大津真作訳『市民法理論』

<書籍紹介>
この本は市民法の理論となっていますし、原題は民法理論ですから、法学部の学生が
読む本だと勘違いされます。でもこの本が論じているのは、副題が「社会の根本原理」
となっていることから分るように、一体どのような事情があって人類が社会を形成して
きたのかというその謎なのです。
フランス18世紀末の社会思想家ランゲは、社会形成の謎をあっと驚く視点で解明しました。
彼によると、社会と奴隷制とは同時に生まれたというのです。ですから最初から社会には、
主人と奴隷がいたわけです。この視点は二つの意味で重要です。一つは社会形成の時に
どんなことが起こったか?です。恐ろしい「原初の暴力」によって社会は誕生したのです。
武器を持った狩猟民族が平和な孤立した農耕=牧畜民族を襲って、彼らの財産を奪い、
彼らを奴隷身分に無理やり落としたのです。この所有関係を明確にするために法律とくに
民法が作られました。
もう一つは、奴隷制は今も続いているというのです。どういう形で続いているのでしょうか。
それは日雇い労働者、つまり今で言う「自由な」派遣労働者を最底辺として、それに賃金
労働者の身分を加えた形での奴隷制が続いているというのです。でも、皆さんは誰一人
として奴隷じゃないですよね?
自由ですよね?ランゲによると、いや皆さんは最も恐ろしいものの奴隷になっていると
言うのです。それは餓死という悪魔の奴隷です。北九州市で生活保護を打ち切られた男性
が餓死していたでしょう?彼は誰にも雇われなかったから餓死したのです。また、ランゲは
「文明社会では国民の四分の三の貧困の上に国民の四分の一の富裕が築かれる」と
言います。図星でしょう?では、なんでこんな恐ろしい社会を人間は作ってしまったので
しょうか?そこから先は、この本を読んで皆さんが考えてください。
この本には、未来社会へのヒントも書かれています。ランゲは、略奪型の経済と餓死の
自由しかない社会とはシャム双生児だから、略奪型の経済をやめた時、本当に幸せな社会
を築けるのではないか、と示唆してくれています。ですからこの本はどの学部の学生も
一読すべき本だと思います。

■『市民法理論』京都大学学術出版会、2013年1月刊
■ 大津 真作(文学部社会学科 教授) 訳
■ 先生からのお薦め本
『新自由主義』デヴィッド・ハーヴェイ、作品社 ランゲの思想を延長すれば、現代の
グローバル資本主義の本質が解明されます。この本は現代社会の自由には二種類しか
ないことを教えてくれます。餓死の自由と略奪の自由です。恐ろしいでしょう?