笹倉香奈先生(法学部)「犯罪を見る目」

☆新入生向けの図書案内
 犯罪報道に接するとき、どのような視点から事件を見るだろうか。自分が被害者だったらと想像するかもしれない。裁判員として事件の裁判にかかわることになったらと考える人もいるかもしれない。それでは、自分がもし加害者だったら、あるいは加害者の家族の立場に置かれたらどうなるか、考えてみたことはあるだろうか。
 鈴木伸元『加害者家族』(幻冬舎新書、2010年)は、犯罪の加害者の家族にスポットライトを当てて書かれている。
 ある日突然、自分の夫が殺人事件の加害者であることを知った女性。事件についての詳しい事情も分からず、自宅に殺到する報道機関を避けるため小学生の息子を知人宅に送り、自分は勤め先の仮眠室で寝泊まりする。自宅は荒らされ、壁には「人殺しの家」と落書きされる。いたずら電話が昼夜を問わず何度もかかる。インターネット上に個人情報を晒され「息子も抹殺しろ」という書き込みにおびえる。夫と離婚して姓を変え、息子の学校は2度転校させる。息子を預かっていた知人夫婦は、そのことが原因で夫婦間に亀裂が入り、離婚にいたる――このほかにも著名な殺人事件から窃盗事件まで、精神的にも金銭的にも追い込まれていく加害者家族のエピソードが続く。
 今まで注目されることのなかった加害者家族に着目することによって、日本の社会自体に潜む問題が暴き出される。加害者家族を追い詰める日本社会は、実はその一方で被害者やその家族にも十分なサポートをしていない。被害者家族も加害者家族も、地域や社会から好奇や偏見で見られ、排除されていく。構造には共通点がある。
 このような悲劇を生まないようにするためにはどうすればよいのか。加害者家族を責めれば、いや、加害者を責めるだけで将来的にも犯罪が繰り返されることを防ぐことはできるのだろうか。そもそも犯罪とはそもそもどのようなものなのか。なぜ起こってしまうのだろうか。その答えを4年の間に一緒に考えていこう。

甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.34 2017) より