須佐元先生(理工学部物理学科)「自らの頭で考える」

☆新入生向けの図書案内 
新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。これからの新生活に心踊らせていることと思います。本学に入学してくれた皆さんには、本学での学びを通して自らの頭で思考するとはどういうことかということに関し、自分なりの手ごたえを持ってほしいと思います。
現代は情報が氾濫し、また他人の意見が垂れ流されています。これらを無批判に受け入れるのではなく、自分の頭でよく考え、本当に分かっていることはなにか、またそもそも自分が考えている枠組みは正しいのだろうかなど、深く思考し反省するマインドを養っていただきたいと願います。そのような観点から、みなさんの選書の一助とすべく、一冊の本を推薦いたします。

「科学にすがるな!」――宇宙と死をめぐる特別授業  佐藤文隆、艸場 よしみ著
 この本は大変面白い設定の本です。科学に関してそれほど深く勉強したことのないある女性(著者、艸場 よしみさん)が、死とは何だろうかという問いを突き詰めて考えていきます。その中で科学の先端では「死ぬこと・生きること」をどのように考えるのだろうかという疑問を持ち、まさに「科学にすがる」ように理論物理学の大御所である佐藤文隆氏に教えを乞うというところから始まります。佐藤先生は先ごろ退官されましたが、本学でも教鞭をとられた先生で、独特の世界観と科学に対する深い知識・洞察で知られる方です。本の中のやり取りの中で、艸場さんはしばしば佐藤先生に叱られます。ほとんどの人が陥りやすい「科学万能」の世界観は厳しく戒められ、逆にその限界を説くことによって科学的思考の価値が際立ちます。またこの本はその硬い内容にもかかわらず、お二人の
やり取りを中心に構成されているため、とても分かりやすく面白く読めてしまいます。
理工系のみならず文系の学生の諸君にもぜひご一読をお勧めいたします。

 一冊の本を推薦させていただきましたが、本来読書とは自由なもので、楽しみでもあります。図書館で様々な本を手に取って読んでみてください。ネットサーフィンにはない濃密で知的な世界が広がっていることを感じるはずです。
ぜひ読書を習慣として有意義な学生生活を送ってください。

甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.33 2016) より