吉田桂子先生(国際言語文化センター)「本が読めるのも…」

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 留学準備・英語集中コースの中級英語Writingという授業では、TOEFLR やTOEICR テストを実施している米国のETSR という会社が作成した、CriterionR オンライン・ライティング添削システムを活用しています。教員がリストから選択したテーマについて、学生のみなさんが自分の意見を英語で書いてSubmit(提出)ボタンをクリックすると、瞬時に点数とコメントが表示され、どこをどのように直せば良いかがわかるようになっている自主学習用ツールです。秋学期に4つのテーマについて、このCriterionR オンライン課題を実施しました。その1つ目のテーマがExperience or Books でした。「経験から得た知識と書物から得た知識を比較し、どちらが自分にとっては重要だと思うか理由とともに論じなさい」という課題です。書物にあることは必ずしも自分には当てはまらない、経験した方がインパクトがある、スポーツのフォームなど感覚的な知識を書物から学ぶのには限界がある、といった理由で、経験からの学びを重要だとする意見。現代の社会では、一般的に人は多くの経験をする前に、学校で書物からさまざまなことを学ぶのであり、そのことには意味があるという理由で、書物からの知識が重要だとする意見。それぞれ、説得力のある例をあげて、意見を論じていきます。
 このテーマExperience or Books に含まれる2つの選択肢を見た時に、その前提として、人はこの2つから学べるのだということを改めて考えました。その時に、私が大学生の頃に読んだ本、鹿取廣人・重野純訳 『言葉をもった哺乳類』(思索社 1985 年)(原書はJ. Aitchison, The ArticulateMammal, Hutchinson, 1983)を思い出しました。Aitchison は、大部分の動物は一定数のメッセージを運ぶ決まった数の信号をもっていることを紹介しています。例えば、セミやサルはいくつかの音声を使い分けてメッセージを送り、ハチやイルカはより複雑なコミュニケーション・システムを持ち、ワシューという名のチンパンジーは身振りを自発的、創造的に組み合わせることができます。書き言葉についてはどうでしょうか。チンパンジーのサラは、ふじ色の三角形「りんご」、赤い四角形「バナナ」などの記号を用いて作られた指示文を正確に理解することができました。しかしいずれにしても、彼らが学んだシステムは人間の言語よりも複雑ではなかったと報告しています。このようにわたしたちは、Aitchison の記したこの本を通して、多くの研究者の実験や経験から得られた発見について学び、Experience とBooks の両方から学ぶことができるヒトという種の特性とありがたさについて、再認識することができるのです。

甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.35 2018) より