
文学部 2年生 Sさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)
書名 : アウシュヴィッツで君を想う
著者 : エディ・デ・ウィンド著 ; 塩﨑香織訳
出版社:早川書房
出版年:2023年
本書は1943年9月、ユダヤ系オランダ人医師ハンス(著者)が妻のフリーデルとともにアウシュビッツ強制収容所に送られる所から始まる。到着するなり引き離された二人。僅かな食事しか与えられず過酷な労働を強いられる日々を送っていたハンスのもとに妻のいる実験棟では「教授」を名乗る男が人体実験を繰り返しているという噂が届く。居ても立っても居られなくなった彼は妻を助けるために、そして妻と二人で生きて収容所を出るために奔走する。
常に死と隣り合わせという絶望の中で人は誰かを愛することができるのかを問いながら、有刺鉄線の内側で妻を一途に想い続けたホロコースト生還者が書き綴った手記である。
真面目すぎるがゆえの真っ直ぐな行動から仲間からも厳しいことを言われることもあった。違反がばれて懲罰を受けたこともあった。名前も財産も、自分が持っていたもの全てを奪われてしまった。それでも妻フリーデルのために生きることをあきらめなかった著者。私はこんな状況でも人を愛することができるのかと衝撃を受けたとともに心を打たれた。
特に印象深かったのはハンスがフリーデルに対する人体実験を止めてほしいと直接医官に懇願しに行く場面である。もともと医師であった彼は収容所内の病棟で働いていた。しかしいくら面識があったとはいえ仕事の用事もなくいきなり医官に近づき一方的に言葉を投げるという行為はその場で、いや、医官に近づいた時点で殺されてもおかしくなかった。そんな状況の中で怖気づかなかったハンス。彼にとってフリーデルという存在がどれほど大切なのかを感じ取ることができる場面であった。
一度読み始めると独特の緊張感と焦燥感に襲われ、ひと時も目が離せなくなる。本書を最後まで読めばハンスとフリーデルのその後や彼らが収容所の中で触れた仲間たちの暖かさ、そしてハンスが直談判した「医官」が誰だったのかについても明らかになる。全てを知ったうえでもう一度読むのもおすすめだ。
