文学部 4年生 Kさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)
書名 : 記憶屋
著者 : 織守きょうや著
出版社:KADOKAWA
出版年:2015年
主人公の遼一は、恋心を寄せていた杏子のトラウマを克服するお手伝いをしていました。その中で遼一と杏子は、消したい記憶を消してくれる都市伝説上の怪人「記憶屋」の話を知りますが、遼一は記憶屋をただの都市伝説だと考え、本気にしていませんでした。しかし、ある日、杏子が遼一とのやり取りも含めてトラウマに関する記憶すべてを忘れてしまいます。このことをきっかけに、遼一は記憶屋の存在を認め、そして正体を突き止めようと、記憶屋を探しはじめます。
この小説のテーマは、「記憶を消すことは良いことか悪いことか」であると考えられます。トラウマで苦しんでいた杏子の姿と人から忘れられることの痛みの両方を知っている遼一は、このことを悩みながら記憶屋の真相に迫っていきます。また、杏子以外にも記憶屋に記憶の消去を依頼した人物が登場し、その人物がどのような目的で、誰のどんな記憶を消すことを記憶屋に依頼したのかについても明かされます。
記憶を任意で消せるという非現実的な設定やそれによって生じる本小説のテーマは、共感しづらいかもしれません。しかし、この設定やテーマだからこそ、誰もがもっている記憶の普段は意識されづらい一面である、記憶は保有者だけのものではないこと、記憶の中には自身に関わってくれた人々が存在していることにスポットライトが当たり、人とのつながりの中に自分が存在することを改めて認識し、そして考えるきっかけを与えてくれるように思います。突飛な設定によって、日常生活で当たり前となっていて忘れがちなことに気づかされる点が面白いと思いました。
なお、本小説はホラー小説に分類され、作中では都市伝説を取り上げますが、怖い要素はないので、どなたでも安心して読めます。
また、つい読み進めたくなる記憶屋の真相に迫る過程だけでなく、相手を大切に思うからこそ記憶屋に記憶の消去を依頼した人物のお話も含まれているので、メリハリがあり、最後まで興味をひかれながら読むことができると思います。