文学部 1年生 Nさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)
書名 : 和菓子のアン
著者 : 坂木司著
出版社:光文社
出版年:2012年
こんなにも自分と同じような心境の主人公を見たのは初めてだった。
高校を卒業後、特にやりたいこともなく、かといって大学に行くほど勉強の熱意もなかった主人公の梅本杏子は、ふと立ち寄った和菓子屋でバイトをはじめる。そこで様々なお客様に出会い、自身の知らなかった新たな世界を知っていく。そして、日々変わらないように見える日常の中にあるミステリ。その推理が事実かどうかはわからない。ただの想像かもしれない。しかし、そう代り映えのしないように感じる日常が一気に映画のようになったかのような一日になる。日常のほんの少しの変化に目を止めることが出来るようになる作品だ。
主人公の務める和菓子屋には美人だけれども、休憩の合間に株をチェックするほどの投資、ギャンブル大好きな店長をはじめ、好青年だけれど乙女な感性をもつ職人の橘さん、美人で頼りになるけれど元ヤンの香りを隠せない同じバイトの桜井さんなど、個性豊かなメンツであふれている。こんな同僚に囲まれて私も仕事がしたい、と思ってもらえる、同世代の大学生がみても面白い作品でもある。
私自身、この小説を初めて読んだ時は中学生だった。その時はただの日常ミステリとして読んでいた。高校生の時にも読み返したが、その時は受験という道ではなく、このような生き方もあるのかと自身の選択肢が広げられた。そして、大学生になって読んでみると、自分とは違う道を選んだからこその主人公の不安や、逆に、私が得られなかった感覚、関係を得ている主人公をみて羨ましく思ったり。社会人になってから読み返すとまた違った見方が出来るのだろうか。
このように、まだその年代になっていなくても、もちろん主人公より年上であっても、それぞれの視点から、今まさに社会に飛び込もうとしている女の子の考えていること、不安、希望を生き生きと見ることができ、いつ読んでも面白い作品である。この小説を読み終えた後には、お菓子を食べるたびに、実はこのお菓子が自分の手元に来るまでに何かストーリーがあるかもしれない、とワクワクするようになっているだろう。