石田 功先生(経済学部)「人生を生きるに値するものにしてくれる読書」

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 「人生はなぜ生きるに値するかって?・・・ぼくにとってはグラウチョ・マークス(コメディアン)、ウィリー・メイズ(メジャー・リーガー)、ジュピター交響曲第2楽章、ルイ・アームストロング、スウェーデン映画、フロベールの『感情教育』、セザンヌ、サム・ウー(中華料理店)の蟹、・・・」昔、私が大学生の時に見たウディ・アレン監督・脚本・主演の米国映画『マンハッタン』での主役の独白ですが(抄訳。括弧内は私の注釈)、当時、この台詞に「人生ってその程度のものなのか」と考えさせられました。本として1冊だけ仏文学の古典『感情教育』が入っていたのにも「これを読めることが生きる値打ち?」と驚きました。フランス語教師に勧められ読んだばかりでしたが、メロドラマ展開の面白さに夢中になったものの、文学としての価値まで理解していなかったからです。それはともかく、ウディ・アレンの台詞の影響を受けたことがきっかけで、読書というのは教養を身につけるとか高邁な目的もさることながら、野球観戦、蟹グルメと同じレベルで味わうこともまた素晴らしいことなのだと考えるようになりました。その意味では、例えば、映画やライブ演奏も小説と同等だと思います。皆さんも様々なアート分野で既にお気に入り作品を持っておられるでしょう。ただ、皆さんのリストの中にもし小説が含まれていないとすれば、それはあまりにもったいないです。他のメディアの文芸作品とはまた異なる喜びを与えてくれますからね。是非、小説にも手をのばして欲しいと思います。
 最後に、大学生になられたばかりの皆さんに一冊だけお薦めするとすれば、小説ではありませんが、ユヴァル・ノア・ハラリの『サピエンス全史』というノンフィクションです。邦題通り、我々ホモ・サピエンスの歴史を俯瞰する大作で、非常に読みやく、かつ、驚きや刺激に満ちた圧倒的知的エンターテインメントです。大学時代にこのような本をたくさん読み、物事の本質を捉える力をつけていただきたいと願います。

甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.34 2017) より