D・シッシュ先生(国際言語文化センター)「フランス文学を発見しましょう」

☆新入生向けの図書案内
 新入生の皆さん、入学おめでとうございます。これからの貴重な時間を、自分の教養を高めながら、視野を広げるために使いましょう。そのために、図書館は理想的な場所であろうと思います。
 皆さんは、英語の勉強を続けると同時に、第2外国語の勉強も始める予定です。外国語学習は、単なるコミュニケーションの手段を得るためのものではありません。外国語学習のおかげで、いろいろな国の文化と考え方を発見することができます。学習の中身をより豊かにするために、その国の文学も読んでみませんか。もちろん、原文を読むことはまだ不可能ですが、翻訳を読むことはできます。私はフランス語とフランス文化を教えていますので、ここでその代表的な作品を幾つか紹介しましょう。
 19 世紀のフランス文学は、所謂『小説』が発展し、非常に豊かです。おまけに、その邦訳
の質はとても高いです。最も有名な作品と言えば、ヴィクトル・ユゴーのLes Misérables でしょう。この小説は1862 年に刊行され、世界的な評価を得ました。そのタイトルは「 悲惨な人々」という意味です。なぜなら、全ての登場人物が、社会的・政治的、ひいては精神的に過酷な状況で生きているからです。数年前、日本でも、「レ・ミゼラブル」というミュージカルを元にした映画が大人気を集めましたが、これはハリウッドの制作したものでした。原作は、フランス語で書かれています。フィクションであっても、当時のフランスの政治的・社会的・文化的文脈とメンタリティーを知ることができます。
 その次に、フロベールとバルザックの作品もおすすめします。フロベールのMadame
Bovary 「ボヴァリー夫人」は、同時代の地方の暮らしに退屈し身を滅ぼして行く女性を描き、本国でも、2回以上映画化された作品です。それから、バルザックのLe père Goriot 「ゴリオ爺さん」は、革命後のフランス社会とメンタリタイーの変貌を鋭く描いた作品です。現代人が読んでも、人間の幸福について、多くのことを考えさせられます。
 20 世紀の文学では、アルベール・カミュのL’étranger「異邦人」をおすすめします。カミュは、実存主義のサルトルと同様に偉大な哲学者です。第二次世界大戦後に、『不条理』という概念を打ち出し、1957 年にノーベル文学賞を受賞しています。現代の人間の自由と責任についてたくさん考察を残しています。制度的には、または物質的には自由を享受する現代の日本に生まれ育った学生の皆さんも、カミュを読むことで、自分の『あり方』を見直し、『自由』つまり『自らに由(よ)る』ということがどういうことであるか、考えるきっかけを得られるでしょう。
甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.33 2016) より