知能情報学部 4年生 小林雅幸さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)
書名:幕が上がる
著者:平田オリザ
出版社:講談社
出版年:2012年
この小説は、高校の演劇部を舞台に、初めは弱小とも言われていた部員が演劇経験のある新しい顧問の先生を迎えて指導を受けることで成長し、コンクールの全国大会を目指すという青春小説ともいえる作品です。
著者が実際に劇作家・演出家・劇団の主宰であることから、演劇の流れや高校演劇にまつわる知識などが丁寧に描かれているので、具体的なイメージを持たせながら読み進めることが出来ます。
主人公である演劇部部長の高橋さおりの目線で進んでいくこの物語は、いくつものターニングポイントが存在します。新任教師でかつて演劇俳優として活躍していた吉岡先生への副顧問就任のオファー、演劇強豪校の演劇部員で、その学校からの転校生の中西さんの演劇部入部、地区大会突破に向けての合宿、吉岡先生の突然の退職などです。そのどれもが、後から振り返ると物語にとって重要な出来事となっています。そして、これらの出来事は人生そのものを表しているように感じました。人は人生の中でいくつもの出会いを重ね、そして成長していきます。成長を重ねることで目標ができ、それに向かって悩みながら、失敗しながらも前進していくことで得るものがあり、自信に繋がります。しかし、人生は良いことばかりではなく、突然の別れだってあります。あまりにも突然の別れに悲しみ、立ち直れなくなりそうな時もあります。しかし、そこで立ち止まってしまえばそれまで頑張って積み重ねてきたものが崩れてしまいます。そこでさらに前進することでさらなる成長が待っています。人生はそうして様々な経験を重ねることで充実していくのだなと感じました。
「私たちは、舞台の上でなら、どこまででも行ける。」というセリフが心に残りました。どこまででも行けるから私たちは「不安」という気持ちを抱き、だからこそ前を向いて必死になろうとするのでしょう。
青春小説でありながら、人生において忘れてはいけないものを再確認させてくれる、そんな作品です。