朝霧カフカ原作, 春河35漫画『文豪ストレイドッグス』

法学部1年 吉川史華さん(「基礎演習(濱谷)」リサーチペーパーより)

 まず、文豪ストレイドッグスという作品について紹介する。
 文豪ストレイドッグスとは、現代横浜を舞台に、中島敦、太宰治、芥川龍之介など様々な文豪たちがキャラクター化され、それぞれの文豪にちなんだ作品の名前を冠した「異能力」という超常能力を駆使して活躍するアクションバトル漫画である。原作の漫画本編は、孤児院を追い出された中島敦が、入水自殺を図って川に流されていた自殺愛好家の太宰治を助ける場面から始まる。そのあとに起こるある事件をきっかけに中島敦は「武装探偵社」という異能力集団に入社し、横浜の港を縄張りとする兇悪な闇組織「ポートマフィア」や、北米を拠点とする異能力者集団「組合(ギルド)」、「魔人」ドストエフスキーと対峙するなど、次々と難事件に直面しては解決していく。作品内での重要な要素である「異能力」とは、例えば中島敦の「月下獣」は巨大で凶暴な白虎に変身する能力で、実在する文豪中島敦の「山月記」をモデルとしている。他にも、全ての異能を無効化する太宰治の「人間失格」、自身の外套を不定形かつ何でも喰らう「黒獣」に変化させ操る芥川龍之介の「羅生門」など、登場人物によって多種多様な異能力が存在する。漫画、小説、アニメ、実写化など多岐に渡り展開されるこの作品は「文スト」と呼ばれ、主に若い女性を中心に親しまれている。
 文ストは原作を朝霧カフカさんが、作画を春河35さんがそれぞれ担当している。朝霧さんは文ストの小説版の大半も自らが執筆を担当しており、他にも「汐ノ宮綾音は間違えない。」や「水瀬陽夢と本当は怖いクトゥルフ神話」の漫画原作なども手掛けている。この作品が生まれたきっかけについて、朝霧さんは「文豪がイケメン化して能力バトルしたら絵になるんじゃないかと編集と盛り上がったから」と述べている。また、舞台が横浜になったのは春河さんが横浜出身であるからである。文ストは、このように存外軽い気持ちで生み出された作品なのだ。
 現在、日本では活字離れの深刻化が騒がれている。確かに、10代、20代の若者で、好んで活字を読む人は決して多くはないと思う。特に大正・昭和期の文豪の作品となると、現代文の教科書や夏の読書感想文で、多くても両手で足りるほどの冊数を読んだことがある程度の人が大半だろう。そうした中で、「文豪ストレイドッグス」という作品に出合ってから、それらの本を手に取ってみたり、あるいは電子書籍などで読んでみたという人は実際かなり多い。角川文庫と文ストのコラボカバーの書籍も多く発売されているので、そちらを購入した人も多いだろう。私も、文ストを知ってから文豪の作品に興味が湧き、電子辞書に入っているものを読み漁ったり、コラボカバーの「人間失格」を購入したりして読むようになった。他にも、若者の文学離れを背景に来館者が伸び悩む全国各地の文学館が、文ストを扱ったイベントを開催して来館者を増やしているという記事もある。同記事には、「出版社や文学館は『若者が文学に関心を持つ入り口になれば』と期待してる」とも書かれている。
 ある意味軽い気持ちで生み出されたひとつの作品が、漫画やアニメという枠を大きく超えてこれほどまでに多大な影響を与えることはそうそうないのではないかと私は思う。