月別アーカイブ: 2017年2月

湊かなえ『少女』

  文学部 4年生 水口正義さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名:少女
著者:湊かなえ
出版社:双葉社
出版年:2012年

 「人が死ぬところを見てみたい。」これが、由紀の願いだった。異常なまでのその強い願望は、読者を驚愕させる。
 由紀はどこにでもいるような、普通の女子高生である。毎日真面目に学校に通い、勉強もよくできる。高校生といえば年代的に、身の回りに楽しいことがいくらでもあり、いつも何かに没頭しているようなイメージを抱く。しかし、彼女の生きる原動力となっているのは、誰かの死を見ること、ただそれだけである。
 一般の人の感覚からすれば、その原動力は誤ったものとして解されるが、由紀は人を殺そうとするわけでもなければ、だれかを操って殺させようとすることもない。死ぬところは見たい、でも直接手を下すようなことはしたくない。その葛藤がずっと続く。
 ある日、由紀の憎き人物が電車にはねられるが、彼女はその場に居合わせなかった。後でその事実を知った時、何を思っただろうか。ここでの心理描写は全く無い。不謹慎ではあるが、嫌いな人物がこの世から消えたなら、少なからず嬉しく思うだろう。しかし、由紀はこう思ったはずだ。「なんで私の前で死んでくれないの!」と。死ぬ人は誰でもよかったはずだが、この時ばかりは、殺したいぐらいの人が死んだのだから、それが見られず悔しくて仕方がなかったのではないだろうか。そんな狂気とも思える考えが、読み進めるうちに読者の頭の中に浮かぶようになる。
 ただし、この小説は由紀が人の死を見ることができるかどうか、に焦点化しているのではない。唯一無二の友人である敦子に助けられ、子供と触れ合い、自分が死にそうになった過去のトラウマとも闘いながら、人の死と対峙する様子が描かれているのである。途中までは、一人の若者の邪念のようなものがただ曝されているように感じられるかもしれないが、「人が死ぬところを見てみたい。」から始まる、ある女子高生の少し変わった夏休みの一遍である。

茂木健一郎『まっくらな中での対話』

  文学部 4年生 水口正義さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名:まっくらな中での対話
著者:茂木健一郎
出版社:講談社
出版年:2011年

 この本で取り上げられている、「ダイアログ・イン・ザ・ダーク」は、ドイツで発祥したエンターテインメントである。視覚障害を持つ人に連れられ、本当の暗闇の中に入る。その空間では、何も見えないながらも、そこに何が置かれているかを当てたり、食事をしたりする。それによって、人は何を感じ、人の中に何が起こるのかを、脳科学者の茂木健一郎が語る。内容の要旨ごとに評していきたい。
 第一に、現代の人は光のある世界から逃げられないでいるという事実を、この空間に入って初めて知るという点。暗闇の中で目を開けて何も見えないとき、じっと一点を見つめたりして、目の前に何かを見ようとする。そこには、見えないという事実を受け入れたくないという気持ちと、見えるはずだという思い込みがあるという。何も見えずあたふたする人の、子供っぽくて、マヌケな様子が詳述されているところが評価できる。
 第二に、光があるか否かで、人の感情はいとも簡単に大きく変容するという点。真っ暗闇の空間では、人の心は揺さぶられるという。何もしていなくても、ただ見えないというだけで、最初は不安に襲われ、次に慣れが起こり、最後には一種の安心感が得られるらしい。この感情の変容について、氏は体験者の一挙手一投足と語りを併せて分析しており、各段階の感情を理解する助けとなっている。
 第三に、視覚障害者と健常者の話し合いから見えてくる事実が述べられる点。人間の知覚の一つがないことは、それがマイナスになっているわけではないと氏は述べる。目が見えないから何かをしてあげなければならないなどと考えるのは、たまたま目が見えている健常者の勝手な妄想であるということが、この空間に入った後のアテンドと健常者の知覚能力の差から読者に伝わるところが良い。
 総じて、この一冊は暗闇の中にいる人がどうなるかだけが書かれているのではなく、そこから派生して、健常者の弱点、視覚障害者の考えと立ち位置まで書かれている点が特筆に値すると言えよう。

