石井光太著 『43回の殺意:川崎中1男子生徒殺害事件の深層』

知能情報学部 4年生 Tさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : 43回の殺意:川崎中1男子生徒殺害事件の深層
著者 : 石井光太著
出版社:双葉社
出版年:2017年

 2015 年冬、多摩川の河川敷で中学一年生の上村遼太君が少年A.B.C によって殺害、死体遺棄された事件。カッターナイフによる切り傷は43 か所。ほとんどは首に集中していた。死因は出血性ショック。また、二度川を泳ぐことを強要された。

 私は被害者だけでなく、加害者の少年三人も被害者であると思う。その理由は彼らの育った環境にある。

 被害者の過去について述べる。彼は2013年7月に川崎市へと転校した。両親の離婚がきっかけだ。2014 年夏から部活に参加せず、11 月から不良グループと関わり始めた。不良と関わり始めた理由は、家に居場所がなかったことだろう。母親は子供が帰ってこずとも捜索願すら出さない等放任主義も感じられる。彼は不良達と関わることで帰属意識、居場所を見つけたのだろう。

 また、加害者の三人の共通点は「学校内で影が薄く、避けられ、いじめられた経験がある」ことである。彼らは家が貧しく服が汚い、臭いなどの理由から学校で居場所がなかった。家庭内でもDVや育児放棄を受けていた。

 そして、私が感じた司法の不完全さを述べる。事件当時、少年二人は保護観察期間であった。保護司は彼らの観察ができなかったのか。保護司は民間のボランティアであり、また保護司の人数不足が深刻であると知った。

 著書で述べられていた通り、事件が起こった際には彼らを取り巻く環境を注視し改善策を投じるべきだと感じた。

 「川崎中一生徒殺害事件」「事件は犯人ではなく犯人を取り巻く社会を責めるべきだ」と聞くが、まさにその通りだと感じた。事件当時「同世代の男の子が殺されるなんて」と驚いた。一方で「不良とつるむなら素行も悪いだろう。殺されたのは残念だけど仕方がない。」と思った。

 しかし、読了した今では不良を軽視する考え方は浅はかだったと考える。彼らは皆居場所のない孤独な少年であり、社会から見放された被害者に見えたからだ。また、司法の不完全さを痛感した。