須佐 元先生(理工学部)「とにかく沢山読もう」

☆新入生向けの図書案内
 新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。これからの新生活に心踊らせていることと思います。皆さんはこれまでも沢山の本を読んで来られたと思いますが、これからの四年間は、たっぷりと読書の時間が取れる人生の中でとても貴重な時間です。読書にはルールはありません。読書はまずは楽しみであり、同時に知識を得るための一つの方法です。読みたい本をできるだけ沢山読んでください。そこで得た知識は糧となり、また身についた読書習慣は今後の長い人生に、人工的ではない美しい色合いと深みを与えてくれるはずです。みなさんの選書の助けとなるかどうかわかり
ませんが、私が最近気に入った本を紹介しておきます。
『淳子のてっぺん』 唯川恵著
 これは世界で初めてエベレスト登頂に成功した田部井淳子さんのノンフィクションストーリーです。彼女の世代ではまだまだ女性登山家は少なく、登山家の世界は典型的な男社会でした。その中で決して諦めずに自分の信じた道を歩き、パイオニアと言って良い存在になっていった先達のストーリーです。現在でも日本は先進国の中では女性の
社会参加はかなり遅れていると言われています。皆さんにはぜひ一度手にとって欲しい一冊です。
『銀河鉄道の父』 門井慶喜著
 これはあまりにも有名な童話「銀河鉄道の夜」の作者である、宮沢賢治の父の視点からみた賢治の一生の物語です。ずば抜けた感性を持った賢治が普通の俊英からどの様に文学者へと脱皮していったのか、またその過程に父のどのような苦しみ、右往左往があったのかが描かれています。皆さんの視点から言えば、皆さんの保護者の方々がどのような気持ちで皆さんを見守っているのかということがわかるのではないでしょうか。
『宇沢弘文のメッセージ』 大塚信一著
 これは宇沢弘文と言う伝説的経済学者の業績に関して伝記的にまとめられたものです。数学者として出発した宇沢は経済学に転じ、そこで大きな業績をあげていきます。宇沢の思想には常に社会的弱者の視点があり、それが「社会的共通資本」という考えに結実していきます。門外漢でも読めるように書かれており、社会問題への意識を喚起し、偉大な先達の人生のあり方を学ぶという点でお薦めします。
 以上3冊推薦しましたが、とにかくそれぞれがそれぞれの興味の赴くままに本を読んで下さい。

甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.35 2018) より