る日本社会では、積極的な姿勢が求められる異文化理解に対し、場合によっては、戸惑いを感じることもあると思います。本書が、日本社会におけるグローバル化の中で、異文化・他文化を理解するのに、役立てられることを期待しています。
甲南大学図書館報 藤棚(Vol.29 2012) より

永田亮先生(知能情報学部)「2500/life」

☆新入生向けの図書案内
「人は一生にどれぐらいの本を読むのだろうか?」。皆さんは、そんなことを考えたことがありますか。私は、大学生のころ、ある時思い立って、一年間の読書数を数えることにしました。
その結果は約50 冊でした。平均すると週一冊のペースです。50 年間、同じペースで読み続けたとしても、2500 冊しか読めないことになります。数えているということもあり、積極的に読書をしていたにもかかわらず、たったこれだけしか読めないことに気付き、愕然としたことを覚えています。その時に、「良い本をたくさん読もう」と決心したこともよく覚えています。ちなみに、甲南大学の図書館に所蔵されている本は、約50万冊で、一年間に約2万冊が登録されるそうです。この数字から見
ても、2500冊というのがいかに少ないかわかります。
本をたくさん読むことが、一つの財産になるということはよく言われることです。積極的に本を読むことも大切ですが、上述の通り、読むことのできる冊数は限られていますので、良い本を選ぶことも大切かと思います。本をたくさん読んでいる人から推薦してもらうのは良い方法でしょう。お気に入りの作家を見つけることも効果的です。また、世の中、良い本ばかりではないので、時には途中でページを閉じてしまう勇気も必要かも知れません。

著者: 結城浩
タイトル: 数学ガール
出版者: ソフトバンククリエイティブ
出版年:  2007
配置場所: 図書館 1階開架一般
請求記号: 410.4//2015

著者: 小川 洋子
タイトル: 博士の愛した数式
出版者: 新潮社
出版年: 2003
配置場所: 図書館 2階中山文庫一般
請求記号: 913/O

次に紹介する2 冊は私がお勧めする本です。今回は、本の素晴らしさの一つ、分野の壁を自由に超えられるという点を意識して紹介します。1 冊目は、「数学ガール(結城浩 著)」です。数学の知識がなくても楽しく読める小説です。文系の学生さんにも、数学の魅力を感じてもらえるのではないかと思います。2 冊目は、「博士の愛した数式 (小川 洋子 著)」です。そのまま読んでも十分に楽しめますが、物語の中に出てくる数式の意味が分かると、この小説の真の意味を理解することができます。理系の学生さんはぜひ数式の意味にチャレンジしてみてください。
甲南大学図書館報 藤棚(Vol.29 2012) より

長濱宏治先生(フロンティアサイエンス学部)推薦『世界で一番美しい元素図鑑』

☆新入生向けの図書案内

著者: セオドア・グレイ
タイトル: 世界で一番美しい元素図鑑
出版者: 創元社
出版年: 2010
配置場所: 図書館 2階参考図書
請求記号: 431.11//2012

理系、文系を問わず、すべての新入生諸君にぜひとも読んでもらいたい一冊の本を紹介します。それは『世界で一番美しい元素図鑑』です。
ルクレティウス(紀元前60 年ごろ)はその著書『事物の本性について-宇宙論-』の中で、「いかなるものも無に帰ることはできえない、万物は分解されて元素に帰する。」と記しています。皆さんもご存知のように、この世で検知可能なあらゆるものは元素でできています。元素には二つの別の顔があります。ひとつめは純粋状態で、ふたつめは他の元素と結合した化合物の状態です。どの元素も純粋状態と並んで、私たちが日常生活で見かける化合物や製品としての顔をもち合わせています。この本は、世界をかたちづくる根源である118個の元素の両方の顔を突き合せて私たちに見せてくれます。つまり、この本は世界の根源の百科事典であると言えます。また、各元素の科学的知見に基づいた解説はユーモアにあふれ、その元素の発見・性質・用途などについて、様々なエピソードや意外な物語を教えてくれます。この本を読んだ後には、この世界をかたちづくっている元素に対するあなたの見方は大きく変化していることでしょう。Let’s Enjoy the Elements.
甲南大学図書館報 藤棚(Vol.29 2012) より

