伊坂 幸太郎 著 『ゴールデンスランバー』

 

経営学部 4年生  大堀 舞佳さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 :  ゴールデンスランバー
著者 :  伊坂 幸太郎
出版社:新潮社
出版年:2010年

 私は、伊坂幸太郎の単行本はほぼすべて読んでいる。伊坂作品を好きになり、読み進めていた時にこの作品と出会った。もちろん一気読み。ご馳走をお腹いっぱい食べたような気分で読後の余韻を味わったことを覚えている。 

 物語の構成は、大きく分けて「事件の始まり」「事件から二十年後」「事件」となっている。この事件というのが、金田首相暗殺事件である。首相の凱旋パレードが仙台で行われる(仙台を舞台にした伊坂作品が多いが、これは彼が仙台に住んでいるからであろう)。その最中にラジコン爆弾が爆発し、金田首相は暗殺される。この犯人として指名手配されるのが、主人公の青柳雅春である。彼はごく普通の宅配ドライバーだが、事件の2年前にあるアイドルを不審者から守ったというヒーロー的行動で時の人となった。その彼が国家から追われる身となるのである。

 なんと、この作品のほぼほぼが、青柳の逃走劇で構成されているのである。私は友人に「この本ってどんな話?」と聞かれるとたいてい「ざっくりいうと鬼ごっこ」と答えている。それほどまでに青柳と、彼を取り巻く登場人物の個性や伏線が面白い。青柳は2日間逃走し、みごと逃げおおせる。とはいえ、「事件から二十年後」の話では、青柳が真犯人だと考えている人は一人もいない。それもそのはず、彼は金田首相暗殺の犯人ではないからである。この作品の奇妙でどことなく皮肉に感じる点は、なぜ彼に矢面が立ったのかわからないままなことである。現実ではそういうことの方が多い。なぜ自分が被るのか納得できないことにも向き合わなくてはならない。小説などのフィクションにはそのような謎をきれいに解決し、納得するという楽しみ方ももちろんあるが、伊坂幸太郎さん曰く”物語の風呂敷は広げるけど、いかに畳まないまま楽しんでもらえるのか”に挑戦した作品であるとのこと。

 その逃走劇のスリル&伏線盛りだくさんの展開だが、助け舟として登場するのは青柳の元彼女、花火師、大学時代のサークルの後輩、青柳が助けた元アイドルなど、個性的なキャラクター達。シュールでテンポの良い会話に引き込まれた。私が一番「やられた」と思ったのは、青柳雅春の父母に送られた書初めである。この作品、主役堺雅人で映画化もされている。しかし映画の方ではこのシーンがない。映画を見た人も、本の味わいはしっかり楽しめるはずである。逆に映画では、タイトルでもあるビートルズの名曲、ゴールデンスランバーのBGMが流れるシーンがとても良い。

 ぴりっとした緊張感と、要所要所のにやりと笑えるユーモアが満載だ。ぜひ一気読みしてほしい。