サイモン・シン著 『暗号解読 上』

 

 

知能情報学部 4年生 山下 隼さんからのおすすめ本です。(KONAN ライブラリ サーティフィケイト)

書名 : 暗号解読 上
著者 : サイモン・シン [著] ; 青木薫訳

出版社:新潮社
出版年:2007

本書は、古代の単純な換字式暗号から、インターネット社会を支える現代の公開鍵暗号、そして未来の量子暗号に至るまで、数千年にわたる暗号技術の進化を描いた壮大なクロニクルです。

本書を貫くのは、情報を守ろうとする「暗号作成者」と、それを暴こうとする「暗号解読者」による、執念深いいたちごっこの歴史です。 古代ギリシャのスキュタレー暗号やシーザー暗号に始まり、それを「頻度分析」という統計的手法で打ち破ったアラブの賢人たち。長らく解読不可能とされた「ヴィジュネル暗号」の牙城を崩した19世紀の変人バベッジ。ある技術が「絶対」と過信された瞬間に、天才的な解読者が現れてその壁を突破していく様は、まるでミステリー小説のようなスリルに満ちています。

特に圧巻なのは、第二次世界大戦中のドイツ軍の暗号機「エニグマ」を巡る攻防です。アラン・チューリングら英国ブレッチリー・パークの天才たちが、数学と論理を武器にナチスの鉄壁の守りを崩していく過程は、本書の最大のハイライトと言えるでしょう。暗号解読がいかに戦争の勝敗を左右し、歴史の転換点となってきたかが克明に描かれています。

物語の後半では、現代のネット社会になくてはならない「公開鍵暗号(RSA)」の誕生秘話が語られます。「鍵を配送せずに、鍵を共有する」という、常識を覆す魔法のような数学的アイデアがいかにして生まれたか。そして、国家による情報統制と個人のプライバシーを巡る「PGP」の闘争は、監視社会化が進む現代において、より切実な問いとして響きます。

サイモン・シンの真骨頂は、難解な数学的理論を驚くほど平易に、かつエキサイティングに解説する筆力にあります。文系・理系を問わず、ページをめくる手が止まらなくなるはずです。 「情報は誰のものか」という問いがかつてない重みを持つ今、人類が積み上げてきた「秘める技術」の歴史を知ることは、現代を生きる私たちにとって必須の教養と言える一冊です。