
知能情報学部 4年生 Tさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)
書名 : ノルウェイの森
著者 : 村上春樹
出版社:講談社
出版年:1987年
『ノルウェイの森』は、主人公ワタナベが三十代になった現在から、大学時代を振り返る形で語ら
れる物語である。本作では、青春のきらめきよりも、むしろ若者が抱える孤独や不安、喪失感とい
った影の部分が丁寧に描かれており、読み進めるほどに静かな重みを感じさせる作品だと感じた。
物語の大きなテーマの一つは「喪失」である。親友キズキの死は、主人公だけでなく直子の人生に
も深い影を落とす。直子は過去の出来事から立ち直れず、心の不安定さを抱えたまま生きている。
その姿を通して、死は一瞬の出来事であっても、残された人の人生に長く影響を与え続けるのだと
強く感じた。一方で主人公は、直子を大切に思いながらも、完全に理解することができず、その距
離感に苦しむ。
対照的に描かれるのが緑の存在である。緑は現実的で率直な性格を持ち、過去に縛られすぎること
なく前を向いて生きている。その姿は、主人公にとって救いであると同時に、自分がどの方向に進
むべきかを考えさせる存在でもあると感じた。直子と緑という二人の女性は、単なる恋愛対象では
なく、「過去に向き合う生き方」と「現在を生きる姿勢」を象徴しているように思えた。
村上春樹の文章は非常に平易で読みやすいが、その中に複雑な感情が静かに織り込まれている。日
常の何気ない描写や会話が積み重なることで、登場人物の心情が説明されすぎることなく伝わって
くる点が印象的だった。読者は与えられた情報から自分なりに意味を考えることができ、その余白
が作品に深みを与えている。
本作を通して強く感じたのは、「人は誰かを完全に理解することはできない」という現実である。
相手を思いやる気持ちがあっても、その苦しみや孤独をすべて共有することはできない。それでも
人は他者と関わりながら生きていくしかないという姿勢が、物語全体を通して描かれていると感じ
た。
読み終えた後、明確な答えや救いが示されるわけではないが、自分自身の人間関係や孤独との向き
合い方について深く考えさせられた。静かでありながら長く心に残る作品であり、人生のある時期に読むことで、感じ方が変わっていく小説だと思う。







