三好大輔先生(フロンティアサイエンス学部)「「どう生きるべきか」 vs.「どう生きたいか」」

☆新入生向けの図書案内
 ご入学おめでとうございます。新しい生活や環境に期待と不安がない交ぜになられているかもしれません。18 歳の今まで違う場所や学校で過ごしてきた同級生が集まって、新生活が始まります。楽しみとともに大変なことがあるのは当然かもしれませんね。でもフレッシュで有意義な学生生活を過ごせるように、教職員一同で全力でサポートしていることも忘れないでください。皆さんが新生活を始めるときにお勧めしたい本が、『君たちはどう生きるか』吉野源三郎著(岩波文庫)です。実はこの本は、中学生の娘が読もうと持っていたのですが、私も読んだことがあって、懐かしく思ったものです。宮崎駿監督が映画化しようとされていて話題になっていますから、ご存知の方もいるかもしれません。『君たちはどう生きるか』が発行されたのは、1937 年です。戦争の影が色濃くなってきている頃です。著者は言論統制などが行われつつあった当時、子供には良い本を読んでほしいと思い、また反戦の気持ちも込めてこの本を記したそうです。ちょうど発刊されてから80 年です。日本が再び周辺の国々との軋轢を感じ始めている今日この頃に、本書を原作とするコミックやアニメが作製されるのは偶然では無いのかもしれません。
 本書の主人公は、コペル君というお父さんをなくした中学生です。コペル君が日々感じたことについて、お父さん代わりの叔父さんが将来のコペル君にメッセージを記していきます。日々の様々な気づきについて叔父さんがその意味や意義を丁寧に解説していきます。コペル君の純粋な思いと、叔父さんのコペル君を思う気持ちが、私たちの心を熱く、暖かくしてくれます。人が生きていくうえで大切なことが、時を経ても普遍なのかもしれません。新しい環境で新しい友人と始める何気ない日常にこそ、これからの人生に大切なことが潜んでいることを再認識させてくれるのが本書だと思います。私も30 年ぶりほどに読んで、気持ちを新たにしています。中学生に向けて80 年前に書かれた本が、50 を前にしたオッチャンに「どう生きるか」を考えさせてくれます。他人から「どう生きるべきか」と諭されるのではなく、これからの「人生をどう生きたいか」を、新しい仲間との体験から考えてみてはどうでしょう。新生活を始めるこのタイミングでぜひ皆さんにもぜひ読んでほしいと思います。

甲南大学図書館報「藤棚」(Vol.35 2018) より