田中修先生(理工学部・図書館長)「新聞を読もう!」

☆新入生向けの図書案内
2009年に、65の国と地域の15歳の男女47万人を対象に、国際学力調査が実施されました。昨年12月に、その結果が発表されました。それによると、世界のどの地域でも、新聞をよく読んでいる生徒ほど、読解力が高いことが明らかになりました。日本では、読解力を向上させるため、全国の小・中学校で朝読書や、新聞を読む取り組みを奨励してきました。その効果があり、読解力で、前回の15 位から8位に順位を上げました。世界的に、読解力を高めるために本や新聞を読むことの大切さが、再認識されたのです。
本学図書館とサイバーライブラリには、読売、朝日、産経、日経、ジャパンタイムズなどの新聞がそろっています。昼休みでも授業の空き時間でも、図書館を利用して、新聞を読む習慣をつけてください。社会や時代を知り、科学の進歩を見ることができ、予期せぬ情報を得ることもあります。新聞を読んで高められる読解力は、あらゆる学問の勉強に生きるはずです。
甲南大学図書館報 藤棚(Vol.28 2011) より

武井寛先生(法学部)推薦『デンマークの光と影』

☆新入生向けの図書案内

著者: 鈴木優美
タイトル: デンマークの光と影 -福祉社会とネオリベラリズム-
出版者: 壱生舎
出版年: 2010
配置場所: 図書館1階特設
請求記号: 364.023//2011

あちら「では」こうなっている,それに比べて日本「では」……と,外国でのさまざまな事情と日本とを比較して,日本の実情を嘆いたりしていると,「出羽の守」などと揶揄されることがある。確かに,表面的な数字や現象のみを比較しても,そのよってきたるゆえんが分析されていなければ,意味はないということはできよう。
とはいえ,たんなる数字の比較のみであっても,その背後に存在しているそれぞれの国の事情への興味をかきたてることもあり,考えるきっかけを与えてくれるという点では,意味がないというわけでもない。
少なくとも,諸外国と日本との比較は,彼我の違いに興味を沸き立たせ,自己を相対的に見る視点を養ってくれる。したがって,諸外国の実情について触れた書物を読むことは,学問へアプローチするうえでの,一つの通路となりうる。この意味で,「出羽の守」本もすてたものではないのである。
本書は,複数の国際調査で「世界一幸福な国」として称揚され,近年とみに注目を集めているデンマークについて,同国在住の著者が,その内側から分析したレポートである。
本書が他の「出羽の守」本と一線を画すのは,タイトルが示すとおり,高福祉社会デンマークの「影」の部分にも視線をそそいで考察している点にあるが,より興味深いのは,副題にもあるとおり,デンマークにさえも「新自由主義」の波がひたひたと押し寄せ,一定の影響力をもってきている様相を描いているところにある。
新入生のみなさんは本書から何を感じ取るだろうか。そして,日本の現状・将来についてどう考えるだろうか。一緒に議論できることがあればと願っている。
甲南大学図書館報 藤棚(Vol.28 2011) より

前田多章先生(知能情報学部)「新入生向け図書案内」

☆新入生向けの図書案内

著者: マーヴィン・ミンスキー
タイトル: 心の社会
出版者: 産業図書
出版年: 1990
配置場所: 図書館1階開架一般
請求記号: 141/Mi47

新入生諸君に、『心の社会』を推薦します。
マーヴィン・ミンスキーにより1985 年に記され、日本では1990 年に産業図書から出版されています。
当該書籍は、心がどのように「考え」を生み出していくのかを、エージェントとエージェンシーの関係で、見事に説明し読者に理解させてくれる傑作です。私は本書に、日本で出版されて間もない1990 年に巡り会いました。そして、本書の中で解説されている、心の社会の仕組みのシンプルさと妙技に強い共感を受け、息つく間もなく読み進んだことを、今でも鮮明に記憶しています。日本での初版は1990 年で、すでに20 年以上経っています。しかしながら、本書は、認知科学の発展に大きな影響を与えた良書であるのみならず、今もなお、認知科学の本質をとらえる上で非常に重要な概念を記した書籍の一つとして輝きを失っておりません。
本書の構成は、全30 章で構成された大作です。前半では、「心の社会」という認知モデルを解説しています。続いて、ヒトにおける、外界の認識、意味の学習、推論といった高次認知機能が「心の社会」によって如何に実現されているかが解説されています。また、意識と記憶、感情、発達、言葉および文脈といった側面に対しても「心の社会」の適用を試みています。そして後半では、フレームという概念の導入により「心の社会」に汎用性をもたせ、心がどのように「考え」を生み出していくのかをまとめています。
本書は、500 ページを優に超える大作ですが、文系学生・理系学生を問わず、ぜひ大学生として読んでおいて欲しい本です。読んでみて下さい。
甲南大学図書館報 藤棚(Vol.28 2011) より