高橋ユキ著 『つけびの村 : 噂が5人を殺したのか?』

 

 

文学部 2年生 Sさんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : つけびの村 : 噂が5人を殺したのか?
著者 : 高橋ユキ著
出版社:晶文社
出版年:2019

2013年7月21日、山口県周南市金峰(みたけ)地区で起きた住民5人連続殺人事件を覚えているだろうか。「噂話をされている」「近所の住民みんなが自分の悪口を言っている」と思い込んだ男が住民5人を殺害し、被害者ら宅に放火した事件である。ニュースカメラに写された男の家には一首の川柳が。それは「戦慄の犯行予告」として世間を騒がせたが、全てが噂話に過ぎなかった。

本書はノンフィクションライターである高橋ユキが、ネットとマスコミによって拡散された噂話を一つずつ裏付けしながら事件の真相解明に挑む新時代の調査ノンフィクションである。住民数12人の小さな集落で起きた本事件。著者がその閉ざされた空間を切り開いていく。

狭く閉ざされた集落の中の風習、文化、そして噂話。私はどこかで「異質」に囲われた空間の存在をこの集落に期待していたのかもしれない。しかしいい意味でそれは裏切られた。本書で描かれているのは日本のどこにでもある田舎の日常なのである。「郷」「コープの寄り合い」「秋祭り」といったこの集落独自のものは存在するが、土俗因習や地縁血縁の呪縛、痴情のもつれなど直接事件に関係していそうなものは一向に出てこない。では住民自体はどうか。この点については猛烈な違和感があった。登場人物各々に少しずつ奇妙さ、そして不気味さを感じるのだ。そこに著者の体験描写が加わることでより一層の違和感を抱く。このうまく言葉では表現できない感情をぜひ味わっていただきたいと思う。

特に印象深かったのは「コープの寄り合い」である。被害者の友人で、自らも事件当時金峰地区に住んでいた元住民による証言でこの集まりの存在が明らかになる。この場で何が話されていたのか、誰が参加していたのか、どこでこの集まりが開催されていたのか。これらが明らかになったとき、この集落住民たちに抱いていた違和感に合点がいくだろう。

事件を再現した序盤部分によって、一気に本書に引き込まれていく。「この集落にはどんなに恐ろしい風習があるのか」「何か悪い部分があったのか」など大きな期待を抱くだろう。これらに加えて、次第に明らかになる「人間」の違和感についても考えてもらいたい一冊である。