櫻井智章先生(法学部)「事実は小説よりも奇なり」

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 現代社会は法に基づいて運用されているから、法的知識は、将来どのような分野に進もうとも、必要な(少なくとも無いよりはあった方が断然有利な)知識である。そう考える人は学生・社会人を問わず比較的多いと思われるが、いざ法学の学習を始めると挫折する人が多いのも事実である。入門書でも、勉強しやすいよう工夫されているものも多くなってきているとはいえ、「法の概念」「法の分類」など直ちに役立ちそうにない抽象的な説明が並んでいる(これらは体系的学習という観点からは重要な知識であり、執筆者が書きたくなる気はよくわかる)。こうした最初のつまずきが「法学は難しい」というイメージを生んでいるのではないかと考えられる。
 しかし、法は現実の社会で起こる紛争を未然に防止し、起こってしまった紛争を合理的に解決するために存在しているものである(だからこそ、現代社会において法的知識が重要なのである)。法学の入門書を読んで面白くなかった人は、実際の裁判例を読んでみてはどうだろうか。『判例時報』や『判例タイムズ』には多くの裁判例が掲載されている(ともに図書館に所蔵されている)。「事実は小説よりも奇なり」という言葉があるように、現実に起こる紛争は多種多様で、なぜそのような事件が起こったのか全く不可解な事件、思わず当事者に同情したくなるような事件など、小説より面白い事件もたくさんある。裁判官や検察官はキチンとした人たちだと思っているかもしれないが、彼らがグズグズだったために起きたトホホな事件もある(判例時報1884 号45 頁)。できれば第一審のものがよいだろう(控訴審判決は第一審判決を引用する形で書かれるので読みにくく、最高裁判決は法解釈の争いが中心であるため難しい)。目次を見て興味のありそうな事件を読んでみるとよい。最初は難しいかもしれないが、読んでいくうちに、裁判所がなぜその事実を重視したのか、この解決はおかしいのではないか、などと疑問を持つようになれば、法学についてかなりの実力の持ち主になっているはずである。

甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.35 2018) より