子安増生 編著(文学部)         『よくわかる認知発達とその支援 第2版』

<教員自著紹介>
 「認知発達の基礎」から「認知発達の障害と支援」まで、全100項目をすべて見開き2頁で、図表も豊富に用いて、わかりやすく解説した大判の参考書です。文献リストも充実しており、2005年に出版して以来、好評を得てきましたが、『精神障害の診断と統計マニュアル 第5版(DSM-5)』の刊行により概念や用語が変更になったことへの対応をはじめ、最新のデータに更新して改訂したものです。

■『よくわかる認知発達とその支援 第2版
■子安増生 [編著] ミネルヴァ書房  2016年10月
■請求記号 141.5//2168
■配架場所 図書館1F教員著作コーナー
■著者所属 文学部  特任教授
 
■子安先生からのお薦め本
『自閉症と感覚過敏』 熊谷高幸[著]   
新曜社(2017年1月出版)       

文学部 西 欣也先生へのインタビュー

文学部 4年生 水口正義さんが文学部の西欣也先生にインタビューを行いました。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

M: 今日は、先生が推薦する本と、読書に関してインタビューさせていただきます。まず、西先生が甲南大学生に薦める本を一冊教えてください。
N: この『日本で100年、生きてきて』という本をおすすめします。これは昨年亡くなったジャーナリストの、むのたけじさんという人が書いた本で、戦時中に自分が伝えたいことを伝えられなかった経験から、日本のメディアの中で言うべきことを言っている一冊です。

M: どのような点が特にいいと思われましたか?
N: ブレない視点です。普通のメディアよりも、むのたけじさんの言っていることのほうが大事と言ってもいいぐらいで、誰が読んでもいいと思います。

M: ありがとうございます。では次に、読書に関してお尋ねします。先生は月に何冊ぐらい本を読まれますか?
N: 本を「読む」と言うと難しいですね。僕は何冊も並行して読むので、月で考えるとだいたい2~3冊ぐらいですかね。

M: 先生は多読派なんですね。
N: そうとも言えません。大事だと思った箇所や一冊があれば、覚えるぐらい繰り返し読みます。

M: そうなんですね。先生が学生の頃はどんな本を読んでいましたか?
N: 太宰治やトルストイとかですね。

M: 甲南大学生は平均すると年に平均3冊本を借りるという調査結果があるのですが、先生はこれをどう思われますか?
N: 意外と多いなと思います。もちろん読む人はたくさん読んでいるでしょうし、読まない人は全く読まないでしょうから、バラつきは大きいと思います。

M: 甲南大学生に読書に関して一言いただけますか?
N: 本は…読めとは言わないです。読んだほうがいい、ぐらいですね。教員が言ったところで読まない人は読まないですから、そういう人は年をとってからたくさん読んだらいいと思いますよ。

まとめ:甲南大学生の「平均3冊」を僕は少ないと思っていましたが、学生だから本を読むべきだ、と考えるより、「読もうとする人が好きなように読むのが読書」なのだと思いました。

 <西 欣也先生おすすめの本>
むのたけじ著  『日本で100年、生きてきて』 朝日新聞出版,2015年

(インタビュアー:文学部 4年 水口正義)

