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[藤棚ONLINE]経済学部・寺尾建先生コラム「〈幸せ〉と〈不幸せ〉のあいだ」

図書館報『藤棚ONLINE』
経済学部・寺尾建先生コラム「〈幸せ〉と〈不幸せ〉のあいだ」

 話題として今回取り上げる書籍は、直木賞作家である西加奈子氏の最新刊『くもをさがす』(河出書房新社、2023年)です。

 本書が今年の4月に出版されて以降、著者初のノンフィクションであることからも各方面で話題になっていることは知っていましたし、著者の西加奈子氏には会ったこともあり(正しくは、少し離れたところから見たこともあり)、そしてまた、2020年4月24日にYouTubeにアップロードされて、2023年6月26日時点までの再生回数が11万回を超えている動画(https://www.youtube.com/watch?v=F9mwmsYFh4k)を過去3年間の累計で10回以上視聴する程度には氏に関心を抱いてはいました(氏が好きだというミュージシャンが自分とまったく同じだったので、氏のことを他人とは思えなかったからです)。

 それでも、私は、本書を読むつもりはありませんでした。本書では氏が罹患した乳がんの治療についての詳細が記されていることがわかっていたので、読むと心がしんどくなるような気がして、そのことが怖かったからです。

 ところが、私が尊敬する文学部のA先生(A先生は、西加奈子氏に直接会って話をしたことがある人です)が本書を読んだ週に担当するすべての授業で本書についての話をしたという事実を人づてに聞き、すぐに取り寄せて読みました。

 読んで、心がしんどくなることがなくはなかったですが、人生とこの世界についての大切なことを学ぶことができました。それは、たとえば、「不幸そうに見える」と「不幸である」とは違うということ、そしてまた、「幸せそうに見える」と「幸せである」とは違うということ、それゆえ、「不幸そうに見えるけれども、幸せである」ということはありうるということです(同じ理由から、避けたいことではありますが、「幸せそうに見えるけれども、不幸である」ということもありえます)。

 「目に見えることは、実際のところ、どの程度がほんとうのことなのだろうか?」──このことを、人生とこの世界(そこには、自分にとって大切な人とその人生も、当然含まれます)について、忘れずにいつも心に留めておきたいという思いを、本書を読んであらたにしたところです。

「植物学の父・牧野富太郎」展示中!

 現在放送中の連続テレビ小説「らんまん」、ご存知ですか?
 毎日見てる!という方もいらっしゃるでしょう。今回の展示はその「らんまん」の主人公のモデル、 植物学の父と呼ばれた牧野富太郎博士がテーマです。

 その生涯を植物研究に捧げた理学博士・牧野富太郎(まきのとみたろう, 1862-1957)は、自身を「草木の精ではないか」というほど、つぶさに植物を観察・記録し、その知見と知る楽しさを一般市民にまで広めた偉大な研究者です。

 精緻な植物画はもちろん必見ですが、博士は植物を文章で表現されることにも長けておられ、エッセイも秀逸です。『牧野日本植物圖鑑』、明治時代の『植物学雑誌』、随筆集など、牧野博士に関する甲南大学図書館の蔵書を展示していますので、ぜひ一度ご覧ください!(展示してあるエッセイを読みたい方は、2階ヘルプデスクにお声がけください。)

 また、牧野富太郎に学んだ植物学者の一人に木村有香(きむら ありか, 1900-1996)がいます。木村博士は 甲南学園の創立者・平生釟三郎による育英事業「拾芳会」の奨学生で、平生先生は長くその研究活動を支持しました。
  木村有香 は、大正15年1月に六甲山(住吉村域)で発見したヤナギを、平生釟三郎にちなんで「ヒラオヤナギ」と命名しています。 「ヒラオヤナギ」は、 岡本キャンパス1号館前に植樹されていますので、1号館前を通るときに少し立ち止まって探してみてください。

ヒラオヤナギ

[藤棚ONLINE]理工学部・池田茂先生推薦「鏡の中の物理学」

図書館報『藤棚ONLINE』
理工学部・池田茂先生推薦「鏡の中の物理学」


 私の研究室の書棚にある教科書や専門書に紛れて、解説を含めても全部で129ページの薄い一冊の文庫本があります。今日紹介するのはこの本、「鏡の中の物理学」です。1965年にノーベル物理学賞を受賞された朝永振一郎先生が執筆された短編集で、第1刷が1976年に発行されていますので、半世紀近く前に世に出た本ってことになります。3つの短編が含まれており、そのなかの1つ目がこの本のタイトルとなっているお話で、鏡に映った世界と現実の世界という私たちの日常にある場面を通して、相対論がどのような理論であるかが説かれています。後半の2つの話では、量子論に関する考え方について、たいへんユニークで独特な書き方で説明されています。

 この本を買ったのは多分大学院在学中だったかと思います。どんな思いで買ったかはよく覚えていませんが、処分せずにずっと書棚の片隅にありました。改めて拝読すると、「而して」など、ちょっと最近は拝見しない表現も混じってはいますが、平易な文章のなかにユーモアがあってとても読みやすく、知的好奇心をくすぐられる名著であることを再認識しました。ただ、一読して相対論や量子論のアウトラインがわかるのかと言われると、その辺はなかなか初学者にはきっと難解で、先生が説きたいことを本当に理解するには、これらの学問をしっかり深く学ぶことが必要かなとも思いました。

 この本のもう1つの(隠れ)テーマとして、「どうして科学をやろうとするのか」が述べられています。ともすれば目先の成果や社会的なインパクトに流されがちな(自然科学)研究の本当の在り方について、先生の考え方が強いメッセージとして書かれているように感じました。駆け出しの研究者であった若かりし私がこの小さな本をいつまで手放さなかったのは、現在の私が研究することの意味を見誤らないようにするため、「初心忘れるべからず」と思ってのことであったのかもしれません。

語学学習室で展示実施中!

