☆新入生向けの図書案内
本学の図書館で見つけて読んだ本で、非常に読みやすく、ためになった本のひとつに、日高敏雄編『生物多様性はなぜ大切か』(昭和堂, 2005年)がある。2001年に創設された京都の国立・総合地球環境学研究所が開催した2004年のフォーラム「もし生き物が減っていくと――生物多様性をどう考える」がもとになっている書物である。
環境問題を抱える現在の地球において、「生物多様性」がもたらしうる利点は多くあるが、経済効果が大きいと予測されるもののひとつに医薬品などがある、という話に始まり、「雑食」の人間には、生物多様性が必要不可欠であり、生物多様性が減ることは、人類の生死にさえかかわる問題であることがわかりやすく解説されている。また、人間がつくりだしている「文化の多様性」に関しても多くのことを教えてくれる。エジプトのナイル川沿いのアスワン付近のワディ・クッパーニャ遺跡の例を挙げ、ある生活様式や技術が、たとえ、その時代の主流ではなくとも、目立たなくとも、次の時代に人間が生き残るきっかけとなり、その後、人間が生きていくために不可欠な様式や技術となった事例が、歴史上、少なからず存在したというのである。言い換えれば、多様な文化が共存していたことにより、人類は、環境の劇的変化があっても存続できたのであり、人類の長期的な生存に必要な条件は、<他と異なる文化を生み出すこと>、<多様性を維持すること>であるという内容で示唆に富んでいる。 さて、現在の私たちの生活様式はどうだろうか? グローバル化が推し進められるなか、世界中で同じ商品が流行し、同じようなファースト・フードで食事を済ませる傾向が強まっている。外国語教育に関しても、特に日本では、英語が重視される傾向が強まっている。また、日本人には「皆と同じである」ことを好む人がかなり多いといわれるが、それが「空気をよむ」といった表現を通じて、いわば「強制」される感もある。だが、ここで立ち止まって考える必要があるだろう。
新入生の皆さんには、世の中の趨勢に惑わされることなく、自分が人生においてやりたいことは何か、どのような仕事に従事したいのか、また、他の人と異なる「自分の個性」を発揮できることは何か、と考える習慣を身につけてほしい。気の進まないアルバイトや仕事を断る勇気を持つことも大切だ。そうでないと、周りに流され、自分を見失ってしまうかもしれない。昨今問題になっている「過労死」の問題もこうしたことと無関係ではない。なんらかの選択に迷ったら、あえて「人と違うことを選ぶ」くらいの意気込みを持って物事に挑み、他の人と異なる視点を持つことを通じて、「多様性」の価値について考えてみてほしい。また、さまざまな分野の本を読むことにより、「多様性」の重要性を認識できるはずである。受験勉強から解放された今こそ、読書の習慣を身につけることをお勧めしたい。
甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.34 2017) より