三好大輔先生(フロンティアサイエンス学部)「先ずは自国のことから」

☆新入生向けの図書案内
 新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。晴れて入学を果たされた皆さんは、様々な期待や夢に胸を膨らませていることと思います。「将来は世界で活躍したい!」そう考えている方も多いことでしょう。私はここ数年、甲南大学の国際交流センター運営委員も務めています。エリアスタディーズというプログラムの一環として、1年生から大学院生までを連れてシンガポールを訪問し、現地の学生さん、教員・研究者などとの交流を図っています。参加者の当初の希望の多くは、「英語が話せるようになりたい」というものです。しかし、帰国後は、「もっと英語力が必要」ということ以外にも、「日本のことをもっとしっかりと紹介したい」という感想をもつ参加者が多くいます。
 私たちは、日本で生活し、日本の文化や風習、そして考え方に慣れ親しんでいます。日本では常識と思うことでも、海外の方からすると新鮮で不思議なことがたくさんあるようです。私も米国の大学で博士研究員をしていたころには、研究室の友達から、日本の歴史や文化について、よく質問された思い出があります。歴史の授業が大の苦手だった私には、日本の歴史について聞かれても、「???」となるばかりで、まともな受け答えができるはずもありません。「これはまずい!」となった私が遅ればせながら読んだ本が、司馬遼太郎著の「この国のかたち」です。
 本書は、昭和61年から著者が亡くなった平成8年までの間に連載された随筆をまとめたものです。島国日本の風土、文化、宗教、そして日本がなぜ戦争を引き起こすことになったのか、など様々なテーマについて思索し、「日本人とは何か」という著者が終生問い続けてきた問題に迫ろうとしているように思います。
 自国の歴史と、それに基づいた自分のアイデンティティについて考えて自分なりに理解することなしには、他国の人々の歴史や考え方との差異や共通点を見出すこともできません。相手を理解するには、先ずは自分を理解する必要があります。ということで、グローバル化には、「先ずは自国のことから」考えてみるほうがよいと思います。司馬遼太郎の本を片手に、国際交流センターで海外からの留学生と語り合うというのも楽しいのではないでしょうか。

甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.34 2017) より