国際言語文化センター Andrzejewski Daniel P先生へのインタビュー

文学部 4年生 水口正義さんが国際言語文化センターのAndrzejewski Daniel P先生にインタビューを行いました。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

s:今日は先生が推薦する本と、読書に関してお話を伺います。最初に、先生のおすすめの本について教えてください。
a:私がおすすめするのは、『Shutting out the sun』(2006年、著者Michael Zielenziger)という本です。これはアメリカ人ジャーナリストである著者が、日本人の「ひきこもり」について、歴史・経済・教育など、あらゆる観点から考察しています。

s:その本によると、なぜひきこもりが起こるのですか?
a:結論としては、ひきこもりは明確な理由や特定の原因は無く、様々な要因が絡み合って起こるということでした。江戸時代までの鎖国が関係していたり、経済的な孤立が主な原因になっていたり、本当に一言では説明できません。この本が取り扱っている内容からも分かるように。あまり良いことは書かれていないので、”negative book” と批判する人もいるようです。

s:おもしろそうですね。先生はなぜその本を読もうと思ったのですか?
s:本屋の洋書を見ていた時、たまたま目に留まって、少し読んでみたらとても面白くて、その場で買いました。

s:では次に、読書に関してお聞きします。まず、先生は月にどのくらい本を読みますか?
a:ほとんど読みません。授業がある時は忙しいので、長期休暇中しか読めないので、1年に3冊程です。

s:そうなんですか。先生は日本の文化をよくご存知なので、沢山本を読んでいるのだろうと思っていました。では次に、大学生の読書についてお聞きします。甲南大学図書館のデータによると、甲南大学生は年に3冊程度しか本を読まないのですが、これについて先生はどう思われますか?
a:本を読むことは大事です。私が大学生だった時、マルクスの本を読みました。マルクスの考えそのものには賛成できませんでしたが、新しい考えを知るという点で、とても良い経験となりました。ですので、読書は情報ではなく、知識を身につけることにもなるので大切です。

まとめ:先生は、読書は ”open your eyes”(眼を開く=物事の捉え方を高めること)だと仰っていました。私は今までそのように考えたことはありませんでしたが、今後はこの言葉を読書の動機にしていこうと思いました。

 <Andrzejewski Daniel P先生おすすめの本>
Michael Zielenziger著  『Shutting out the sun』 Vintage,2007年

(インタビュアー:文学部 4年 水口正義)

文学部 O先生へのインタビュー

文学部 4年生 水口正義さんが文学部のO先生にインタビューを行いました。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

M: 今日は、先生が最近読まれた本と、読書に関してインタビューさせていただきます。先生は最近、これは面白いと思った本はありますか?
O: この『責任という虚構』という本が面白かったですね。社会心理学がテーマなのですが、これは個人の「責任」なんて本当は無いのではないか、むしろすべての責任は社会にあるのではないのか、という著者独自の観点が際立っています。

M: 個人の責任が無い、とはどういうことですか?
O: たとえば人を殺めてしまうような人がいたとしたら、その原因を探る時、カッとなりやすい気質だったからだ、とするなら気質はその人の親や祖父母からの遺伝子が関係しているから、本人に責任を問えないのでは、というような考え方です。環境要因が堆積するという意味で「沈殿物」と表現しているところもまたおもしろいところです。

M: 個人に責任を問う現代社会の流れとは全く別の考え方ですね。では次に、読書関してお聞きします。先生は年に何冊ぐらい本を読みますか?
O: 普段は論文を読んでいるので、本はあまり読みません。私にとって読書は趣味なので、多分年に10冊ぐらいですね。

M: どのような本がお好きですか?
O: 学生の頃からカフカやドストエフスキーが好きです。人の心があのような世界観で書かれているところに夢中になりますね。『地下室の手記』や『白痴』も好きです。

M: 先生が大学生の時は、たくさん本を読まれていたのですか?
O: 学生の頃はかなり読んでいましたね。バスで通学していたので、移動中は大抵読書していましたね。

M: やっぱり学生の間に本は読んでおくべきですか?
O: そうですね。学生時代に本を読まないのはさびしいかな、と思います。

まとめ:私は普段趣味として本を読むことは少なく、専門書しか読まないので、サーティフィケイトに取り組んでいるこの機会に、小説も読んでみようと思いました。

 <O先生おすすめの本>
小坂井敏晶著  『責任という虚構』 東京大学出版会,2008年

(インタビュアー:文学部 4年 水口正義)