有吉 佐和子著 『助左衛門四代記』

 文学部 3年生 匿名希望さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名: 助左衛門四代記
著者: 有吉佐和子
出版社:新潮社
出版年:1965年

言うまでもなく、小説とは創作のことだ。しかし、そこから感じられる雰囲気は本物でなくてはならない。そんな中、有吉佐和子の作品からは、本物の雰囲気を感じることができる。

有吉佐和子の作品は、『悪女について』、『恍惚の人』、『私は忘れない』、『華岡青洲の妻』、『複合汚染』など多様なテーマを取り扱っているが、そのどれもが本物の雰囲気を出している。そしてそれは、この『助左衛門四代記』においても同様であるといえる。

本作は、紀州海士郡木ノ本の大地主・垣内家の四代にわたる壮大な歴史を描いた物語である。垣内家の人々と、それを取り巻く村民たちを見事に描き出している。

物語は、冒頭にて初代助左衛門の母・妙が巡礼の老を怒らせてしまい、「7代まで祟ってやる」といわれるところから始まる。この言葉は、物語の登場人物たちだけでなく、読み手にも重い現実としてのしかかり、あっという間に物語に引き込まれていく。

また、本作に引き込まれる理由としてもう一つ、有吉の描く女性描写の素晴らしさがあげられる。本書は、四代の助左衛門たちに焦点を当ててはいるが、真の主人公はその妻たちであるといえる。

初代・助左衛門の妻・妙は朗らかな性格で誰からも好かれ、村民からも広く慕われている。長男と次男の嫁取り問題に妙案を出すなどし、垣内家に繁栄をもたらす。

二代目・助左衛門の妻は由緒ある神社、日前宮紀伊家の三女、円。彼女は高い教養を持つが、自分では一切家事をやらない。だが、不慮の事故で長男を亡くして以来、垣内家のために心血注ぎ働くようになる。

三代目・助左衛門の妻・梅野は円とは対照的に「男おんな」と呼ばれるほどの醜女で、さらに垣内家の仇敵、木本家の娘だった。しかし、円の輿入れが成功し、2つの家の確執が氷解。垣内家の繁栄は確固たるものとなる。

四代目・助左衛門の妻・小佐与は男子を生まなければというプレッシャーから命を落としてしまう。そこで、後添えとして八重という女性が妻となる。だが、彼女は女の意地・プライド・エゴを面々にみなぎらせた女で、有吉作品らしい意地の悪い姑を演じ切る。

四代250年もの歴史を無駄な文なく淡々と描き上げ、それでなお読者を引き付けてやまないというのには、有吉佐和子の文章力がずば抜けていると言わざるを得ないだろう。