 語学学習室には朗読CDの付いている本があるのを知っていますか?
「知らなかった」「知っているけど本だけ借りている」ではもったいない!

 英語はどのように発音され、どう聞こえるのか。
 CDで実際に聴いてみて、リーディング力だけでなくリスニング力も一緒に鍛えてみませんか?

 今回の展示は皆さんになじみのある物語を選んでみました。
 この機会にぜひ、CDも借りてみてください!

25冊多読チャレンジ 達成者インタビュー

伏見 祐輝(ふしみ ゆうき)さん 知能情報学部 知能情報学科 4年次生

2023年3月29日に『多読チャレンジ』25冊を達成されました!
3年生時に引き続き、今回で2度目の達成となります!

 以下は、ご本人のアンケートによるものです。


Q.『多読チャレンジ』に挑戦しようと思ったきっかけは何ですか?

A.図書館ブログで毎年1年生から卒業までコンスタントにチャレンジを達成している人を見て、 自分も再チャレンジしようと思いました。

Q.『多読チャレンジ』達成の感想や達成のために工夫したことを教えてください。
また、現在チャレンジ中の「多読チャレンジャー」の方へのメッセージがありましたらお書きください。

A.プライドを捨てて、中学校の教科書みたいなレベル0のものから読むのがオススメです!

Q.『多読チャレンジ』を終えて実感した効果を教えてください。

A.2021年度にレベル0を読んでいたころからすると、信じられないくらい長いものが読めるようになりました。

Q.チャレンジする図書は、どのように選びましたか?

A.Book Reviewは知らない本と出会うのに役立ちました。『Fahrenheit 451』と出会ったのは、語学学習室内の展示棚のBook Reviewでした。


 甲南大学図書館では、多読チャレンジャーを随時募集中です。
 英語多読学習に興味のある方は図書館1階カウンターでエントリーしてみてください!
 25冊以上達成すればKONANライブラリサーティフィケイトの2級以上の要件にも適用されます!

[藤棚ONLINE]図書館長・杉本喜美子先生(マネジメント創造学部)コラム「遠まわりのすすめ」

図書館報『藤棚ONLINE』
図書館長・杉本喜美子先生(マネジメント創造学部) コラム

 みなさんは本を読みますか?どんな理由で目の前の本を選んでいますか?

 昨年末より『天才読書』という本が話題です。“天才たちの頭の中”を見せてもらうことをコンセプトに、テスラ/アマゾン/マイクロソフト創業者らがどのような本を読んできたかを知り、(1) 読書には人生を変える力があること (2) どのような本を読んで成功に到達できたか、を知ることができます。同じ本を読んでも同じ行動ができないのはみなさん承知。とはいえ凄い方々から少しでもヒントを得たいという気持ちもあり。このあたりが、ヒットにつながっているのでしょう。読書は時間がかかるし、そのうえ得た“何か”を表現しにくいもの。小説を読んで“じんわり、ほのか”に感動。新書を読んで“あっ、そうか!”と腑に落ちる。こんな一瞬のために膨大な時間を費やすなんて、楽しいこと盛りだくさん、かつタイパ重視のみなさんにとって、魅力のない趣味かもしれません。

 しかし、先述の本は、(3)成功した方でも読書に膨大な時間を使っていた=人生においては遠まわりこそ大事、ということを示した点で、いい本といえるのではないでしょうか。たくさんの本の中で、自分の読む本が自分の人生にプラスになるかは分からない。だけど、普段の生活から少し離れて、静かに自分と本だけの時間に飛び込んでみる経験は、これからのみなさんをどんな形で支えるかわからない。私は小説が好きですが、主人公の良い/悪い行いの背後にある“深い想い”に触れるといつも、自分の人を見る浅さに気づかされます。人は複雑で御せないもの。だけど“想い”だけが互いの心を動かし、世の中を変えるんだと感じることができます。大学での図書館の使い方はいろいろ。心を整える休憩場所として、みなさんをいつもお迎えしています。

 遠まわりをして、自分を取り戻しませんか?

 自分の学びのなかで関心のある2冊を紹介します。

『創造的破壊の力 資本主義を改革する22世紀の国富論』東洋経済新報社
 フィリップ・アギヨン, サイモン・ブネル, セリーヌ・アントニン(著)
 村井章子(訳)

『入門 開発経済学 -グローバルな貧困削減と途上国が起こすイノベーション-』中公新書   山形 辰史 (著)

 普段、西宮キャンパスで開発経済学を教えていて、人々の暮らしをよくしていくために経済学はどう貢献できるのかを考えています。どうすればイノベーションを起こしやすい社会になり、持続的成長を達成できるか?成長・繁栄を平等に享受できる社会になるには、どのような制度が必要か?現実社会と学問がどう繋がるのかが分かる2冊です。


【図書館事務室より】
 藤棚ONLINE2023年度第1号は、今年度新たに図書館長に就任されましたマネジメント創造学部教授・杉本喜美子先生より、コラムとおすすめ本紹介でした。
 効率重視の目的一直線な行動に比べると遠回りに思える読書の良さ、というお話しでしたが、どうせならKONANライブラリサーティフィケイトにエントリーして、認定証や記念品と一石二鳥を狙ってみるのはいかがでしょう!(このくらいの効率狙いはまあ許容範囲ということで…)
 図書館では、HPだけでなくTwitterやこのブログでも情報発信していますので、定期的にチェックしてみてくださいね。学生の皆さんのご利用をお待ちしています。